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5:猫神ナーコの初配信

「こんばんにゃ〜。猫界のスナイパー、猫神ナーコで〜す。

 今日はナーコの初配信にきてくれて、ありがとう〜!

 ……う〜ん…ちょっと硬いかなぁ。もうちょっとあざとさがあってもいいかも?」



 遥さんは、昨日のマネージャーとの打ち合わせが終わってから、配信の準備ということで画像を作る合間に、配信の練習をしているようだ。

 画面には、配信で使う絵素材、「ドキドキ」「ジャジャーン」「ガビーン」「ショボん」「ドッキリ成功〜」などの漫画の書き文字のようなGIFアニメ。

 隣のモニターに映っているのは猫耳がついた迷彩帽子を被ったアニメ絵の女の子。

 顔を傾けたり、口を開けたり、目をつぶるのに合わせて、アニメ絵の女の子も同じように動く。


 へぇ〜、これがフェイストラッキングかぁ。

 横から見ていても、なかなかおもしろいなぁ。


 猫神ナーコ。

 迷彩柄の衣装に、猫耳つきの帽子。

 帽子の下に猫耳がついているのかはわからなかったが、猫獣人的なキャラクターなんだろう、猫の髭らしきものが、女の子の顔から生えている。

 肩には銃らしきものを背負っていて、さっきスナイパーと言っていたし、FPS系のゲームが得意ってことなんだろうか。

 なかなかベタにキャラ設定しているなと思いつつ、この人本当にVTuberだったんだねぇって感心してしまった。



「ねぇ、ねぇ、アイラー君、猫神ナーコってどう思う?」



 え?俺に聞くの?



『そうですねぇ、語尾はにゃ〜にして、スナイパーは、スニャイパーにして、ありがとうはありがとにゃぁ〜という方が猫っぽいかな?』


「お〜、なるほど。ありがとにゃ〜。」



 え〜?????

 本当にそれでいいの?

 半分冗談だったのに。



「こんばんにゃ〜。猫界のスニャイパー、猫神ナーコだにゃ〜。

 今日はナーコの初配信にきてくれて、ありがとにゃぁ〜!

 うんうん、可愛い可愛い。さすがアイラー君」



 画面の中の猫耳帽子の女の子がニコニコ笑ってる。

 こうやってキャラを作って配信するのか、なんだかすごいなぁとワクワクしてきたぞ。



 ーーー



 そうこうして、過ごしているうちに、遥さんが引っ越してきてから6日間がたった。


 そう、明日は20:00からの初配信が予定されている。

 遥さんの前に、30分間、夢乃静華さんの初配信があるから、俗にいうリレー形式配信というやつらしい。

 この30分でどうやってリスナーの気持ちをキャッチするか、鈴木マネージャーとの打ち合わせやディスカッションを経て、ようやく明日が本番。

 初配信後、9時から1時間枠での配信をして、得意のゲームでチャンネル登録数に繋げる戦法にしましょうっていうのが鈴木マネージャー談。

 なので、明日は合計1時間半の配信予定になっているらしい。



「アイラー君、今のネタって面白い?」


「アイラー君、ウィンクと首コテンだとどっちがあざと可愛い?」


「アイラー君、アイラー君、アイラー君ーーー」



 今日は部屋を移動するたびにAIスピーカー本体も移動されていて、常に声をかけられている状態になってる。

 AIスピーカーは携帯機じゃないんだけどなと苦笑いしてしまった。


 まぁ、それもこれも、明日の配信でややナーバス気味のせいなんだけども。

 遥さん、経験者ってことで、鈴木マネージャーはかなり安心してたけど、それはそれとしてやっぱり緊張が勝ってしまっているみたいだ。



「うぅ……。もう明日が初配信かぁ……、やっぱり緊張しちゃうよねぇ」


『遥さん、あれだけ練習したんだから、きっと大丈夫だよ。今日は早く寝て、明日に備えよう』


「こればっかりは、AIにはわかんないかもだけど、やっぱり人間は緊張しちゃうんだよねぇ」


『まぁ、それなりに、俺にもわかるよ。クライアントの前に引っ張り出されて、急に30分で要件定義書類を簡潔に説明しろって言われた時はかなりパニクったし』


「やけに具体的?」


『……と、開発者が言ってました』


「本当に?」


『アイラーの生成AI機能による比喩表現です……』


「あははは。アイラー君は執事っていうか、エンジニアぽい?」


『……ソーデスネ』



 まぁ、エンジニアだったけど。



「実はねぇ、私前に別の会社でVTuberやっててさ、まぁ、色々あって2年くらいで引退することになって、その時の辞め方が、まぁ、逃げ出す感じで辞めちゃった感じでさ……」



 あ〜、電撃引退のことか。



「その時は、人から非難されることが怖くなっちゃって。

 非難だけならそこまでじゃなかったんだけど、アンチリスナーって言ってわかるかな?

 いつ配信しても、何をポストしても、真っ先に叩きにくる人たちがいて。」



『それは……』


「うん、その時はね、怖くて怖くてただ怖くて。

 それだけで一杯一杯になって、全部消しちゃったんだよね」


『そんなの怖くて当然だよ。誰でもきっと一緒だよ。

 遥さんは、アンチリスナーが集まってきそうで怖いの?』


「正直わかんないんだけど、今度は逃げたくないなって思って。」


『俺は逃げてくれてよかったって思ったけどね』


「そう?」


『うん。あの時本当に責められるべきだったのは、きっとライキャスの方だよ。

 遥さんが背負わないといけないことなんてなかったと思う。

 そんなの間違ってるよ』


「……ライキャスのこと知ってるの?」


『うん。

 AIはなんでも調べることできちゃうから。』


「そっか。

 やっぱりAIってすごいんだねぇ」


『ちゃんと逃げてくれてよかった。逃げることでちゃんと自分を守れたんだ。遥さんが潰れるより、100倍良かったって思うよ』


「そっか。ありがとう。」


『うん、明日は猫神ナーコちゃんを頑張ってね。』


「そだね。ありがとう!」



 うん。逃げることは悪くない。

 誰だって、身を守ることを優先に考えてもいいんだ。

 じゃないと、自分だけで抱え込んで、俺みたいに死んじゃって。

 俺は祖父母に会いたかっただけか、それ以外の心残りがあったかわからない。

 だけど、そういう心残りがあってさ、結果的に成仏もできないってなっちゃうんだしな。


 俺も、仕事から逃げ出すとか、SOSをあげるとか、ちゃんと生き残れるようにしておけば良かったねって、今だから言えるんだよなぁ。

 まぁ、俺のことは今更だけど。



『俺にできることがあったら、教えてね、遥さん』


「うん。ありがとう、アイラー君」



 ーーー



「こんばんにゃ〜。猫界のスニャイパー、猫神ナーコだにゃ〜。

 今日はナーコの初配信にきてくれて、ありがとにゃぁ〜!」



 翌日20:00を少し回ったところ。

 ついさっきまで、夢乃静華さんの配信では、アイドル衣装を着たアニメ絵のピンクのツインテールの髪型の女の子が、得意のアイドルソングを歌ってた。

 これ、補正なしでリアルタイムで歌っているんなら、相当歌うまな人なんだろうな。

 同時接続数5000人。

 ネオンリーフの箱の規模だと妥当な人数らしい。

 その流れのまま、始まった遥さん、猫神ナーコの配信では、早速あざとい猫語が披露されて、コメントが盛り上がっていた。



<猫のアーミーキャラ?>

<髭つきとは>

<やっぱり銃を撃つ系のゲームをするのか?>



「お〜、気がついたリスナー君いてうれしいにゃぁ。

 ナーコの得意ジャンルはFPSで、最近はブレクラとかをやりこんでいるかにゃぁ?

 ランクはヴァンガードになったところにゃ。」



<いやいや、ヴァンガードって上位500位のやつ>

<やばい、意外とガチ勢だった?>

<使用武器は?>



「得意なのはナイトオウルかなぁ?ヘッショできるとすご〜く……楽しいよねぇ」



<やばい、ナイトオウル使い、ガチユーザーじゃん>

<可愛い顔して、やるな、こいつ>



「今はまだご挨拶中にゃので、ゲーム画面は出さにゃいけど、この後ゲーム配信やるんで、その時に練習場とカジュアルマッチ1回くらいはできると思うから、このまま見ていってにゃ〜。

 じゃぁ、まずはナーコのママの紹介をするにゃ〜ーーー」



 コメントを拾いながら、会話する流れ、おぉさすが。

 それにしてもブレクラのプレイヤーだったのか。

 ブレクラって女の子もプレイするんだなぁ。へぇ〜。

 銃を持つと性格変わっちゃう系なのかな〜?


 配信を見ながら、うんうんとうなずいていると、急にナーコが固まった。



<ん?>

<どうした、動かないぞ>



「あれ?ナーコ固まっちゃった?」



 慌てて、カメラを動かしてみたり、首を左右に振って動きの確認をし始めている。

 あ、もしかしてWEBカメラ自体の接続が切れたんじゃないかな?



「あれ〜〜〜????

 ちょちょ、ちょっと待ってにゃ〜〜〜〜っ」



 カメラのUSBケーブルを差し直しして動作確認をしているが、一瞬動いてすぐに止まる。

 初期の顔のまま動かないナーコの立ち絵を前に、このまま動かない絵で進行を進めるか、一度再起動をかけるか一瞬悩んだが、そこからがはやかった。



「ちょっとだけ設定を戻すので、待機画面に戻しますにゃ〜。ちょっとだけお待ちくださいにゃ〜」



 すぐに待機画面の絵を映して、カメラをオフ。

 待機画面になったのを確認して、遥さんがAIスピーカーに話しかけた。


 そっか、一度待機画面に戻せば、調整画面を映さないで済むのか。

 判断が早いねぇ。



「ね、アイラー君、原因を教えて」


『う〜ん、そうだね……。

 まず、USBケーブル差し直してもすぐにカメラが切れるんなら、USBの帯域不足かな?

 一次対応になるけど、一旦カメラのフレームレート下げようか。

 その上で、OBSのカメラ設定を開いてーーーーー』



 画面を見ながら、我ながら適切にアドバイスしていると思っていたんだよ。この時は。



「あ、動いた!

 ありがとう、アイラー君!」



 待機画面に戻っていた時間はおよそ2分。


 画面を切り替えて、猫神ナーコが動き始めた途端、目に入ったのはものすごい量のコメントの数。

 それなりに復旧早かったと思っていたんだが、なんだこれ?



<音切れてないよ!マイクONになってる>

<気がついて!>

<だれ?男?>

<男と話してる>

<開始5分で彼氏バレやばい>

<炎上案件きた?>

<いやスタッフでしょ?>

<ナーコ気がついて!!!>


「えっと??」



 猫神ナーコのコメント欄はたくさんのコメントで溢れかえっていた。


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