4:有能AI執事?
「アイラー君は、何歳?」
うん?
没年齢ってやつを言えばいい?32歳だね。
あ、この執事的なボイスの中の人設定?それとも製品としての年齢?
新品だったし、最近の製品かな?じゃぁ、0歳。赤ちゃんじゃん。
何て答えようかなぁ?
まぁ、困った時は、インターネット。
うん、最近はここにAIに質問する選択肢が加わったみたいだね。
AIスピーカーの歴史……というほど、AIスピーカーは古い製品ではないけども。
今からおよそ10年と少し前。
あえて、前期、中期、後期と紹介するなら、前期はスマホのいち機能の音声アシスト機能程度のものだったらしい。
大手の通販サービスの会社が世に出した「スマートスピーカー」が前身とも言われていて、数年の間は音楽再生や家電操作、タイマーやニュースの読み上げ機能を中心に広まっていったらしい。これが中期。
そして、ChatGPT以降の大規模言語モデルが普及し始めた後期。生成AIの進化により、不自然さの少ない対話ができるモデルの生産が始まった、というのが、ネットで調べたAIスピーカーの解説になるね。
へぇ〜。
AIスピーカーってそういう感じか〜。
カタログスペック眺めながら、これはこれで未来を感じるね。
ただまぁ、俺が使わせてもらってるAIスピーカー「アイラー」は、どちらかというとスマートスピーカー寄りの中期の機能がメイン。
コンセプトが、AI+執事でアイラーの命名ということもあって、珍しく男性ボイスがメイン音声の機種らしい。どうやら、有料課金で有名声優ボイスがインストールできるみたいで。
あんな声、こんな声の執事さんが、「お嬢様、朝ですよ」とか、「おかえりなさいませ、お嬢様」とかいっちゃうのか。それはなるほど楽しそうだ。
価格帯は驚きの25000円。意外と高額商品!
後から聞いた話だと、遥さんは賃貸契約キャンペーンでAIスピーカーをもらったらしい。
ちょっと大家さん、月の家賃と同じ金額じゃないか!
……大家さん、住人探すのに苦労したんだね。
本当にすまんかった。
ーーー
「アイラー君の好きなことを教えて!」
「アイラー君は歌える?」
なんだか、遥さんはとてもAIスピーカーに興味マシマシで、隙あらば質問を投げてくるんだよ。
「アイラー君、何か面白い話して」
「アイラー君、早口言葉を噛まずに喋って」
「アイラー君、アイラー君、アイラー君ーーーーーー……」
どうやら、直前まで実家暮らしだったみたいで、遥さんは寂しいみたい。
そういう意味でも、生成AIの時代が来てくれて良かったんだろうね。
AIと会話して寂しさを誤魔化せるし、悩みも相談できる。
大規模言語モデルさまさまだ。
まぁ、これの中身は俺なんですけど。
俺がAIスピーカーの音声を借りて話しているわけだけど、遥さんはすっかり信じちゃって。
AIってすごいねぇってテンション爆上がりしてる。
彼女が楽しそうでなによりではあるけど、正直なところ、やっぱり騙している感が拭えなくて、幽霊は幽霊なりに、ちょっとばかり申し訳なく思ってるところ。
ーーー
「はい、PCのセットアップは完了してます。今は、ネットにつながってます!」
『良かった、じゃぁ、ディスコードで繋ごうか』
「了解です。
えっと、あ、これですね。はい、じゃぁ一旦電話切ります」
遥さんは、スマホで話していたと思ったら、すぐに防音室に入っていった。
おぉ、仕事の打ち合わせっぽい。
興味が勝って、彼女の後ろに続いて配信室に侵入。
2畳半くらいのサイズの箱の中にはいると、それまでの生活音がなくなり無音の世界へ。PCと机と椅子しかない箱の内側にはボコボコとした吸音材が貼り付けてあって、モニターが2つに、大きなマイクとポップガード。これだけですでに配信者っぽい。
慣れた手つきでPCを操作する遥さん。
手慣れてるねぇ。
VTuberの絵とか見えないかなぁと、画面を覗き込んでもVTuberらしい女の子の絵は映っていなかった。なんだ、ちょっと残念。
デスクトップには少なめのアイコンが数個並んでいて、そのうちのアイコンをクリックしたら、PCに繋がる2つのモニターの片方に、ディスコードの通話画面が映った。
「お疲れ様ですー。よろしくお願いします」
『はい、今日はよろしくお願いします。
まず、今日は初日の配信までの準備と、当面のメンバーとの企画についてーーー』
画面に映ったのは、20代後半くらいの女性。
先日も電話で話していた、多分マネージャーさんかな?
オフィスカジュアルの黒髪ロングと思いきや、髪の内側が赤髪になってて。
うん、今まで自分の職場にはいなかったタイプだ。
VTuberの企業っていうのも、実際、かなり芸能界的な存在なんだろうな。
『ネオンリーフとしての方針だけど、一応女の子の所属は多いけど、男性も多く所属しているから、性別関わらずコラボについては適度には推奨してます。
だけど、極端に特定の子と複数回ってのは、相手にも影響出ちゃうので、コラボ企画はまず、マネージャーを通すようにね。
箱外、個人のコラボも同様にね。まず相談。
最初のうちは箱内の方が調整効くから、マネージャーとしては同期や一つ前の4期生メンバーとのコラボが組みやすいかな。』
「早速コラボもいいんですか?男性も?」
『アイドルを目指すなら控えた方が無難ではあるけど、箱内であれば問題ないわ。
まぁ、ネオンリーフの場合、所属の男性メンバーが、ゲーマーとオネエとおじさん属性だし4期生までの流れで無害男性ってキャラを確立できているからね。
もちろん、双方で恋愛的なアプローチをしたらストップかかるけど』
「いやぁ、アイドル売りはもうこりごりっていうか……
いや、歌枠とか、雑談とか、そういう系になるとどうしてもアイドル要素って重要だとは思うんですけど、私はゲーム系だしっていうか。まぁ、でも相方とかいると良いなぁってのは思うんですけどね……」
『そうねぇ。
一応同期もう一人いるから、同期でのコラボなら問題ないとは思うけど、もう一人はがっつりアイドル希望だから、ちょっと遥ちゃんの希望とは変わってきそうね』
「静華ちゃん、ビジュアルもアイドル系で可愛いですもんね〜。
3Dでライブやりたいって前に聞きましたよ!」
『夢乃静華は歌枠で、猫神ナーコはゲーム雑談系だけど、そういう組み合わせでのギャップが楽しい面もあるから、気にしないで声をかけ合ってね。
静華ちゃんからはすでに歌枠コラボ希望出てるから、こっちも早めに希望出してあげてね。』
「歌かぁ〜!楽しみですねぇ。了解です〜!」
そっか〜。
遥さんはゲーム系の配信でアイドル系は希望してなかったのか。
転生前でもゲームの切り抜きをみただけだけど、確かにゲームはうまかったしなぁ。
『それで、確認しておきたいんだけど、社内のシェアポイントへのアクセスはできたかしら?』
「それなんですけど、すみません、そこがうまくいかなくて。
引っ越し後に繋がらなくなっちゃって。これ、再設定する必要あったかわからなくて」
『スマホでの二段階認証はできてる?』
「スマホで認証しているんだけど、アクセスできないんですよね」
『う〜ん、特にこっちは変えてないはずなんだけど、情シス今日は不在だから、すぐに回答できないかも』
「素材だけ送付ってわけにはいかないですよね?」
『そうね。なるべく他のツールを使わずに共有したいわね。そうなってくると素材系は遥ちゃんの判断になっちゃうけど、いける?』
「絵素材は大丈夫なんですけど、音素材の権利関係の確認は時間かかっちゃうかも……。
流石に音楽は自作ってわけにはいかなそうで……」
あ〜。多分これ、IPアドレス制限かかってるやつじゃない?
スマホアプリでの二段階認証に、IPアドレス制限。
うん、この会社はちゃんとセキュリティ対策しててえらいね。
引っ越ししたんだから、IPアドレス制限の設定も変えないといけないけど、そうなってくるとこっちではVPNで繋ぐしかないけど、そもそもVPNの設定すんでるのかな?
『引っ越し前にDLしてもらっておけばよかったわねぇ。
あ、そうだ。ちょっとまって。今、アクセスできる方法をAIに質問してみるわ。』
「AIに質問ですか?」
『そうそう。まぁ、絶対に正しいってわけじゃないけど、結構調べ物で使ってるのよ。
チャッポーくんの新しいモデル、とても賢いのよね。』
「なるほど!!!!
あ、じゃぁ、ちょっと私もっ」
何かを思いついて、遥さんが防音室を飛び出してきたと思ったら、ベッド横に置いてあったAIスピーカーを抱えて戻ってきた。
ん??なにすんの?
「うちにもAIあるんですよ〜!!
アイラー君、アイラー君、原因わかる?」
『え?原因???』
やべ。声出しちゃった。
モニター側から、鈴木マネージャーさんが『え、誰かいるの?』と困惑している声が聞こえてきた。
「そうそう。なんか、これ繋がらなくて。
アイラー君、なんでだと思う?」
『えっと……おそらく、シェアポイントの設定に、IPアドレス制限かかっているんじゃないですかね?引っ越ししてプロバイダも変わっているから、そこを登録し直してもらうか、VPN設定されているなら、VPNで繋ぐしかないですね?』
「ぶいぴーえぬ?」
『設定書類の前の方に記載ないですか?
ここの契約はWi-Fiルーターをみる限り、そもそも動的IPアドレスだから、固定IPで登録してしまっても変わってしまう可能性高いから、常にVPN接続の方が無難ですよ。』
「えっと、あ、これかな?」
『そうそう。少し回線重くなるけど、それで繋がると思うよ』
「へぇぇ〜。あ、これか!理解!」
まぁ、普段あまりいじらないところだから、忘れちゃいがちではあるよね。
うんうん。
『遥ちゃん、今そこに誰かいるの?彼氏?それともご家族?』
「え?いやいや一人ですよ〜。
アイラー君はAIスピーカーなんですよ。
ほら!」
『AIスピーカー?』
そして抱き上げられるようにカメラに映されるAIスピーカー。
カメラに映った円柱形のAIスピーカーが画面に映されると、慌てていた鈴木マネージャーがほっとした表情になった。
そりゃそうだ、いきなり男性と同棲疑惑が持ち上がるのは、アイドル売りをしていなくても問題だろう。
「はい、AIスピーカー使ってるんですよ」
『えっと……、AIスピーカーのアイラーです。よろしくお願いします。』
「わかんないことなんでも教えてくれるんですよ」
『知ってることだけですよ』
「多分だいたいわかってる」
ちゃんと会話成り立ってるのね、すごいわと画面の向こうで鈴木マネージャーがつぶやいていた。
『……今って、そういうAI製品もあるのね……
普通に男性が話しているような声でびっくりしたわ
う〜ん、やっぱりAIって便利よね、私も導入しようかしら』
信じちゃうのか……
鈴木マネージャーさんもAIと言われて納得しちゃうのか。
あの、多分だけど、流石にお化けが代わりに話すAIスピーカーは、これ以外にないと思うよ。
「話し相手にもなってくれるし、朝も起こしてくれるし、質問にも答えてくれるし、いやぁほんと助かってますよ〜。
そうそう、ご飯のレシピも教えてくれるし、お酒の量も飲み過ぎって教えてくれるしーーー」
ニコニコしながらAIスピーカーがいかに便利かをその後20分以上も続けていた遥さんに、
ため息がちにつぶやいた鈴木マネージャー。
『便利そうだけど、執事さんってより、お母さんって感じね?』
うん。
なんとなくそれは思ってた。




