3:永遠の3番手
俺が生きてた頃の話だけど、世界的規模の感染症が流行って、自宅に引き篭もりを強制された時期があった。
かくいう俺も引きこもり生活で、まぁ、リモートはリモートで悪いことばかりじゃなかったけども。
配信を垂れ流しての、ながら仕事なんて、本当は怒られちゃうけども、まぁ、みんなやってたわけだ。
んで、俺みたいなのがいっぱいいたんだとは思うけど、ネット配信が人気になってて。
配信者も増えるし、VTuberのブームも到来して、個人だけではなく企業の参入も増えていったっけ。
その中で、俺も記憶している一つの企業。
ライキャス事務所。
かなりやり手、率直にいうなら悪どい商売してるな〜って箱でさ。
所属するグループのメンバーの序列を決める人気投票を定期開催するんだ。
人気上位者にはグッズの販売やイベントの開催などでの優遇があるなか、序列最下位は強制脱退という、脱退をお祭りごとにしちゃうっていうのがね、いや、ちょっとどんびくっていうか。
スパチャでの集計額を公表したり、企業主催のイベントでスパチャランキングを発表したりだとか、まぁ、結構な頻度で炎上していた企業だったね。
それでも人気だった理由が、結局は女の子たちの努力だったのかもしれないし、そういう競い合う土台作りが平成のアイドルオーディションさながらの状態で、俺たちの票が推しの命を助けるんだーってばかりに、スパチャ破産するやつもいたんじゃないかな。
まぁ、娯楽として見るなら、その競い合う様子もある意味一定の評価を得ていたからかもしれないけど。
当時、所属は12名。
2ヶ月ごとランキング入れ替えを行なっていた中で、少し特殊なVTuberがいたんだ。
それが、桜丘まーる。
どんなに上位、下位の順位が入れ替わっても、まーるだけは常に3位。
前回の1位が7位に落ちたり、逆に10位だった子が2位に躍り上がるような、かなり入れ替わりが激しかった中でも、彼女は3位。
所属していた2年の間ずっと3位。
だから「永遠の3番手」と揶揄混じりの二つ名がついていたなぁ。
ーーー
まぁ、当時の俺は、どちらかというとゲーム配信を見るのが好きだったから、ネットでこの二つ名付きのVTuberの名前は知っていても、何度かゲーム配信の切り抜きを見たくらいで、実際の配信を見たことがなかったんだよね。
へぇ〜、また3位だったってSNSで話題になるのを見かけるくらい。
だけど、ある時その3位が、話題作りのためにデータ改竄してたってことで炎上したんだ。
最初の2、3回は偶然だったらしいけど、特にこういう話題がセールスにも関わってくるっていうんで、途中からは人気のあるなしに関わらず3位。
同じように本当はもっと低い順位だったのに、社長の身内だからということで1位にしていたタレントもいた、なんて話もあがって来てたね。
「私は……知らなかったです……。
だけど、不正をしていた事実は変わりません……
リスナーの皆様に申し訳ないです。
本当に、ごめんなさい……」
これ、悪いのはライキャスのほうじゃないか?
桜丘まーるは、少しばかり天然が入った女子高生キャラで、元気いっぱいが売りだったんだけど、謝罪会見のような配信では見る影もなかった。
その配信で、ライキャス脱退を宣言してた。
企業所属から個人VTuberになって配信を再開しようとしたけど、個人での初回配信でアンチによる過剰な攻撃を受けて、大荒れ。
その様子を見て、桜丘まーるは電撃引退。
潔いというか、まぁ、なんだか色々あったんだろうなとは思うけど、個人再出発の初回配信で引退発表という流れは、かなり衝撃的だったね。
彼女のアカウントは、企業も個人も残らずに削除された……というのを、実は彼女が寝ている隙に、PCからネットに繋げて検索しているところ。
ネットは便利だなぁ。
でも、今や本人のアカウントは残ってないのに、切り抜きだけが色々残っているっていうのもネットの厳しさを感じるねぇ。
そうそう。
調べるついでに、思わず自分の名前を入れて検索してしまったけど、俺くらいのレベルだと死んでも別にニュースになったりはしないらしい。
勤めていた会社は相変わらずエンジニアを募集していた。
ーーー
『朝ですよ。起きてください』
『朝ですよ。起きてください』
『朝ですよ。起きてください』
『朝ですよ。起きてください』
『朝ですよ。起きてください』
『朝ですよ。起きてください』
起きない。
全く起きない。
こういう時、AIはどういうアクションをするのが正解なんだ??
声をかけるたびに、布団に丸まっていって、今は立派な団子ができてる。
こうなったら、仕方ない。
『宮下ぁぁぁ、遥さぁぁん』
「ふぇ⁉︎」
枕元に置いているAIスピーカーの音声最大。
名前呼び。
名前呼び効いたな、よし。
これでだめなら、ラップ音くらいしか持ちネタないぞ?
ラップ音は流石に使っちゃダメじゃん。
「あれ?……ん?……あ、おはよう…」
『起きましたね。
おはようございます。遥さん。
本日は晴れのち曇りです。
気温は22度です。
9時にアラームが設定されていたので、何度か起こしましたが、もう9時20分ですよ。
お時間は大丈夫ですか?』
音声のボリュームを元に戻して、こう、落ち着いたおじさまボイスで話しかけたよね。
どうよ、この執事ムーブ。気持ちはセバスチャンだ。
遥さんはどうやらかなり朝に弱いタイプみたいだ。
布団の中でウニョウニョ転がって、なかなか起き上がってこないので、まるで漫画の執事が不出来なお嬢様を起こすような気持ちになってしまった。
世の中の執事さんもこんな苦労してるんだろうか。
「う、んん……まだ大丈夫……。
マネさんとの打ち合わせは、たしか……」
『鈴木マネージャーとの打ち合わせは、10時にディスコード通話の予定です。』
「……うわ〜〜〜、今日のアイラー君、なんだかすごく秘書っぽい〜。
でも、もうちょっと友達っぽく話してほしいな〜。
昨日みたいな、普通の感じがいいなぁ!」
おっと。
俺のAI執事プレイがダメ出しされたぞ。
ん〜、ま、いいってんならいいか。
『りょ、りょーかい。
じゃ、とりあえず、打ち合わせ前に朝ごはん食べておかないと。
朝風呂派なら、お風呂追い焚きするけど、どう?』
「あはははは。
無茶苦茶フレンドリーになったw
なにこれ面白い」
『AI機能により、カスタマイズできるんで』
「え、じゃぁ、弟キャラにもできる?」
『お、弟?
え、あ、う〜ん……。
お、おねぇちゃん、早く、朝ごはん食べよぅよ〜?』
「あはははは!声が低音の弟キャラ似合わな〜い」
『え、ひどい。』
んまぁ、確かにこの声は、どっちか言ったら低音だしなぁ。
この声質で30すぎたアラサーが、しょたボイスなんぞ出せるはずがないって。
いや、音のピッチをあげれば、高音もいけるか?
今度調整研究しておくか?
「や〜、でもやっぱりAIってすごいんだなぁ〜。
めちゃくちゃ自然に話してくるじゃない〜。普通に中におじさんが入って話してるかと思ったよ〜」
『……そ、ソウデスカ?オキニメシタナラヨカッタデス』
「あははは〜。」
それにしても、本当にこの子大丈夫だろうか……。
俺の事、すっかりAIスピーカーだって信じてるんだもんなあぁ、嬉しい反面ちょっと罪悪感。
幽霊歴3年の春。
俺、篠宮優太はAIスピーカーにJOBチェンジしました。




