↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦うのは好きだけど面倒事は嫌いなので、最強なのは秘密です。  作者: 檸堂礼音
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/15

第一話 提案

特異事象対策局《とくいじしょうたいさくきょく》。

神成禮(しんじょうらい)が局へ顔を出すようになってから、少しずつ状況は変わり始めていた。

最初は、あくまで外部協力者。

局から強制的に命令を受ける立場ではなく、訓練への参加も、能力検証も、現場への協力も、基本的には禮本人が了承した時だけ。


それでも局にとって、久世紫苑(くせしおん)を模擬戦で破った十七歳の能力者を、いつまでも曖昧(あいまい)な立場のままにしておくわけにはいかなかった。

そして禮にとっても、ここへ来る理由は以前より増えていた。

一つは、強い能力者と戦えることもう一つは――姉の事件。


局内に残されていた記録。

処理されたはずの照会。

そこに残る曖昧な空白。

禮はそれを、感情だけで決めつけるつもりはなかった。


「今ある情報だけじゃ、まだ何とも言えないな」


会議室。

禮は椅子にもたれながら、目の前の資料を眺める。

天倉壮(あまくらそう)は、向かい側で端末を操作していた。


「そう判断してもらえるなら助かる」

「別に局を信用したわけじゃないぞ」

「分かっている」

「ただ、分からないものを分かったことにしても意味ないだろ」


そこに残っている記録だけで、誰か一人を犯人と決めることはできない。

局側の手落ちだった可能性もある。

個人が意図的に処理した可能性もある。


別の理由があった可能性もある。

そのどれも、まだ確定していない。

久世紫苑は少し離れた席に座りながら、珍しく口を挟まずに二人の話を聞いていた。

禮歌(れいか)も禮の隣で資料を見る。


「ちゃんと調べてもらえるなら、それでいいんじゃない?」

「ああ」


禮は短く答えた。


「何か出てきたら、その時考える」


天倉は頷(うなず)く。


「調査は続ける。新しい情報が出た場合は、お前へ直接伝える」

「頼む」


話が一段落したところで、天倉が別の資料を開いた。


「それと、今日はもう一つ話がある」

「まだあるのか」

「お前の正式な扱いについてだ」


禮の眉が少しだけ動く。

局への正式所属。

以前なら、その言葉を聞いただけで断っていただろう。

だが、今回は少し違った。


天倉が示した条件は、通常の局員とはまるで異なる。

局からの日常的な命令はなし。

任務への強制参加もなし。


能力研究への強制協力もなし。

必要な情報へのアクセス権は、局側と禮側で範囲を定める。

現場協力についても、原則として本人の了承を必要とする。


「かなり譲ったな」


禮が言う。


「お前を通常の局員として扱おうとする方が無理がある」

「それは俺も思う」

「自分で言うな」


天倉が小さく息を吐いた。

久世は面白そうに笑っている。


「でも、これなら前より入りやすいんじゃない?」

「まあな」


禮は資料をもう一度見る。

局に縛られるのは嫌だ。

命令されるのも嫌だ。


だが、局の設備、情報、能力者との接点。

そして姉の事件を追うための経路。

それらを考えれば、完全に距離を置く必要もなくなっていた。


「正式に入ったとして、俺の自由はこの条件通りなんだな?」

「ああ。細部は最終調整が必要だが、大枠は変えない」

「なら、考えてもいい」


天倉が僅(わず)かに目を見開く。

以前の禮なら、その場で断っていた。

それを知っている久世も、少しだけ楽しそうに禮を見る。


「へえ」

「何だよ」

「別に?」

「その顔やめろ」


会議室の空気が、少しだけ軽くなる。

そんな中。

禮は何気なく、壁に表示された局の訓練記録へ目を向けた。

局員。


訓練。

能力評価。

適性。

そこに並ぶ数字をしばらく眺めてからふと。


「なあ」

「何だ?」

「局って、新しい能力者を見つける時どうしてる?」


天倉が答える。


「推薦、学校や各自治体からの報告、能力犯罪への対応記録、本人からの志願。いくつかある」

「でも、それだけじゃ埋もれる奴いるだろ」

「いるだろうな」


禮は少し考える。

そして。


「だったら大会でもやれば?」


一瞬会議室が静かになった。


「……大会?」


天倉が聞き返す。


「ああ。能力者集めて、色んな競技やらせる」


久世がすぐに反応した。


「面白そう」

「お前は黙ってろ」

「まだ何も言ってないのに」


天倉は額を押さえた後、改めて禮を見る。


「具体的には?」

「戦うだけじゃ意味ないだろ」


禮は指を折る。


「戦闘」


一つ。


「護衛」


二つ。


「補助」


三つ。


「分析とか、能力制御とか。そういうのも入れればいい」


単純な火力だけで能力者の価値は決まらない。

戦えなくても、極端に高い分析能力を持つ者。

直接攻撃には向かなくても、人を守ることに特化した者。

能力そのものは弱くても、使い方が異常に上手い者。

そういう人間まで見られる大会。


「一人一種目に絞る必要もない」


禮は続ける。


「出たい部門に複数出ればいい」

「総合点はどうする?」


天倉が聞く。


「全部足すと、何でもできる奴が有利すぎる」


禮は少し考えた後。


「その人が一番高い評価を取った部門を基準にすればいいんじゃないか?」


一つの分野に突出した者も評価できる。

複数分野へ挑戦した者が、不得意分野の点数で損をすることもない。

天倉は黙って端末へ入力していく。


「目的は?」

「人材発掘」

「それだけか?」

「大会なんだから、参加する理由も必要だろ」


賞金。

名誉。

局への推薦。


そして、成績上位者や競技内で特に高い適性を見せた者には、特異事象対策局への特別選考。

それなら、局へ興味を持つ能力者も集まりやすい。

久世が腕を組む。


「強い人も来る?」

「来るんじゃない?」

「じゃあやろう」

「お前のための大会じゃない」


天倉が即答した。

禮歌が小さく笑う。

慧(けい)は少し離れたところで話を聞きながら、若干引いていた。


「話がどんどん大きくなってないか……?」

「まだ案だぞ」


禮が言う。


「神成が言い出した案は、大体そのまま大きくなるんだよ」

「知らん」


さらに禮は、もう一つ付け加えた。


「普通のランキングとは別に、特別枠作ってもいいかもな」

「特別枠?」

「順位だけじゃ分からない奴を見る」


能力の応用。

判断。

発想。


成長。

戦闘中、あるいは競技中に何を考え、どう対応したか。

結果だけでは見えない部分。


「上の方に来た奴とか、気になった奴を俺が見る」


天倉が禮を見る。


「お前が?」

「ああ」

「審査側に回るつもりか」

「そっちの方が面白そうだし」


久世が笑う。


「じゃあ私も」

「お前は普通に審査される側の方が楽しむだろ」

「それもいいね」

「話をややこしくするな」


天倉は端末を置いた。

冗談のように始まった話。

だが、内容そのものは悪くない。


戦闘能力だけでは拾えない人材を見つけられる。

局への志願者を増やすこともできる。

能力者同士が、公的な管理下で競い合う場所を用意できる。

問題は。


「会場だな」


天倉が言う。


「この規模でやるなら、通常の訓練施設では足りない」

「なら作るぞ」

「……何を?」

「施設」


即答だった。

天倉が黙る。

慧も黙る。

久世は笑っている。

禮歌だけが、いつものことのように禮を見る。


「正式に局へ入るなら、そのくらいは協力してもいい」


禮は続ける。


「外から見た大きさと、中の広さを同じにする必要もないし」

「待て」


天倉が止める。


「今さらっと何を言った?」

「空間広げればいいだろ」

「普通は広げられない」

「俺はできる」

「……そうだったな」


外観は通常の施設。

内部は、それを遥かに超える規模。

複数の闘技場。

護衛競技用の市街地。


分析区画。

待機所。

観客席。

医療区画。

必要なら、それらを全て一つの施設へ収めることもできる。


「壊れないようにもできる」


禮が言う。


「大会で施設壊されたら面倒だし」


慧が思わず口を挟む。


「基準がお前なの?」

「俺が壊せないくらいにしとけば、大体大丈夫だろ」

「その基準絶対おかしいって!」


久世が楽しそうに頷く。


「でも安全そう」

「久世まで乗るな!」


天倉はしばらく何も言わなかった。

端末には、大会案、競技部門、選考制度、特別審査、施設案。

次々と項目が増えている。

やがて。


「……一度、局内で正式に検討する」


そう答えた。

禮は軽く頷く。


「好きにしてくれ」

「言い出した本人が一番他人事だな」

「案を出しただけだし」


会議が終わり。

局を出る頃には、外はすっかり夕方になっていた。

禮、禮歌、慧。

三人で歩きながら、慧はまだ大会の話を引きずっていた。


「本当にやるのかな……」

「さあ」

「お前が言い出したんだろ!」

「決めるのは局だ」

「会場まで作るって言ってたじゃん!」

「決まったらな」


禮歌は二人のやり取りを聞きながら、少し考えていた。

そして。


「でも、面白そうだね」

「禮歌まで?」


慧が見る。


「うん」


少しだけ笑って。


「私も出てみたいかも」

「え?」


慧が足を止めた。

その声を背に禮は何も言わず、少しだけ口元を緩めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。