後悔が変える運命
「君の一族にも謝罪しなければ」
フィルの一言にシルビアはぎくりとした。
「謝罪など必要ありません!」
シルビアはフィルから身を離した。
こんな事態になった、過ちや愚かさは誰にあるか。
知ってもらうために、
「聞いてください、フィル様」
覚悟を決めて、彼の目を見て告げた。
「謝罪しなければならないのは、私達の方です。貴方とフロンティア、お二人の婚約を喜ぶべきなのに、私達は……復讐のために、敵国のバルダンディアに寝返る計画を進めていたのです!」
「復讐? 寝返り?」
平和を愛するフィルは顔を強張らせた。
恐ろしい女だと思われている、そう見られていることが辛くて、シルビアはフィルから視線をそらした。
「一族の怒りを押さえられなかったのです……」
潔く話すつもりが言い訳じみた言葉も出てしまった。
「貴方の婚約者になれず……私のせいで……私も怒りと悲しみに苛まれて……」
一緒に溢れそうになった感情はできるだけ抑えて。
全てを打ち明けたシルビアは、冷静に前を見据えた。
「こんな私は、処刑してください」
覚悟を決めて告げたシルビアに、フィルは目を見張った。
揺れる瞳は
「処刑などできない!」
すぐに断言すると、フィルの瞳が潤み泣きそうな顔をみせた。
「君をそんな風に失うなんて、絶対にない……!」
フィルは国の全ての人間に宣言するように言った。
シルビアは初めてフィルの涙を見た――彼にとっての自分の存在がどれほどのものかを知った。
その衝撃に動けないでいた。
フィルはそんな彼女に強い意思を見せるように腕を伸ばした。
シルビアはまた強く抱き締められた。
「シルビア、君は恐ろしい人ではない。君も、一族の者も、怒りに我を忘れただけだ……本心は平和を愛するネバーローズの貴族のままだ、そうだろう?」
シルビアが涙をたたえて心を込めてうなずくと、フィルの胸が安堵に上下した。
「シルビア、君の一族の者が言うように、私は、君とフロンティアを天秤にかけたりはしていない。実は、フロンティアとは幼い頃に結婚の約束をしていたんだ」
「え?」
「ままごとのような約束だったが……やはり、果たすべきかと思ったんだ。美しい思い出でもあった」
フィルにはそういう律儀さと責任感の強さと、ロマンチックさがあるのをシルビアは知っていた。
「そう、でしたの」
彼のそんなところに惹かれているシルビアは、思わず胸が甘く痺れるのを感じて、こんな時にと自分に笑った。
「私も、しておけばよかった」
シルビアの呟きに、フィルは困ったような微笑みをみせた。
「子供のような決め方で、君を傷つけた。許してほしい」
「もう、気になさらないで……」
シルビアはしっかりと言い聞かせるように答えた。
それから指先でフィルの涙をそっと拭いて微笑んだ。
「……ありがとう」
二人はほっとして、お互いに寄りかかるようにして、しばし目を閉じて心を落ち着かせた。
フィルの体温と息遣いと間近で感じ取り、だんだんと覚醒してきて。
なんとか冷静に頭を働かせつつ、状況を思い返して。
シルビアは顔を上げた。
「フィル様。子供といえば、フロンティアのことを探さなければ」
「ああ、そうしよう。その前に……」
突如フィルが跪き、両手でシルビアの片手を取った。
「シルビア、私と結婚してほしい」
碧く澄んだ瞳にシルビアは囚われた。
両手からフィルの温もりが伝ってきて、繋がりをはっきりと感じられる。
敵国の王子の手を取った後の、想像もできない暗闇の未来、燃える国と自分の肖像、それらが全てガラスが割れるように粉々になるのが見えた――その先には、王子様の姿があった。
シルビアは泣きそうになるのをこらえ、
「はい――!」
喜びの笑顔でしっかりと答えた。
フィルも泣きそうな笑顔で立ち上がり抱きしめてきた。
「シルビア、君をもう独りにしたくない。城に来てほしい」
「は、はいっ」
真剣な眼差しを向けられて、シルビアはドキリと胸が高鳴った。
「そ、その前に、ドレスを着替えさせてください」
「もちろんだ。その間に、私は君の父上と話してこよう」
「お父様に……」
フィル様に、どんな対応をするのか。
不安に顔を強張らせたシルビアに、
「大丈夫、任せてくれ」
フィルが優しく言った。
今までとは違う頼もしさを感じて、シルビアは目を見張って彼を見つめてから――信頼を込めた微笑みを見せてうなずいた。




