二人のフロンティアとローズ
家を出て町を行く人々の間を通り抜ける。
クロスは度々こちらを見て、急ぎ足に着いてこれているか気にしてくれてる。
「急に気を失ったって、どこか悪いのか?」
そのことまで、気にしてくれた。
「いいえ、フィル様とバルダンディア王国の王子様との会談があるでしょう? それが気がかりで、少し、胸が詰まってはいましたが……それが原因かどうかまでは」
わからずに首をかしげると、クロスもフムと首をかしげた。
「それは俺も気がかりだった、けど、それどころじゃなくなったな」
屋敷につき、門番にクロスが挨拶した。
「フロンティア様はいらっしゃいますか?」
「いいえ、フロンティア様はいらっしゃいません」
軍服を確認して、門番は丁寧に答えた。
オッドアイの瞳にも気づいて、丁寧な会釈をくれた。
「しばらく前に、急いでお出かけになられました」
「どちらへ?」
「会談の場だとか。フィル王子様とバルダンディアのブラッドハート王子様の」
「えっ、なぜ?」
二人で驚きの顔で門番を見ると、門番も同じように驚いていて、狼狽えていた。
「わかりません。とにかく、急いでいたとしか」
三人で困惑顔を見合わせていると、馬車の音が後ろから聞こえてきた。
「あっ、お帰りになりました」
馬車は二台連なっている。
「前が屋敷の馬車です。後ろはどこのだろう?」
門を開けながら門番が首をかしげた。
馬車が玄関前に着くと後ろの馬車から男女が降りてきた。
門番が見守るなか二人で少し馬車に近づきながら、
「フロンティアと、隣は誰だ?」
クロスが呟いた謎に答えられなかった。
馬車から降りてきたフロンティアには、長い銀髪に黒い軍服姿の精悍な男性が寄り添っている……
「ずいぶん仲睦まじい様子だな」
フロンティアと男性はこちらに気づくことなく、出迎えた執事と屋敷に入った。
「執事に聞いてみるか」
クロスが玄関に行こうとしたとき。
後ろからまた馬の蹄の音がした。
今度は兵士を乗せた一頭の馬だった。
「なにか、起きてるのは間違いない。話を聞いてくる」
クロスは兵士の方に走って行った。
そのまま話しながら、屋敷に一緒に入って行き、そわそわして待っているいるなか、屋敷から飛び出して来た。
「おい! 大変だぞ!」
クロスは走って来た勢いのまま、肩を掴んできた。
「フロンティア様と一緒に居たのは、バルダンディア王国のブラッドハート王子だった!」
「あの方が? なぜ、ここに?」
一緒に驚きに目を見開いた。
「なぜかって、二人は婚約するからだ!」
さらなる驚きに、目をぱちぱちさせて、クロスを見つめるしかできなかった。
「婚約!? 私、と、バルダンディア王国の王子様が?」
うわ言のように聞いていた。
「二人がそう言ったんだ。バルダンディア王国は敵国と言われるくらいの危うい関係の国だ。その国の王子とフロンティア様が……!」
クロスは屋敷を目を据えた。
「今にも結婚しそうな様子でくっつき合って、出迎えたフロンティアの父上に、婚約すると口々に言ったんだ」
信じられないと、力なく首を横に振るしかできない……
「待ってください、私は、フロンティアはフィル様と婚約しています。それがなぜ?」
「わからない。どうしても、とか、子供みたいなことを二人は言っていた。その後、お互いの国の平和のためでもあると言っていたな」
「国のため? そのために、あの私は」
「フロンティアなら、考えそうなことだ」
クロスが瞳を見つめてきた。
「わ、私、そんなこと考えません」
「正義感では結婚しないか?」
「しません」
クロスと結婚したいのに、そんなことできないと言いたくなったけれど、それは言えないまま彼を見上げた。
「がっかりしましたか?」
「いや、しない。そんなことはしなくていい」
キッパリした答えたにほっとした。
「あ、そうだ。あれはフロンティアじゃなかった。全く、ややこしいな。早く中身が何者か確かめないとな」
クロスは頭をかきながら屋敷を睨んだ。
「何者が、どんな方法を使ったかわかりませんが、国のために私の体を使っているのでしょうか?」
「人の体を無断で使うやつが、国のためなんて考えるかどうか。とにかく、結婚は止めないと」
行こうとするクロスの腕を、咄嗟に両腕で強く引き止めた。
「待ってください。危険すぎます。バルダンディア王国の兵士もいます」
馬車のそばには兵士が数人いた。幸い、全員が屋敷に釘付けで、こちらを見ていないけれど。
「私が本当のフロンティアだと、上手く伝えられるかわかりません。信じてもらえなければ、結婚の邪魔建てをした者として、捕らえられたりしないでしょうか?」
自分はどうなってもいいけれど、クロスがひどい目に遭うのだけは絶対に嫌だと思った。
「そうだな、フロンティアの体を乗っ取った者が悪人なら、なおさら、そんな話は認めないだろうな」
クロスは眉を寄せて顎を指で叩いた。
「よし、フィル王子に話そう」
「フィル様に?」
「フィル王子とは兵士見習いになった頃から、よく会ってるんだ。誰にも秘密だけど」
「そうなのですか……」
フィル様とクロスがずっと会っていたなんて。
私とフィル様の婚約も遠くからではなく、すぐそばで知られていた……
なんだか、複雑な気持ち。
「俺は、城に行ってくる。フロンティアは、俺の家で待っていてくれ」
「はい」
今は問題に集中しなければ。
城に向かうクロスと別れて、急いで家に戻った。
鍵を持たせてくれたけれど一応、玄関扉をノックするとすぐに、お母様が開けてくれた。
「おかえりなさい」
歓迎してくれる笑顔が嬉しくて笑顔を返すと。
お母様は隣に誰もいないのに気づいた。
「あら、クロスは?」
「少し、お城に用ができて、すぐ戻るので家で待っていてくれと」
「そう、どうぞ遠慮しないで」
優しい誘いにありがたく中に入ると。
キッチンから美味しそうな匂いがしてくる。
「今、夕食の支度をしていたのよ。クロスと一緒に食べていって。こっちこっち」
「あ、ありがとうございます」
「クロスが娘さんを連れてくるなんて、初めてですよ」
お母様は嬉しそうに皿をテーブルに並べてる。
「しかも、あなたみたいな綺麗な人。幸運を運ぶオッドアイの……」
瞳をしげしげと見つめてきてから、
「伝説ともいわれるような娘さんが……息子には勿体ないかもね」
少し困惑したみたいに眉を寄せてしまった。
「だけど……」
お母様はまたオッドアイの瞳を見つめてきた。
「あなたなら……」
瞳がそらされて、今度は遠く、屋敷の方角を見てる。
「実はね、クロスはフロンティア様という侯爵家のご令嬢のことが好きだったみたいで」
好き――
「私の夫が兵士で侯爵家に仕えていて、クロスが子供の頃にフロンティア様と遊んだりしてたからね。身分違いなのを知ってからは諦めていたようだけど……最近になってフロンティア様とフィル王子様の婚約の話を聞いて落ち込んでたようだから……心の中ではまだ……」
まだ、私を?
「そう心配していたんだけど」
お母様は明るい笑顔を向けてきた。
「あなたなら、フロンティア様を忘れさせることができるわ。歌唄いの聖女と呼ばれる侯爵令嬢様に匹敵するのは伝説のオッドアイの娘! 間違いないわ!」
凄く期待されてるみたい……
私は、歌唄いの聖女で侯爵令嬢のフロンティアのほうなのに……
どう言えば……
わからずに、とりあえず笑顔を返すしかない。
そうやって二人で笑っていると。
扉がノックされて、
「ただいま」
クロスが息を切らして帰ってきた。




