新人騎士団アレンの日常2
自分の村の話に興味を持ってもらえて嬉しく、つい話してしまったけれど、失礼はなかっただろうか――ふと心配になる。
「そうだ。さっきの試合だけど、
素早さはあるけど太刀筋が大雑把。もう少し技の正確性を意識しないと、セナには全く相手にならないよ」
えっ!?
穏やかに微笑みながら、助言をするティアナお嬢様に驚く。
あの一瞬の間で、俺の癖や、いつもセナ副団長やロベルト先輩に言われることまで見抜かれてしまった。
「は、はい!精進します!」
頑張ろう。
直接話をして、目の前のティアナお嬢様が素敵な人だと直感した。
まずは、この人に認めてもらえるよう努力しよう。
「挨拶はできたか?」
ロベルト先輩が声をかけてくれる。
「はい!」
元気に返事をする。
「素敵なお嬢様だろ?」
ニヤリと笑うロベルト先輩。
「そうですね!」
素直に返事を返すと、その返答に満足げに頷く。
「お!セナ副団長とティアナお嬢様の手合わせだ。ちゃんと見とけよ」
「本当に手合わせするんですか?大丈夫なんですか?」
お嬢様が訓練に参加するなんて聞いたことがない。
しかし目の前のお嬢様は、やる気満々で木剣を構える姿も様になっている。
素人という感じはなく、自然と騎士団の訓練場に溶け込んでいるようだ。
「まあ、とりあえず見てなって」
ロベルト先輩の視線がセナ副団長とティアナお嬢様に向き、俺も自然とそちらに体の姿勢を向ける。
他の団員たちも2人の様子を見守っている。
誰も止めようとしないところを見ると、どうやらいつものことのようだ。
手合わせが始まる。
まずはティアナお嬢様が正面から向かっていく。
木剣と木剣がぶつかる音が、訓練場に鳴り響く。
初めはゆるやかに打ち合っていたが、徐々にお互いのスピードが上がっていく。
「す、すごい……」
思わず口から漏れてしまった。
「すごいよな。あんな華奢な身体で、激しく打ち合えるんだからな」
感心したように話すロベルト先輩。
しばらく打ち合いは続いていたが、ティアナお嬢様が押されているのがわかる。
あの激しく鋭い打ち合いを続ければ、体力も持たないだろう。
俺ですら、セナ副団長との打ち合いはこんなに長くは続かない。
そろそろ決着か――先に動いたセナ副団長。
これは回避は難しい。勝負ありかと思ったその瞬間、ティアナお嬢様が瞬く間に懐に入り込む。
「えっ!?どうなったんだ?」
顎先を狙う絶妙な剣さばき。
まさか、セナ副団長に勝つのか――と思ったのも束の間、セナ副団長は巧みに交わし、ティアナお嬢様の木剣を弾いた。
あっという間の出来事で、何が起きたのか頭が追いつかない。
「あの、あれ……どういうことですか?」
状況をうまく飲み込めず、俺は声を震わせる。
「うまいな、ティアナお嬢様。
わざとセナ副団長に技を決めさせようと誘い込み、良いところをつこうとしたんだろう。
だが、セナ副団長がそれを見事に交わした、というわけだ」
休憩になり、レオさんという方からいただいた差し入れを配り終えると、先輩方と集まってひと息つく。
「あの、随分ハイレベルな手合わせでしたね」
「そうだな。いつもあんな感じだけどな」
「怪我とかしないんですか?お嬢様なのに大丈夫なんですか?」
いくら強いとはいえ、あのスピードと剣捌きで怪我をしないのか心配になる。
ラピスラズリ伯爵家のお嬢様に怪我でもさせたら、大変なことになるだろう。
「それはセナ副団長が上手いんだよ。相手をよく見て、どの程度の力でやればいいか絶妙に調整してるんだ」
「だけどお嬢様も負けてないよな!さっきの顎先を躊躇なく攻めたとき、俺は『いけるー!』って思ったもん」
「わかる!わかる!惜しかったよな」
「お嬢様がすごいのは、怪我させないようちゃんと攻撃を寸止めできるところだよな」
「だけどセナ副団長は圧倒的だよなー」
「いやあ、どっちも末恐ろしいよ」
ロベルト先輩が唸ると、他の団員たちも頷き、皆その技量に感嘆していた。
「俺、まだ新人でよくわかってないですけど、誰が一番強いですか?それとティアナお嬢様って、俺より強いですよね」
先ほどの手合わせを思い出し、正直落ち込む。
護るべき人物が自分より強いとは、何とも言えない複雑な気持ちだ。
「あーそれね。お前がお嬢様とやりあったら100%負けるな」
「アレンは素早いけど、太刀筋がわかりやすいからな!」
グサッと刺さる言葉だ。自分でも分かっているけれど、先輩に指摘されるとさらに悔しい。
「……まあ、そうだな。
せっかくだし、騎士団のことを少し勉強しておこうか」
そう言うとロベルト先輩は、足元に落ちていた木の枝を拾い上げ、地面に線を引き始めた。
さらさらと描かれていくのは、三段に分かれた三角形――まるで小さなピラミッドのようだ。
「まずな、騎士になるには王国騎士団の登用試験に合格する必要がある」
「合格後は成績と本人の希望をもとに、各領地や騎士団へ配属される仕組みだ」
次に、三角形の中央へ線を引く。
「で、俺たちはラピスラズリ騎士団所属。
その中でも、さらに第1・第2・第3の3部隊に分かれてる」
「第1騎士団は、経験を積んだ実力者ばかりの精鋭部隊。
ラピスラズリ家当主直々の命を受けて動くことも多い」
枝先が、頂点をなぞる。
「第2騎士団は若手中心だが、貴族出身者が多いエリート集団だな」
視線が、自然と中央へ移る。
「そして俺たち第3騎士団は、平民や市民出身が中心だ」
一番下を軽く叩き、ロベルト先輩は肩をすくめた。
「任務内容自体は第2と第3で大きな差はない。
……が、寮の設備と給料に関しては、どう考えても第2騎士団のほうが上だな」
苦笑しながら、枝を放り投げる。
「まあ、現実ってやつだ」




