新人騎士団アレンの日常3
「なんだか、少し不公平ですね」
正直な感想を口にする。
「まあ、そりゃあな。でも貴族出身と平民出身じゃ、差があるのは仕方ない」
ロベルト先輩は頬をかきながら、苦笑した。
「第1騎士団は、10年以上の経験を積んだベテラン揃いだ。
だから強いし、統率も完璧だ」
「一方で第2騎士団は若手中心だけど、貴族出身のエリート集団だからな。
ちゃんと剣術教育を受けてるやつがほとんどで、あれはあれで相当強い」
ロベルト先輩は指を折りながら続ける。
「セナ副団長の実力なら、第2騎士団の連中の大半には勝てるだろうけど……」
「きついのは、やっぱりオリバー団長相手だろうな」
「第3騎士団のルーク団長も相当強いし、
その3人の実力は、ほぼ同じくらいじゃないか?」
「テオもいい線はいくと思うけどな」
最後に、ロベルト先輩は肩をすくめた。
「まあ、実際に試合してみないと分からないけどな」
「なるほど……そうなんですね」
頷いてから、ふと思い出した疑問を口にする。
「あと、もう2ついいですか?」
「お、いいぞ。何でも聞け」
「このフィナンシェを作ってくれたレオさんって、
元騎士団員って本当ですか?」
以前、セナ副団長と同期だった、という話を耳にしたのだ。
「あー、レオさんな! あの人は……やばい」
周囲の団員たちも、次々に頷く。
「“狂乱の金獅子”って呼ばれてたよな」
「剣を持つと性格が変わってさ。
そりゃもう、恐ろしい剣捌きで……」
「当時は、あのセナ副団長ですら勝てなかったからな」
「そ、そんなにすごい人なんですね……」
あんなに陽気で気さくな人からは、まったく想像がつかない。
「だからお前、絶対に食べ物を粗末にするなよ。マジで」
「実際、殺されかけたやつを俺は知ってるからな」
先輩たちに念を押され、思わず背筋が伸びる。
「は、はい!!」
第3騎士団の人たちは気さくで、いい人ばかりだ。
――俺も、先輩たちに負けないように頑張らなくては。
「で、あともう1つって何だ?」
“2つある”と言ったことを覚えていてくれたらしく、
ロベルト先輩がそう問いかけてきた。
「そうでした!俺、ティアナお嬢様に自分の名前を名乗る前に知られていて、そこに驚いちゃったのと、普通に嬉しくて!
もしかして全員の名前を覚えているんですか?」
小さな村出身の平民の新人騎士団員の名前を知っていたことに、驚きと嬉しさが重なる。
あー、と先輩たちがうんうんと頷く。
「わかる、嬉しいよなー」
しみじみと噛み締める先輩たち。
「ティアナお嬢様はさ、俺たち団員の名前だけじゃなくてさ、好みとか出身まで覚えてくれてるんだよな」
「そうそう、俺たちのことを駒としてじゃなくて、一人の団員として見てくれてる」
「あのマルク様とは大違いだよな」
「そうだよなー、そういう意味では第2騎士団は不憫だよな。
マルク様の無茶振りに振り回されて苦労してるし」
マルク様のことはみんな知っている。遊び人で鍛錬は全くせず、わがまま放題だ。
「正直、あれが次期当主になったらと思うとゾッとするよ」
「いやぁー、それは本当。ティアナお嬢様が当主になってくれればなぁー」
切実な声に、思わず重みを感じる。
アレンは深呼吸をして、手に握った木剣をぎゅっと強く握り直す。
先ほどの指摘が頭の中でぐるぐる回る。
「太刀筋がわかりやすい…正確性を意識…」
体が重く感じる疲労もあったが、今はむしろその感覚が心地よい。
「よし、今日は絶対良いところを見せる!」
訓練場に戻ると、セナ副団長はすでに構えを取り、鋭い視線をアレンに向ける。
「準備はいいか?」
「はい!」
いつもより気持ちを込めて返事をすると、背筋が自然に伸びる。
今回の目標はただ勝つことではない。
自分の癖を意識し、相手の動きをよく観察し、精度を上げること。
「自分の弱点を潰す、絶好のチャンスだ」
木剣を握る手に力を込め、呼吸を整える。
太陽の光を浴びながら、アレンは心の中で誓った。
「絶対に、強くなる!」
そしてセナ副団長が最初の一振りを放つ。
「いくぞ!」
アレンはその動きを見極め、すかさず自分の体を反応させる。




