お見合い2
「パーティーでお見かけしとても美しくて、さらに聡明な方だと聞いております。
できれば私と結婚を前提に婚約していただければと思いまして、急にお邪魔してしまいました」
――まさかの結婚話!?
度肝を抜かれる。
今、それどころじゃないんだけど!
というか……本当にこのリチャード様、そう思って言ってるの?
「とても光栄ですが、私はリチャード様のことをよく知りませんし結婚はまだ早いです。」
そう、私はまだ17歳。
この国では結婚は18歳からと決まっている。
「はい、それは存じております。ですので、まずは今後仲良くしていただければ、と思いご挨拶に伺った次第です」
ニコニコと笑っているリチャード様。
でも……どこか妙にあやしい。
(この人、本当に真剣なの…?)
頭の片隅で疑問が浮かぶ一方、父は微笑みながらこちらを見ている。
どう返すべきか、一瞬だけ考え込む。
――というか、父はどう考えているのだろう。
「もちろんティアナをすぐに結婚させる気はない。
ただそろそろ結婚のことも考えねばと思っていた矢先リチャードくんが声をかけてくれたのだ」
――まさか、勝手に結婚相手を探そうとしていたとは……。
思わず眉をひそめる。
公爵家の次男だし、立場としては確かに申し分ない人材なのだろうけれど。
「ですので、よろしければ今度、日を改めてゆっくりお話しさせてください」
リチャード様は丁寧にお辞儀をする。
こちらも、どう返していいか分からず、曖昧に「は、はい」と答える。
そのままリチャード様は退出し、応接室には父と私の二人きりになった。
静かになった室内で、少し意を決して声をかける。
「……お父様なぜ急に?」
私は父をじっと見つめた。
「お前を次期当主にしようと考えているからだ」
――衝撃的な言葉に、一瞬頭が追いつかない。
「それは、どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。マルクには任せられないと判断した。
いままで散々チャンスを与えたが、まともにこなせないだけでなく、他人任せにし、それを自分の実績のように語る。
今回のボランティアがまさにそうだ。あそこの孤児院出身の王国騎士団員もいた。
だから私はそれ相応の金額をマルクに任せ、ボランティアを成功させるように話をした。
だがあいつはどうだ?
あろうことか全てを部下に丸投げし、与えた金額のほとんどを自分の遊びに使ったのだ。
そんな奴に任せられるはずがないだろう」
相当お怒りの様子だ。
……まあ、確かにそれも無理はない。
「孤児院でのボランティアでは、ティアナ お前の活躍のおかげで大盛況だったと聞いた。それに、殿下暗殺未遂事件でも殿下の助けになったと聞いた。
よくやった」
父から褒められ少し気恥ずかしくなる。
「ありがとうございます」
素直にお礼をいう。
「そこでお前を次期当主にするためには、優秀な婿が必要だと思ったのだ。
ただ、あのリチャードくんに決めろと言っているわけではない。
さすがにこの家のことを容易く任せられないからな。
だからお前が吟味するのだ。
ここに候補者リストがある。何名か選び、お見合いをしなさい」
父が差し出した紙には、50名ほどの名前がずらりと並んでいる。
――うそでしょ……。
「あ、あの……」
「急ぎではない。ゆっくり決めればいい。以上だ」
それ以上、話す気はないらしい。
――クソジジイめ!
心の中で悪態をつきながらも、表情はにこやかに装って、部屋を後にした。
「あーもう、あのクソジジイ!!」
「お嬢様、心の声が漏れておりますよ」
自室に戻ると、すぐにユウリに愚痴を吐く。
「信じられる!?呼ばれたら公爵家の人までいてよ!
私のこと何も知らないくせに、結婚前提とか言ってきたの!
しかもあのクソジジイは勝手に結婚相手の候補者リストを渡してきて、この中から選べだって!
あー、もう!それどころじゃないのにー!!」
「珍しくお嬢様が取り乱しておりますね。
あと、私にもその候補者リストを見せてください。
むしろ私が選びます」
「え、あ、そう?」
さっとリストを渡す。
「公爵家の方と言っていましたが、どなたですか?」
「紅輝オパール家の次男、リチャード様よ。
メガネをかけてて、少しそばかすがある」
「ふむ、リチャード様ですね。
とりあえずお見合いには私も立ち会います。私も吟味させてもらいます」
にっこり微笑むユウリ。
――笑顔が、ちょっと怖いな。
「ねー、というかさ、ユウリがいいのでは!!」
ユウリは代々由緒正しき執事を務める家庭で育ち子爵家でもある。
「おや、それは光栄ですね。まあ、難しいでしょうけど」
「そうだよね。というか、ユウリも嫌だよねー?無理言ってごめん」
ユウリを結婚相手として想像するのは、無理だ。
恋人というより、兄のような存在に近い。
きっとユウリも私のことを、手のかかる妹ぐらいにしか思っていないだろう。
「……そうでもないですけどね」
「え、何か言った?」
「いえ、何でもないですよ。
では、私が何名か選んでもよろしいですか?」
「うん。任せる。できるだけ結婚の話は引き延ばしたい」
「承知しました」
ユウリはいつも通り、落ち着いた声で微笑む。
その冷静さに、少しだけ安心する自分がいる。




