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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第一部

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お見合い1

ユウリに話をしてから少し気が楽になった。


そして久々に第3騎士団にやってきた。孤児院でのボランティアの後から第2騎士団との交流が増えたようだ。

良い傾向だ。


新人のアレンも前より動きがよくなってる。

アドバイス通りよく頑張っているみたいだ。


セナに今日も手合わせをお願いしているが、

蝶の会でのこと…セナまで巻き込んでいいものか…

一緒に潜入してもらったからもう巻き込んでいるようなものだけど。


セナの木剣を防げず気付けば目の前でピタっと止まる。

やばい集中し切れてなかった。



「お嬢様大丈夫ですか?」


心配そうな顔をするセナに申し訳なくなる。


「ごめん、少し考え事してた」


「そうですか」


「ねぇ」


「何ですか?」


「何があったか聞かないの?」


蝶の会でセナと別れてから、セナは私に何も聞いてこない。



「聞いて欲しいですか?」


そう問われゆっくりと首をふる。

もう少しはっきりさせたいこともある。



「なら聞きません。お嬢様が言いたくなったら言って下さい。

その時は全力で力になります」



セナはそう言って、静かに木剣を下ろした。

それ以上踏み込まない距離感が、今はありがたくもあり、少しだけ胸に刺さる。


「……ありがとう」


短く返すと、いつものように一礼しただけだった。

ただ“待つ”という選択。セナらしい。


「今日はここまでにしましょう」


「ええ。私の方が集中を欠いてる」


そう言うと、セナは否定せずに頷いた。訓練場の皆んなが真剣に稽古をしている。そしてアレンがこちらを気にしながらも、黙々と素振りを続けているのが見えた。


――みんな、前に進んでいる。


私だけが、足元を確かめるのに時間がかかっているみたいだ。


木剣を片付けながら、セナがふと口を開く。


「ユウリ様と話されたのですか」


一瞬、驚いて彼を見る。

でも、詮索する視線じゃない。ただの確認だ。


「……ええ。少しね」


「そうですか。それなら良かった」


それだけ言って、セナはそれ以上何も続けなかった。

聞かないと決めたことは、最後まで守る――その姿勢が、逆に覚悟を突きつけてくる。


魔女の雫 紅血。蝶の会…

そして、誰をどこまで連れていくのか。


(もう少しだけ……整理したら)


そう心の中で呟く。

次にここへ来る時は、剣の稽古だけじゃ済まないかもしれない。


その時、セナに何を頼むのか。

それを決めるのは、私だ。


「お嬢様!」


駆け足でこちらへ向かってくるアリスの声に振り返る。


「どうしたの?」


ここまで慌てて来るということは、急用に違いない。


「アドルフ様がお呼びです」


「わかった。すぐ行く」


そう答えてから、セナの方を見る。


「セナ、ごめんね。また今度、ゆっくり」


そう声をかけて、そのまま駆け出した。

正直なところ、セナと一緒にいると頼ってしまいそうになる。

このタイミングで呼ばれたのは、かえって良かったのかもしれない。


――その時。


「お嬢様!」


背後から、張りのある声が響く。


振り返ると、セナがまっすぐこちらを見ていた。


「俺は貴女の騎士です。何かあれば、いつでも頼ってください」



思わず笑って、くるりと振り返り手を振る。


「うん、ありがとう!!」


……屋敷へ続く石畳を駆け抜けながら、胸の奥が少しだけ軽くなっているのに気づく。

セナの一言は、相変わらず反則級だ。


(……ほんと、ずるい)


そう思いながらも、足は止めない。




自室に戻ると、アリスが手際よく準備を整えてくれていた。

言葉を交わす間もなく、慣れた動きで訓練着を脱がされ、淡い色のドレスに袖を通す。


――相変わらず早い。


鏡の前で身なりを整えながら、胸の奥に不安が広がる。


(まさか……蝶の会を探っていること、気づかれた?)


宝石事件についても、これ以上深入りするなと釘を刺されている。

もし両方とも把握されていたら、呼び出しの理由としては十分すぎる。


「お嬢様、整いました」


アリスの声で我に返り、軽く頷く。


「ありがとう」


深く息を吸い、背筋を伸ばす。

覚悟を決める。


「失礼いたします」


「入れ」


扉を開けて中へ入ると、応接室のソファに父が誰かと向かい合って座っていた。

年の頃は二十代半ばだろうか。こちらに背を向けていて、顔はまだ見えない。


「こちらに来なさい」


促されて父の隣に腰掛け、改めて向かいの人物を見る。


――この人は確か……。


先日のパーティーの名簿で名前を見て、軽く挨拶を交わした覚えがある。

二代公爵家のひとつ、紅輝オパール公爵家の次男。名前は――。


「お待たせして申し訳ありません。貴方は紅輝オパール公爵家のリチャード様ですね」


「まさかティアナ嬢に名前を覚えていただけているとは。とても光栄です」


彼は柔らかく微笑み、軽く頭を下げた。


「改めまして、公爵家のリチャード ファイアオパールと申します」


そばかすの残る顔に眼鏡をかけ、全体的に穏やかで知的な印象を受ける人物だ。



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