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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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はじまり4

ティアナside


街に入ると、すぐに商業区の空気に変わる。

呼び込みの声、宝石箱が擦れる音、値段交渉の熱気。


今回の目的は、ラピスラズリ家が出資している宝石店の視察と助言。

目的のお店に足を踏み入れる。


「いらっしゃいませ。おやとても美しいご令嬢ですね。貴女に合う素敵な宝石がありますよ」


この様子だと私のことを知らないな。

店主が最近変わったと父から聞き、視察を頼まれているのだが。


「それは楽しみです、早速宝石を見せていただきたいのだけれど」


「こちらが、今話題の新入荷です」


店主が差し出したのは、深い青色の宝石。値段も割高だ。

一見すると質の良いサファイアだが――


「少し、よろしいですか」


許可をもらい、布の上で光にかざす。

角度を変える。


……やはり。


「これは天然ではありませんね。合成石です」


店主が一瞬、言葉に詰まる。


「な、なぜそれを……?」


「色の均一さが不自然です。それに内部の気泡の入り方が、天然の成長線と違う」


さらに表面を観察する。


「研磨も少し甘い。正面からは綺麗ですが、縁で光が乱れています。

この値段で買うことは到底できませんね。」


宝石を元の位置に戻す。

店主が口元を震わせながら声を発する。


「あ、あなたは一体…」


「失礼、自己紹介がまだでしたね。ティアナ ラピスラズリです」


「た、大変失礼致しました」


勢いよく頭を下げる。


「気にしないでください。それよりもこの宝石ですが…」


「どうかご慈悲を」


震えながら懇願する。

私がそんな恐ろしく見えるのだろうか。なんかいじめている気分だ。


「“天然と誤認させない”形で売るなら話は別ですよ。

装飾用、もしくは若年層向けに価格を抑えて出すべきですね。

くれぐれも悪意のある売り方は辞めてくださいね。

ラピスラズリ家の品位を下げることになりますので、その場合はそれ相応の対応を取らせていただきますので肝に銘じてくださいね」


穏やかに話をしつつ、鋭い視線を向ける。

店主は深く頭を下げた。


「……勉強になりました」


店を出たあと、ふっーと息を吐く。



「さすがです。お嬢様」


セナが声をかける。


「ありがとう、でも舐められたものね」


「そうですね、ラピスラズリ家から投資を受けているにも関わらずあの値段と品質でうろうとしていたとは…」


「今回の件で懲りてくれればいいけどね、まあ、店主が変わったばかりだから今回は大目にみるけどね」


とりあえず父にはあとで報告しておこう。

さて、次の目的地へ向かう。



セナが扉を開けてくれ、中に入る。

私に気づいた人物がすかさず声をかけてきた。


「ティアナお嬢様、ご足労いただきありがとうございます。こちらにどうぞ」


応接室に案内され、ソファに腰掛ける。

セナは私の背後に姿勢よく立っている。



「早速ですが、本日は相談がありまして…こちらをご覧ください」


布が敷かれた上に宝石が5つほど並べられる。

どれも美しい輝きを放っている。


「手にとってもいいですか?」


「ええ、もちろんです」


その言葉を聞いてから手袋をした手で宝石に触れる。


どの宝石も天然もので、間違いなく本物だ。

カットも丁寧だし、どの角度からみても素晴らしい輝き。


「素晴らしい宝石ですね」


「あ、ありがとうございます」


「それで相談というのは…値段のことでしょうか」


「はい、この本物の宝石を市場に出すとなるとこのぐらいの値段になってしまいます」


メモにかかれていた金額をみる。



「この宝石の価値としては妥当ですが…いま 市場に出そうとしているのは市民の方向けですよね?」


「は、はい」


この値段では到底市民が買える金額ではない。



「さすがにこの値段では難しいですね」


後ろに控えていたらセナも口を開く。



「しかし、本物を市民の方にも手に取ってもらいたいと思ったら、金額もこれがギリギリでして…」



困ったように額をかく。

他の職人達もそれぞれ頷いている。


「だったら…宝石の大きさを半分以下にしましょう」



「は、半分以下ですか?そうするこの宝石のよさである豪華さや輝きは劣ります」


「確かに他のものと比べれば大きさで見劣りするかもしれません。ですがそれは誰と比べてでしょうか?

貴族達の間では大きさや精巧さを比べることがあると思います。

しかしこれは市民の方向けで販売となると、他者と比較することはそこまで重要ではないですよね」


そう、貴族向けとなればどなればそのドレスの華やかさ、宝石の大きさや希少価値を比べるのはよくある事でそれで家柄の価値が決まることもある。



「確かにそうですね」

ふむっと唸る。


「もう一度考えて下さい、誰に向けて販売したいのかそれを誰が何のために買うのかそこを履き違えればうまく行きません。

私は、市民の方にも本物を手に取って、素敵なものを身につけてもらいたい。

皆さんは違いますか?」


私の言葉を重く受け止めたのか少し沈黙が続いたあと口を開く。


その言葉に、店の空気が少し和らいだ。

だが――完全に納得した、というよりは「筋は通っている」という反応だ。


年配の職人の一人が、腕を組んだまま口を開く。


「理想としては分かりますが……実際に売れるかどうかは、また別の話ですな」


穏やかな声。

けれどその視線は、どこか探るようだった。


「若いお嬢様の考えとしては、立派ですが」


――やはり、そう来るか。


私は表情を変えず、静かに頷いた。


「ええ。理想論だと思うかもしれません」


そう前置きしてから、続ける。


「ですが、市民の方々が“初めて宝石を買う瞬間”を想像してみてください」


店内に、再び静けさが落ちる。


「生活費を切り詰めて、

大切な人への贈り物として選ぶかもしれない。

あるいは、自分への小さなご褒美かもしれません」


ふっと息を吸う。


「そのとき比較する相手は、貴族ではありません。

隣の店の値札でも、宮廷の宝石でもない」


視線を上げる。


「“買って後悔しないかどうか”

それだけです」


しばしの沈黙。

先ほどまで腕を組んでいた職人が、ゆっくりと腕を下ろした。


「……確かに」


誰かが、小さく呟く。


「我々は、つい上ばかり見ておりましたな」


完全な称賛ではない。

けれど、否定でもない。


――それで十分。


私は一歩も引かず、しかし押しつけることもせず、その場に立っていた。


理解は、これから積み重ねればいい。

大切なのは、“誰のための商いか”を、今ここで共有できたこと。


隣で、セナが何も言わずに立っている。

その沈黙が、私には心強かった。


「では」

私は静かに締めくくる。


「その“初めて”を裏切らない品を、一緒に考えましょう」


もう一度、店の者たちが頷いた。

今度は、先ほどよりも少しだけ真剣な目で。


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