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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

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繋ぐ未来 1

ティアナside

ディランが王位を放棄した。――私のためだ。本当に、それでいいのだろうか。胸の奥がざわつく。


「ディラン……ほんとにいいの?」


「なにが?」


「アラン殿下が国王になるので」


「いいに決まってる。むしろ頼んだのは俺だしね」


あっさりと言うその声に、少しだけ肩の力が抜ける。


「そう……ですか」


「ティアナのおかげで兄ともちゃんと話せた。ありがとう」


そう言って、そっと頭を撫でてくる。その優しさが、逆に胸に刺さる。


「そもそも、俺は王位に興味ないしな」


「それは知ってます」


「ならいいだろ? お互い、城でじっとしてるタイプじゃないし」


「……それも、そうですね」


思わず笑みがこぼれた。ディランの言葉は、いつだって私の不安を軽くしてしまう。その後、後片付けや処理がどんどん進められていく中で――


「ティアナ様、こちら確認いただけますか?」


「はい。では……ここは、こうでよろしいですか?」


「ええ、助かります」


「ティアナ嬢、これなんですが」


「オーウェン団長、お疲れ様です。見せてもらっても?

……あ、ここ計算が違っていますね」


「本当だ。ありがとうございます」


次々と人がやってきて、私はその都度対応していく。気づけば、周囲の視線が集まっていた。


「なあ、ティアナ」


ディランが呆れたように声をかけてきた。


「なんです?」


「君は……何をしてる?」


「仕事です」


「なぜ?」


「暇だから?」


首を傾げると、ディランは深くため息をついた。


「はあ……君はほんと働き者だな」


困ったように笑うその顔が、どこか嬉しそうで。胸の奥が、じんわりと温かくなる。


「こちらは大助かりですよ。

やはりティアナ様に王妃になっていただけたら、皆喜びますよ」


レイがさらりと言う。その横でオーウェン団長たちが、まるで当然のように力強く頷いた。


「それはさせない」


即答するディランの声が、妙に真剣で思わず笑ってしまう。


「とりあえず、ここにいさせてもらっているので……できることをしようと思っただけですよ」


そう言うと、ディランが当然のように私の隣のソファへ腰を下ろした。


「なんですか?」


「近くで見てようと思ってね」


にやりと笑うその顔が、なんとも言えずずるい。


「なら、これとこれ確認してください。あと、これもです!」


バサッと書類を積んで渡すと、ディランは肩をすくめた。


「はいはい」


そのやり取りを見ていた周囲から、ひそひそ声が聞こえてくる。


「なんかお似合いですね」


「殿下が尻に敷かれているな……」


オーウェン団長たちがこそこそ話し、レイが口元に笑みを浮かべる。ディランは聞こえているのかいないのか、ただ静かに書類をめくりながら、時折こちらをちらりと見る。その視線が、なんだかくすぐったい。


1ヶ月後。


「では、お世話になりました」


深く頭を下げると、胸の奥がじんわりと熱くなる。長かったようで、あっという間だった。片付けも落ち着き、城の空気もようやく平穏を取り戻しつつある。ただ、王位継承の準備だけはまだ慌ただしく、正式な発表はこれからだ。


「本当に帰るのか?」


腕を組んだディランが、わかりやすく不満そうに眉を寄せる。その表情が、少しだけ愛おしい。


「伯爵家の方も心配なので」


「そうそう、俺たちも暇じゃないんだよー」


テオがゆるく笑う。


「すぐ会いに行く」


ディランが当然のように言うので、思わず笑ってしまった。


「来なくていいよ」


テオが即座に突っ込む。


「テオには言ってないが」


「はいはい、そうですか」


2人が軽く睨み合う。……本当に、いつも通り。そんな中で。


「ティアナ」


名前を呼ばれた瞬間、ディランの手がすっと伸びてきて、気づけばその腕の中にいた。


「あ、あのっ!」


驚きで声が裏返る。周囲の視線が一斉にこちらへ向くのがわかる。


「また会いに行く」


低く、落ち着いた声。耳元で響いて、心臓が跳ねる。


「……はい」


「愛してる」


「はいっ!? い、今ここで言うことですか!?」


顔が一気に熱くなる。よりによって、みんなの前で……!慌ててディランから離れると――


「あらあら〜お熱いわね」


ルイが頬に手をあてながら笑う。


「全くさ」


テオが呆れたように言い、セナが肩をすくめる。


「仲良しだな!!」


レオの明るい声が響き、場が一気に賑やかになる。アレンとロベルトは、気まずそうにそっぽを向いていた。


「お嬢様、帰りましょう」


ユウリが穏やかに微笑み、アリスも静かに頷く。私は深呼吸して、元気に返事をした。


「うん」


胸の奥が少しだけ寂しい。でも――また会える。そう思えるだけで、足取りは軽くなる。

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