あたたかな絆 5
ディランside
痛い……。腕の打撲に、肋骨まで折れてる。セナとテオ、本当に容赦なかった。でも――そんな痛みなんてどうでもいい。だって、こうしてティアナを抱きしめていられる。胸の中で眠る彼女の寝息が、静かに触れてくる。そのたびに胸がぎゅっとなる。愛おしくて、どうしようもない。このぬくもりを……俺は本当に失うところだった。短くなった髪にそっと触れる。柔らかくて、あたたかくて。全部、俺のせいだ。
セナとテオが止めてくれてよかった。みんなが来てくれて、本当に……救われた。
ティアナのぬくもりに包まれたまま眠り、朝――いや、昼か。彼女はまだ夢の中で、俺の腕の中にいる。しばらく見つめていると、ゆっくり目を開けた。起き上がろうとした瞬間、痛いふりをして彼女を引き寄せた。もう少しだけ…と甘えて。
すると、安心したようにまた目を閉じて、俺の胸に顔をうずめて眠った。……可愛い。反則だろ、こんなの。
疲れてるんだ。
怖かったんだ。
全部、俺のせいで。
ああ、離したくない。このままずっと、ここにいてほしい。俺だけの場所に。部下の責任だの、療養だの、いろいろ理由をつけてしばらく滞在してもらうことには成功したけど――
それでも足りない。全然足りない。
もっと近くにいてほしい。
もっと触れていたい。
もっと……俺を見てほしい。
ティアナが目を覚ますたび、最初に見るのが俺であってほしい。自分の独占欲の強さに呆れる。
今後について……ティアナとも、兄とちゃんと話すと約束した。だからまずは兄と向き合うことにした。
「兄上」
「ディラン」
「身体、相当痛いんじゃないか? 起きて大丈夫か?」
心配してくれているらしい。昔は嫌われていると思っていた。“可哀想だ”と言われたあの言葉がずっと刺さっていた。
でも――それは俺の勘違いだった。兄はずっと、俺を守ってくれていた。
「はい……大丈夫です」
「そうか」
「お願いがあります」
「……ああ、言ってみろ」
「次期国王に、兄上になっていただきたい」
そう言うと、兄は優雅に足を組み直した。
「へぇー、どうして?」
わかっていて聞いている。兄は昔からそういう人だ。
「俺は国王の座に興味もないし、そんな度量もありません」
「そんなことはないだろう。
今まで積み重ねてきたのはお前だ。私じゃない」
「……それでもです」
兄は少しだけ目を細め、面白そうに息をついた。
「ふーん」
わかっていて聞いている顔だ。兄は昔から、俺が何を言いたいのかすぐに察する。
「俺は……ティアナが好きです」
「それは知ってる」
即答だ。
「彼女が笑っていられることが、俺の最優先事項です。
だから俺は国王にはならない。
彼女は王妃になることを望んでいません」
「うーん、それはさ。
さすがに勝手というのでは?」
兄がこちらを見る。
その目は叱るでもなく、呆れるでもなく……ただ、兄らしい。
「そうです。俺は勝手です。
彼女が一番大切で、彼女と共にありたい。
そばにいたいけど……国王という座が邪魔なんです。
どうにかしてください」
言ってから、自分でも笑えてきた。我ながら、随分勝手だ。
でも――それでも、譲れない。
「なるほどね。
随分と弟が良い顔になった……これも彼女のおかげか。」
兄の言葉に、わずかに肩をすくめた。断られるかもしれない――そんな不安が胸をよぎる。
「いいだろう……」
微笑む兄。
「本当ですか……?」
「ああ。ただし、条件がある。」
「なんですか?」
思わず身構える。どんなことを頼まれるのか…。
「私のことをお兄様と敬い、月に一度は私との時間を作ってくれ。」
「は?」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。
「ティアナ嬢だけずるいだろ。
私だって、可愛い弟を愛でたいのに」
「待ってください、なんですかそれ」
「ティアナ嬢に言われたんだよ。
『貴方も、ディランとよく似ています。
言葉が足りないところも、不器用なところも。
でも――大切に思っている気持ちだけは、本物です』って。」
「ティアナ……」
小さく息をのむ。自分の知らないところで、そんな会話があったとは。
「だからちゃんと向き合いたいと思ってる。
もう一人では背負わせない。一緒に歩いて行こう。」
兄の真っ直ぐな言葉に、俺は視線を落としながらも、
静かに頷いた。
「……はい。」
「それと、これ。」
兄が差し出した小さな箱。プレゼントだろうか。
「なんです?」
「ティアナ嬢に付き合ってもらって、お前のプレゼントを選んだんだ。」
「はあ……」
兄と出かけた日のことが脳裏をよぎる。箱を受けとり、そっと蓋を開けた。
「これは……」
箱の中には、上質な銀のカフリンクスが収まっていた。
装飾は控えめで、王族らしい品の良さだけが静かに光っている。思わず指先でそっと触れた。
「よければ使ってくれ」
兄の声はどこか照れくさそうだ。
「……ありがとうございます。」
「どうしてこれを俺に?」
「ん? 弟と仲良くなりたいからだよ。
いままで、すれ違ってばかりだったからね。」
「はあ……」
俺は曖昧に返しながらも、胸の奥が少しだけ温かくなる。
兄は続ける。
「私が王になるのはいいが――
ディラン、お前にもきちんと働いてもらうからな。」
「それは……わかってます。」
「そうか。ならいい。」
兄は満足そうに笑った。その笑顔は、王族としての威厳よりも、ただ弟を大切に思う兄のそれだった。とりあえずこれで俺は動きやすくなる。兄に感謝だな、と胸の奥で小さく息をつく。
ティアナがこちらを見上げてくる。その瞳は、どこか落ち着かないようで、けれど俺の様子を気遣う色が濃かった。
「私も、みんなの手伝いしてきていい?」
その言葉が終わる前に、思わず口が動いた。
「だめだ」
即答だった。自分でも驚くほど強い声だったが、引っ込める気にはなれない。彼女だって怪我してる。これ以上無理を重ねる必要なんてない。それに――俺の目の届くところにいてほしい。頼むから。ティアナは一瞬だけ目を丸くし、すぐに視線をそらした。頬がわずかに赤くなっているのがわかる。
身体を拭いてっと頼めば、渋々といった様子で立ち上がり、タオルを手に戻ってくる。その仕草がどこかぎこちなくて、逆に愛おしい。俺の後ろに膝をつき、そっと背中に触れた瞬間、彼女の指先の温度がじんわりと伝わってくる。
「ねぇ、ディラン。前より……たくましくなりました?」
その声は、囁くように静かで、
まるで俺の変化を確かめるように、ゆっくりと胸の奥に落ちてくる。
ティアナの好みの身体がレイだと知ってから、俺は密かに筋トレを続けてきた。まさかこんな時にお披露目になるとは思わなかったが。ふいに、指先が背中をなぞった。思わず身構える。
そして――
俺の背にぴたりと寄り添ってきた。
距離が近すぎて、心臓が跳ねる。無自覚にも程がある。思わず、ティアナを軽く押し倒す。だが、その本人はどこか余裕そうに筋肉を見ている。
この子は全く…だから首筋にキスを落とした。その反応がいちいち可愛いくて、たまらない。
そしたら、タイミング悪くみんなに見られたが。まあ、でもいい。これから彼女を、たっぷり甘やかして可愛がる。




