あたたかな絆 4
「さて、とりあえず真面目な話だ。」
ディランが静かに息を吸い込み、皆の前に立つ。その表情はいつもの軽さが消え、どこか覚悟を決めたような影が差していた。
「まずは……今回、俺のせいでみんなに迷惑をかけた。」
深く、深く頭を下げる。その姿に、部屋の空気が一瞬止まった。
「……え?」
「ディランが……頭を下げた?」
みんながぽかんと目を丸くする。普段の彼からは想像できないほど素直な謝罪だった。
「助けてくれて、本当に感謝してる。ありがとう。」
その言葉は、飾り気がなく、まっすぐだった。
「そんな素直に言われると、なんかむず痒いよね……」
テオが頬をかきながら苦笑する。
「まあ、でもどうにかなって良かったよな!!」
レオが勢いよく言い、場の空気が少しだけ和らぐ。だが、ルイがすぐに現実へ引き戻した。
「でもそれはそれとして……今回の件、どう処理するの?」
ユウリも真剣な眼差しで続く。
「どこまで公にするおつもりですか?」
ディランは短く息を吐き、視線を落とした。
「……とりあえず、ジョルジュのことだが。
両親の死の真相、ガイルの件……これらは伏せるつもりだ」
その声は低く、重かった。
「今さらジョルジュが関わっていたと話したところで、国民は混乱する。
それだけじゃない……動機を説明する必要も出てくる。」
動機――不老不死。魔女の雫、紅血、そして……私の共鳴の力。それらを公にするなど、到底できない。
「それは……よくないですね。」
ユウリが静かに頷く。
「ああ。俺の意図しないところまで広がってしまう。
ティアナの力についても触れざるを得なくなる。それは避けたい。」
守ろうとしてくれている――その気持ちが胸に刺さる。
「だから今回の件は、ジョルジュが秘密裏に研究していた魔宝獣が暴走し、
ジョルジュはその研究に失敗して亡くなった……そういう形にする。」
淡々と語られる“偽りの真相”。だが、それが国を守るための最善なのだと分かる。
「研究施設の崩落も、魔宝獣の暴走が原因……ですね。」
セナが確認するように呟く。
「そうだ。」
ルイが肩を落とす。
「どっちにしても……大変ね。
ディラン殿下が国王になるなんて。」
ディランが国王――その隣に立つなら、私は王妃としての覚悟を決めなければならない。そう思った矢先。
「いや、俺は辞退する。」
あまりにもさらりと言われて、思考が止まった。
「はああああああああ!?」
全員が揃って叫ぶ。
「今回……俺は祖父が長年企んできたことを見逃し、
まんまと乗っ取られた。」
ディランは肩をすくめ、苦笑すら浮かべていた。
「だけど、それは――」
思わず言いかけた私の声を遮るように、レオが叫ぶ。
「じゃあ誰が……」
その瞬間。
「入るよ」
扉が開き、落ち着いた声が響いた。
「あ、アラン殿下……!」
ディランの兄が姿を現す。ルイが目を輝かせ、手を叩いた。
「やだ、待って。すごい良い逸材がいたじゃない。」
ディランは満足げに頷く。
「そういうことだ」
兄弟の視線が交わる。
「みんな揃っているね、邪魔するよ」
柔らかな声とともに扉が開き、アラン殿下が姿を見せた。その瞬間、部屋の空気がわずかに引き締まる。レイさんがすぐに立ち上がり、殿下のために席を整えた。アラン殿下は軽く礼をして腰を下ろす。ディランは兄の姿を確認すると、迷いのない声で告げた。
「俺ではなく、兄上に国王になってもらう。
今回、魔宝獣を撃退し、怪我人は出たものの……死人を出さずに済んだのは、間違いなく兄上のおかげだ」
その言葉に、アラン殿下は目を細め、口元を綻ばせた。
「弟に面と向かって褒められるとは、良い気分だな。」
本当に嬉しそうに笑う。その笑顔を見て、ディランもどこか照れくさそうに視線を逸らした。――ちゃんと話し合えたんだな。そう思いながらディランを見ると、彼は私の視線に気づき、柔らかく頷いた。
「エメラルドの瞳にこだわっていたジョルジュもいないし、今回の功績を踏まえれば妥当な判断だろう」
ディランが淡々と告げる。
「はあー、なるほどねー。上手く逃げたねー」
テオがソファにだらしなくもたれかかりながら言う。
「まあ、そうともとれるね」
ディランは肩をすくめ、どこか吹っ切れたような表情を見せた。ルイが小首を傾げる。
「でも、アラン殿下はそれでいいの?」
アラン殿下は即答した。
「ああ、可愛い弟のためだ。
それに私は、動き回って何かするよりも……椅子にふんぞり返って、私の指示でみんなに動いてもらう方が向いている。」
その言い方があまりにも堂々としていて、私は思わず苦笑してしまう。
「良い性格してますね」
「ありがとう」
アラン殿下は満足げに笑った。その笑顔は、王としての器を自然と感じさせるものだった。
「まあ、その代わり……私が王になったら、
君たちには色々動いてもらうよ。覚悟しておいてくれ」
アラン殿下の言葉に、ディランが肩をすくめた。
「結局、俺たち王国にいいように使われるじゃん〜」
「ちょっと、テオ!」
テオが伸びをしながら言うと、私は思わず口を挟む。
「まあ、悪いようにはしないよ。
君たちは弟の恩人だからね」
アラン殿下は穏やかに笑った。
「ふふ、いいわね〜兄弟って」
ルイが微笑む。
「そうだな!
俺、ディラン殿下に兄がいるなんて知らなかったけどな!」
レオが楽しそうに言うと、ディランは少し照れたように視線をそらした。
「まあ、話したことはなかったしな」
「とりあえず……しばらくは忙しくなりそうですね」
レイが静かに告げる。
そうして私たちは、ディランの部屋を後にした。廊下に出ると、ユウリがすっと横に並んだ。
「お嬢様、よかったですね」
「え?」
「王妃にならなくて済みそうです」
「あー……そうだね」
「嬉しくないんですか?」
「いや、それはもう……雪の中を転げ回りたいくらいには嬉しいんだけど」
「やめてください。傷口開きます」
ユウリの冷たい視線が刺さる。流石にそんなことはしないけど。
「なんか……上手く手を打たれたというか……なんだろうな」
「わかる!俺わかるよ!」
テオが勢いよく隣に割り込む。
「あいつ、うまーく兄に投げたよねー」
「そうですね」
セナが淡々と続ける。
「お嬢様の気持ちも尊重した上で丸投げしましたね」
「えー!王様ってかっこいいのにな!!」
レオが大声をあげる。
「レオちゃんは単純ね」
ルイが笑いながら首を傾げる。
「でも……いつからそんなこと考えてたのかしら?」
その瞬間、全員の視線が後ろのレイさんに向く。レイさんは咳払いし、眼鏡をクイッと上げた。
「私にも正確な時期はわかりませんが……ただ、あの方は」
ちらりと私を見るレイさん。思わず小首を傾げる。
「“欲しい”と思ったものには、時間をかけて計画を練るタイプです。
そして、甘やかす時は徹底的に甘やかします。
ティアナ様が望まないもの、邪魔になるものは……まあ、排除するでしょうね」
「ということは……」
ルイが言う。
「最初から考えていた可能性はありますね」
ユウリが静かに告げた。
「え?」
「うわ、重っ!」
テオが叫ぶ。
「いや、お前が言うな」
セナが即ツッコミ。
「お嬢さん、愛されてますねー!!」
レオの明るい声が廊下に響いた。




