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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

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あたたかな絆 4

「さて、とりあえず真面目な話だ。」


ディランが静かに息を吸い込み、皆の前に立つ。その表情はいつもの軽さが消え、どこか覚悟を決めたような影が差していた。


「まずは……今回、俺のせいでみんなに迷惑をかけた。」


深く、深く頭を下げる。その姿に、部屋の空気が一瞬止まった。


「……え?」


「ディランが……頭を下げた?」


みんながぽかんと目を丸くする。普段の彼からは想像できないほど素直な謝罪だった。


「助けてくれて、本当に感謝してる。ありがとう。」


その言葉は、飾り気がなく、まっすぐだった。


「そんな素直に言われると、なんかむず痒いよね……」


テオが頬をかきながら苦笑する。


「まあ、でもどうにかなって良かったよな!!」


レオが勢いよく言い、場の空気が少しだけ和らぐ。だが、ルイがすぐに現実へ引き戻した。


「でもそれはそれとして……今回の件、どう処理するの?」


ユウリも真剣な眼差しで続く。


「どこまで公にするおつもりですか?」


ディランは短く息を吐き、視線を落とした。


「……とりあえず、ジョルジュのことだが。

両親の死の真相、ガイルの件……これらは伏せるつもりだ」


その声は低く、重かった。


「今さらジョルジュが関わっていたと話したところで、国民は混乱する。

それだけじゃない……動機を説明する必要も出てくる。」


動機――不老不死。魔女の雫、紅血、そして……私の共鳴の力。それらを公にするなど、到底できない。


「それは……よくないですね。」


ユウリが静かに頷く。


「ああ。俺の意図しないところまで広がってしまう。

ティアナの力についても触れざるを得なくなる。それは避けたい。」


守ろうとしてくれている――その気持ちが胸に刺さる。


「だから今回の件は、ジョルジュが秘密裏に研究していた魔宝獣が暴走し、

ジョルジュはその研究に失敗して亡くなった……そういう形にする。」


淡々と語られる“偽りの真相”。だが、それが国を守るための最善なのだと分かる。


「研究施設の崩落も、魔宝獣の暴走が原因……ですね。」


セナが確認するように呟く。


「そうだ。」


ルイが肩を落とす。


「どっちにしても……大変ね。

ディラン殿下が国王になるなんて。」


ディランが国王――その隣に立つなら、私は王妃としての覚悟を決めなければならない。そう思った矢先。


「いや、俺は辞退する。」


あまりにもさらりと言われて、思考が止まった。


「はああああああああ!?」


全員が揃って叫ぶ。


「今回……俺は祖父が長年企んできたことを見逃し、

まんまと乗っ取られた。」


ディランは肩をすくめ、苦笑すら浮かべていた。


「だけど、それは――」


思わず言いかけた私の声を遮るように、レオが叫ぶ。


「じゃあ誰が……」


その瞬間。


「入るよ」


扉が開き、落ち着いた声が響いた。


「あ、アラン殿下……!」


ディランの兄が姿を現す。ルイが目を輝かせ、手を叩いた。


「やだ、待って。すごい良い逸材がいたじゃない。」


ディランは満足げに頷く。


「そういうことだ」


兄弟の視線が交わる。


「みんな揃っているね、邪魔するよ」


柔らかな声とともに扉が開き、アラン殿下が姿を見せた。その瞬間、部屋の空気がわずかに引き締まる。レイさんがすぐに立ち上がり、殿下のために席を整えた。アラン殿下は軽く礼をして腰を下ろす。ディランは兄の姿を確認すると、迷いのない声で告げた。


「俺ではなく、兄上に国王になってもらう。

今回、魔宝獣を撃退し、怪我人は出たものの……死人を出さずに済んだのは、間違いなく兄上のおかげだ」


その言葉に、アラン殿下は目を細め、口元を綻ばせた。


「弟に面と向かって褒められるとは、良い気分だな。」


本当に嬉しそうに笑う。その笑顔を見て、ディランもどこか照れくさそうに視線を逸らした。――ちゃんと話し合えたんだな。そう思いながらディランを見ると、彼は私の視線に気づき、柔らかく頷いた。


「エメラルドの瞳にこだわっていたジョルジュもいないし、今回の功績を踏まえれば妥当な判断だろう」


ディランが淡々と告げる。


「はあー、なるほどねー。上手く逃げたねー」


テオがソファにだらしなくもたれかかりながら言う。


「まあ、そうともとれるね」


ディランは肩をすくめ、どこか吹っ切れたような表情を見せた。ルイが小首を傾げる。


「でも、アラン殿下はそれでいいの?」


アラン殿下は即答した。


「ああ、可愛い弟のためだ。

それに私は、動き回って何かするよりも……椅子にふんぞり返って、私の指示でみんなに動いてもらう方が向いている。」


その言い方があまりにも堂々としていて、私は思わず苦笑してしまう。


「良い性格してますね」


「ありがとう」


アラン殿下は満足げに笑った。その笑顔は、王としての器を自然と感じさせるものだった。


「まあ、その代わり……私が王になったら、

君たちには色々動いてもらうよ。覚悟しておいてくれ」


アラン殿下の言葉に、ディランが肩をすくめた。


「結局、俺たち王国にいいように使われるじゃん〜」


「ちょっと、テオ!」

テオが伸びをしながら言うと、私は思わず口を挟む。


「まあ、悪いようにはしないよ。

君たちは弟の恩人だからね」


アラン殿下は穏やかに笑った。


「ふふ、いいわね〜兄弟って」

ルイが微笑む。


「そうだな!

俺、ディラン殿下に兄がいるなんて知らなかったけどな!」


レオが楽しそうに言うと、ディランは少し照れたように視線をそらした。


「まあ、話したことはなかったしな」


「とりあえず……しばらくは忙しくなりそうですね」

レイが静かに告げる。


そうして私たちは、ディランの部屋を後にした。廊下に出ると、ユウリがすっと横に並んだ。


「お嬢様、よかったですね」


「え?」


「王妃にならなくて済みそうです」


「あー……そうだね」


「嬉しくないんですか?」


「いや、それはもう……雪の中を転げ回りたいくらいには嬉しいんだけど」


「やめてください。傷口開きます」


ユウリの冷たい視線が刺さる。流石にそんなことはしないけど。


「なんか……上手く手を打たれたというか……なんだろうな」


「わかる!俺わかるよ!」

テオが勢いよく隣に割り込む。


「あいつ、うまーく兄に投げたよねー」


「そうですね」

セナが淡々と続ける。


「お嬢様の気持ちも尊重した上で丸投げしましたね」


「えー!王様ってかっこいいのにな!!」

レオが大声をあげる。


「レオちゃんは単純ね」

ルイが笑いながら首を傾げる。


「でも……いつからそんなこと考えてたのかしら?」


その瞬間、全員の視線が後ろのレイさんに向く。レイさんは咳払いし、眼鏡をクイッと上げた。


「私にも正確な時期はわかりませんが……ただ、あの方は」


ちらりと私を見るレイさん。思わず小首を傾げる。


「“欲しい”と思ったものには、時間をかけて計画を練るタイプです。

そして、甘やかす時は徹底的に甘やかします。

ティアナ様が望まないもの、邪魔になるものは……まあ、排除するでしょうね」


「ということは……」

ルイが言う。


「最初から考えていた可能性はありますね」

ユウリが静かに告げた。


「え?」


「うわ、重っ!」

テオが叫ぶ。


「いや、お前が言うな」

セナが即ツッコミ。


「お嬢さん、愛されてますねー!!」

レオの明るい声が廊下に響いた。

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