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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

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あたたかな絆 3

そして数日後。外はすっかり雪景色に染まっていた。私はというと――


「ねえ、ディラン」


ベッドの上で横になっているディランに声をかける。


「なんだ?」


「私も、みんなの手伝いしてきていい?」


外では皆が雪かきをしたり、瓦礫を片付けたりと動き始めている。しかしディランは即答した。


「だめだ」


「なんでよ」


「君はゆっくり休め。足の怪我、まだ治ってないだろう」


「それもそうだけど……」


言いかけたところで、ディランがふっと目を細めた。


「なら、俺の身体を拭いてくれるか?」


「え?」


「君にしか頼めない」


「そんなことないでしょう」


「だけど、君がいい」


その言い方がずるい。私はため息をつきながら立ち上がった。ベッドの近くのテーブルにはお湯の張られた容器とタオル、そして着替えが用意されている。さっき侍女が持ってきてくれたものだが、ディランは「自分でやる」と言って受け取っていた。私はそれらを手元に置き、ディランのそばへ近づく。


「服、脱いでください」


「ああ」


ディランは素直に服を脱ぎ始めた。鍛え抜かれた筋肉が露わになる。……あれ?なんだか前よりたくましくなってない?服の上からしか見たことなかったけど――。背中をタオルでそっと拭う。


「痛くないですか?」


「ああ、大丈夫だ」


ディランの肩から背中へ、ゆっくりとタオルを滑らせていく。


「ねぇ、ディラン。前よりたくましくなりました?」


「お、よくわかったな。実は筋肉増量中だ」


「へぇー」


「君の好みが、レイやセナみたいに“筋肉質”だって聞いたからな」


「あー……まあ」


曖昧に濁す。少し触ってみたい気持ちが、つい指先に出てしまう。そっと、背中をなぞるように触れた。


「……テ、ティアナ?」


「あ、ごめんなさい。痛かった?」


「いや。くすぐったい」


その言葉に、思わずディランの背にぴたりと寄り添ってしまう。


「……どうした?」


珍しく声が揺れている。


「あったかいですね」


そう言うと、ディランが顔を赤くしてこちらを振り向いた。


「それは……煽ってるよね?」


「え?」


次の瞬間、ディランに手を取られ、軽くベッドへと横にされる。押し倒された、というほど強引ではない。ただ、真正面から見上げる形になってしまう。

鍛えている筋肉だ。包帯の巻かれた傷は痛々しいのに、それでも彼の体は引き締まっていて、目を奪われる。そんなことを呑気に考えていると――


「随分と余裕があるね」


ディランがニヤリと笑う。その目は、さっきまでの穏やかさとは違う熱を帯びていた。


「え?」


「俺はこんなにも君に乱されてるのに」


低く落とされた声が、胸の奥をくすぐる。手を取られ、指が絡まる。そのまま、首元にそっと唇が触れた。


「ひ、ひいっ!」


「すごい声だな」


「へ、変なところにしないでくださいよ!」


「ふふ。君が悪い」


「……」


思わず睨みつけると、ディランは楽しそうに目を細めた。


「そんなに見つめられると照れる」


「見つめてません。睨んでます」


「そうか。可愛いな」


「……この王子は」


胸の鼓動が落ち着かないまま、言い返す。コンコン。


「殿下、入りますよ」


ガチャッ。レイさんが入ってきた。


「あ」


ディランの間の抜けた声が漏れる。私も反射的に背筋が伸びた。


「……ち、ちがいます!」

私は慌てて否定する。


しかし、部屋に入ってきた仲間たちは一瞬固まり――


「何してるんです?」

「はあああ!?」

「お、お嬢さんが!!」

「離れろ!」

「肋骨全部折るか」

「そうしましょう」


ユウリ、ルイ、レオ、セナ、テオ、アリスが、まるで合唱のように一斉に声を上げた。ディランはため息をつき、私の手をそっと離す。


「……誤解だ」


「誤解じゃないでしょう!!」


レイさんの怒号が部屋に響いた。ディランがレイさんに怒られ、部屋の空気が一瞬だけピリッと張りつめた。その余波を受けた私はというと、ディランからそっと距離を置かれ、アリスとテオに両脇を固められながら、まるで保護対象のようにソファへ座らされていた。アリスは心配そうに身を乗り出し、テオは眉間に皺を寄せて周囲を警戒している。


「お嬢様、大丈夫ですか? あいつは狼ですよ!」


「油断もクソもない、ほんとに…」


アリスとテオの声が重なり、私は肩をすくめる。


「お嬢様…良い筋肉があっても、触ってはダメです」


「ユ、ユウリ…」


「特にそこの王子は危険ですからね」


ユウリの言葉に私は曖昧に笑うしかなかった。


「あはは…」


そんな空気をぶち壊すように、レオが勢いよく袖をまくった。


「お嬢さん、筋肉フェチ!? 俺のはどう!?」


光を受けて浮かび上がる腕の筋肉を、これでもかと見せつけてくる。


「レオちゃん、余計ややこしくなるからやめなさい!」


「ええー」


ルイが一喝し、レオが不満げに口を尖らせる。


そんな賑やかなやり取りの最中、


「とりあえず今後のことを話すのでは?」


セナの冷静な言葉に私は反射的に背筋を伸ばす。


「そうだったな」


ディランはそういいながら、さっきまで怒られていたとは思えないほど涼しい顔で、乱れた服を丁寧に整えていた。その仕草が妙に落ち着いていて、逆に腹が立つほどだった。

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