あたたかな絆 3
そして数日後。外はすっかり雪景色に染まっていた。私はというと――
「ねえ、ディラン」
ベッドの上で横になっているディランに声をかける。
「なんだ?」
「私も、みんなの手伝いしてきていい?」
外では皆が雪かきをしたり、瓦礫を片付けたりと動き始めている。しかしディランは即答した。
「だめだ」
「なんでよ」
「君はゆっくり休め。足の怪我、まだ治ってないだろう」
「それもそうだけど……」
言いかけたところで、ディランがふっと目を細めた。
「なら、俺の身体を拭いてくれるか?」
「え?」
「君にしか頼めない」
「そんなことないでしょう」
「だけど、君がいい」
その言い方がずるい。私はため息をつきながら立ち上がった。ベッドの近くのテーブルにはお湯の張られた容器とタオル、そして着替えが用意されている。さっき侍女が持ってきてくれたものだが、ディランは「自分でやる」と言って受け取っていた。私はそれらを手元に置き、ディランのそばへ近づく。
「服、脱いでください」
「ああ」
ディランは素直に服を脱ぎ始めた。鍛え抜かれた筋肉が露わになる。……あれ?なんだか前よりたくましくなってない?服の上からしか見たことなかったけど――。背中をタオルでそっと拭う。
「痛くないですか?」
「ああ、大丈夫だ」
ディランの肩から背中へ、ゆっくりとタオルを滑らせていく。
「ねぇ、ディラン。前よりたくましくなりました?」
「お、よくわかったな。実は筋肉増量中だ」
「へぇー」
「君の好みが、レイやセナみたいに“筋肉質”だって聞いたからな」
「あー……まあ」
曖昧に濁す。少し触ってみたい気持ちが、つい指先に出てしまう。そっと、背中をなぞるように触れた。
「……テ、ティアナ?」
「あ、ごめんなさい。痛かった?」
「いや。くすぐったい」
その言葉に、思わずディランの背にぴたりと寄り添ってしまう。
「……どうした?」
珍しく声が揺れている。
「あったかいですね」
そう言うと、ディランが顔を赤くしてこちらを振り向いた。
「それは……煽ってるよね?」
「え?」
次の瞬間、ディランに手を取られ、軽くベッドへと横にされる。押し倒された、というほど強引ではない。ただ、真正面から見上げる形になってしまう。
鍛えている筋肉だ。包帯の巻かれた傷は痛々しいのに、それでも彼の体は引き締まっていて、目を奪われる。そんなことを呑気に考えていると――
「随分と余裕があるね」
ディランがニヤリと笑う。その目は、さっきまでの穏やかさとは違う熱を帯びていた。
「え?」
「俺はこんなにも君に乱されてるのに」
低く落とされた声が、胸の奥をくすぐる。手を取られ、指が絡まる。そのまま、首元にそっと唇が触れた。
「ひ、ひいっ!」
「すごい声だな」
「へ、変なところにしないでくださいよ!」
「ふふ。君が悪い」
「……」
思わず睨みつけると、ディランは楽しそうに目を細めた。
「そんなに見つめられると照れる」
「見つめてません。睨んでます」
「そうか。可愛いな」
「……この王子は」
胸の鼓動が落ち着かないまま、言い返す。コンコン。
「殿下、入りますよ」
ガチャッ。レイさんが入ってきた。
「あ」
ディランの間の抜けた声が漏れる。私も反射的に背筋が伸びた。
「……ち、ちがいます!」
私は慌てて否定する。
しかし、部屋に入ってきた仲間たちは一瞬固まり――
「何してるんです?」
「はあああ!?」
「お、お嬢さんが!!」
「離れろ!」
「肋骨全部折るか」
「そうしましょう」
ユウリ、ルイ、レオ、セナ、テオ、アリスが、まるで合唱のように一斉に声を上げた。ディランはため息をつき、私の手をそっと離す。
「……誤解だ」
「誤解じゃないでしょう!!」
レイさんの怒号が部屋に響いた。ディランがレイさんに怒られ、部屋の空気が一瞬だけピリッと張りつめた。その余波を受けた私はというと、ディランからそっと距離を置かれ、アリスとテオに両脇を固められながら、まるで保護対象のようにソファへ座らされていた。アリスは心配そうに身を乗り出し、テオは眉間に皺を寄せて周囲を警戒している。
「お嬢様、大丈夫ですか? あいつは狼ですよ!」
「油断もクソもない、ほんとに…」
アリスとテオの声が重なり、私は肩をすくめる。
「お嬢様…良い筋肉があっても、触ってはダメです」
「ユ、ユウリ…」
「特にそこの王子は危険ですからね」
ユウリの言葉に私は曖昧に笑うしかなかった。
「あはは…」
そんな空気をぶち壊すように、レオが勢いよく袖をまくった。
「お嬢さん、筋肉フェチ!? 俺のはどう!?」
光を受けて浮かび上がる腕の筋肉を、これでもかと見せつけてくる。
「レオちゃん、余計ややこしくなるからやめなさい!」
「ええー」
ルイが一喝し、レオが不満げに口を尖らせる。
そんな賑やかなやり取りの最中、
「とりあえず今後のことを話すのでは?」
セナの冷静な言葉に私は反射的に背筋を伸ばす。
「そうだったな」
ディランはそういいながら、さっきまで怒られていたとは思えないほど涼しい顔で、乱れた服を丁寧に整えていた。その仕草が妙に落ち着いていて、逆に腹が立つほどだった。




