あたたかな絆 2
食事の部屋に入ると、温かい香りがふわりと漂ってきた。
テーブルには料理が並びつつあり、アレンとロベルトも皿を運んでいるところだった。2人ともこちらを見て、私の両腕をがっちりつかんでいるレオとテオの姿に、ぽかんと目を丸くする。
「お嬢様、よく休めましたか?
……というか、何ですかその状態は」
ユウリが皿を並べながら、呆れたように眉を下げる。
「お嬢さんの護衛隊です!」
レオが胸を張って堂々と宣言する。その横でテオがすかさずツッコミを入れた。
「違くもないけどさ!!」
「俺もその護衛隊入りたいです!」
アレンが元気よく手を挙げる。その無邪気さに、ロベルトがふっと優しく笑った。
「じゃあアレンは副隊長補佐だな!」
レオが即興で役職をつけると、
「わあ! やった!!」
アレンは子どものように喜んだ。
「ちょっと待って、それ誰が隊長?」
テオが眉をひそめて問いただす。
「それはもちろん俺!
テオは副隊長ね」
レオが当然のように胸を張る。
「何で! そこは俺が隊長でしょ!?」
テオが食い気味に反論する。
「えー、俺だよ!
俺の方がお兄さんだからな!」
レオが勝ち誇ったように言うと、テオのこめかみがぴくりと動いた。兄弟げんかのような言い合いに、部屋の空気が一気に賑やかになる。
「とりあえず、お嬢様、お席にどうぞ」
セナが静かに椅子を引いてくれる。その動作はいつも通り丁寧で、落ち着いている。
「ありがとう、セナ」
ようやく両腕をつかんでいたレオとテオが手を離し、私は腰掛けた。座った瞬間、足の力が抜けてほっと息が漏れる。
「セナも休めた?」
「はい、俺は大丈夫です」
「そっか」
短いやり取りだけど、セナの声はいつも通り落ち着いていて安心する。
「それにしても、しばらく滞在するって……どのぐらいですか?」
セナが問いかける。
「うーん、そこはまだ何とも。
伯爵家は大丈夫かな?」
「それは大丈夫ですよ。
マルク様がヒィーヒィー言いながら仕事してましたから」
アリスが淡々と告げる。
……がんばれ兄。
「殿下も怪我をされていますし、やることは盛りだくさんでしょう。
人手は欲しいはずです」
ユウリが静かに補足する。
「それと……部下のしたことだから主人の責任、とか何とか言い訳つけて、
お嬢様を帰さないためになんかふっかけたのでしょう」
ユウリがさらりと言う。……す、するどい。
「それ俺たちのせい?」
テオが言うと、セナが肩をすくめた。
「ははは……」
私は苦笑するしかない。
「でも、実際国王がやらかしてたわけじゃない?
次期国王って、ディラン殿下ってことよね?」
ルイが首をかしげる。
「まあ、そうなりますよね」
セナが頷く。
「ディラン殿下が……国王か」
ロベルトがぽつりとつぶやく。
「すごいですね。
でもなんか、遠くの人になっちゃいますね」
アレンが感嘆の声を漏らした。
「とりあえず、ご飯にしましょうか」
ユウリの声に、みんながそれぞれ席につく。賑やかだった空気が、食事の香りとともに少し落ち着いていった。食事を終え部屋から出たところで、
「お嬢様」
「ルーク団長、今回はご協力いただきありがとうございます」
「いえいえ〜。何とかなってよかったです」
ルーク団長がゆるく笑う。その笑顔に、ようやく緊張がほどけていくのを感じた。
「オリバー副団長、エリックもありがとうございます」
「いえ、お力になれて良かったです」
オリバーの言葉に、エリックも静かに頷く。3人の表情には、安堵と、ほんの少しの心配が混じっていた。
「我々は報告も兼ねて、一足先に伯爵家へ戻りますね。明日あたりから雪が降るそうですから」
「わかりました。伯爵家のこと、よろしくお願いします」
「ええ。お嬢様はゆっくりしてきてください」
「セナ、お嬢様をよろしくな」
ルーク団長の言葉に、
「はい」
セナが力強く頷く。その横顔が妙に頼もしくて、胸が温かくなる。そして3人は、一足先に帰っていった。
「お嬢様」
「なに?」
「傷、痛みますか?」
セナの手がそっとの頬のガーゼへと伸びる。触れられる寸前、指先の温度が伝わってきて、心臓が少し跳ねた。
「大丈夫。
セナとテオが来てくれたから」
そう言って笑うと、セナの表情が一瞬だけ揺れて手をそっと下ろす。その揺れが、なぜか胸に刺さる。
「その顔…少し自分を責めてますね」
「え?なんでわかるの!」
「お嬢様のことはお見通しです。
どうせ、また“私がもっと強かったら”とか思ってるんでしょう?」
図星を刺されて、言葉に詰まる。自分の弱さを見透かされるのは、恥ずかしいのに、どこか安心する。
「え、エスパー?」
真面目に聞いてみると、セナが柔らかく笑った。
「お嬢様は強いですよ。力だけじゃない。何より、心が」
その言葉が胸に染みた。
「そうやってさ…みんな甘やかす」
「いいじゃないですか。いっぱい頑張ったんですから。甘やかされたって」
そう言って、セナの手がそっと頭を撫でる。その優しさに、思わず目を伏せた。触れられるたび、心の奥の不安が溶けていく。
「間に合って良かったです。
俺も、もっと精進します」
その声は、まっすぐで、温かくて。“守りたい”という気持ちが、言葉の端々から滲んでいた。
「お嬢さまー」
ふいに、ぎゅーっと優しく後ろから抱きしめられる。
温かい腕が腰に回り、背中に触れる体温に思わず息が止まった。
「テオ…」
「またお前は…」
セナがため息をつく。
「いいでしょう?
あいつも、ルイもレオもさ、お嬢様にくっつきすぎ。
セナだって、さっき頭撫でてた!」
「…副団長と呼べ」
「あーそうだった」
テオが緩く笑う。その無邪気さに、少しだけ心が和む。
「お嬢様、ほんと無事でよかった。
怪我させちゃって、ごめんね」
耳元に落ちる声は、いつになく優しくて。抱きしめられたままでは、心まで溶けてしまいそうだった。
「ううん。本当にありがとうね。
2人が一緒に追いかけてきてくれて、良かったよ」
「そりゃあね!
お嬢様の行くところは、俺どこだってついていくから!」
「ふふ…」
「だから、この先も…ずっと一緒ね」
耳元で囁かれた瞬間、胸がドキッと跳ねた。息が触れた気がして、思わず肩が震える。
「おい…離れろ」
低い声が割り込む。
「あれー、乗っ取られ王子?もう動けるの?」
「まあね…
っというか、その呼び方やめろ」
ディランがレイと一緒に現れる。まだ痛むはずの身体で歩いてくる姿に、胸がきゅっと締めつけられた。よく歩けるな…無理してるのが、見ているだけでわかる。テオがゆっくり腕をほどいたので、私はディランに一歩近づく。
「ディラン、大丈夫?」
「ああ」
「大丈夫じゃないです。
肋骨が何本も折れてますので、絶対安静なんですよ…本当は」
レイが眼鏡の奥から鋭い視線を向ける。その言葉に、テオとセナがしれっと横を向いた。
「ディラン、はやく戻ろ。ゆっくりしよ?」
「そうだな」
ディランは優しく笑い、私の頭をそっと撫でる。その手つきがあまりに自然で、胸がじんわり温かくなる。ディランを支えようと手を伸ばした瞬間、セナとテオがさっとディランの両脇を固めた。
「おい、なんだこれは」
ディランが顔をしかめる。
「乗っ取られ王子の護衛でーす」
「多少の罪滅ぼしということで」
テオとセナが同時に口を開く。
「歩けるが」
「お嬢様も怪我されていますから。
我々が支えますので」
「そうそう」
2人の言葉に、ディランは深いため息をついた。
「すみません、レイさん」
私がそういうと、
「いえいえ、楽しい方たちですね」
レイが柔らかく笑い、少しだけ緊張がほどけた。




