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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

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あたたかな絆 2


食事の部屋に入ると、温かい香りがふわりと漂ってきた。

テーブルには料理が並びつつあり、アレンとロベルトも皿を運んでいるところだった。2人ともこちらを見て、私の両腕をがっちりつかんでいるレオとテオの姿に、ぽかんと目を丸くする。


「お嬢様、よく休めましたか?

……というか、何ですかその状態は」


ユウリが皿を並べながら、呆れたように眉を下げる。


「お嬢さんの護衛隊です!」


レオが胸を張って堂々と宣言する。その横でテオがすかさずツッコミを入れた。


「違くもないけどさ!!」


「俺もその護衛隊入りたいです!」


アレンが元気よく手を挙げる。その無邪気さに、ロベルトがふっと優しく笑った。


「じゃあアレンは副隊長補佐だな!」


レオが即興で役職をつけると、


「わあ! やった!!」


アレンは子どものように喜んだ。


「ちょっと待って、それ誰が隊長?」


テオが眉をひそめて問いただす。


「それはもちろん俺!

テオは副隊長ね」


レオが当然のように胸を張る。


「何で! そこは俺が隊長でしょ!?」


テオが食い気味に反論する。


「えー、俺だよ!

俺の方がお兄さんだからな!」


レオが勝ち誇ったように言うと、テオのこめかみがぴくりと動いた。兄弟げんかのような言い合いに、部屋の空気が一気に賑やかになる。


「とりあえず、お嬢様、お席にどうぞ」


セナが静かに椅子を引いてくれる。その動作はいつも通り丁寧で、落ち着いている。


「ありがとう、セナ」


ようやく両腕をつかんでいたレオとテオが手を離し、私は腰掛けた。座った瞬間、足の力が抜けてほっと息が漏れる。


「セナも休めた?」


「はい、俺は大丈夫です」


「そっか」


短いやり取りだけど、セナの声はいつも通り落ち着いていて安心する。


「それにしても、しばらく滞在するって……どのぐらいですか?」


セナが問いかける。


「うーん、そこはまだ何とも。

伯爵家は大丈夫かな?」


「それは大丈夫ですよ。

マルク様がヒィーヒィー言いながら仕事してましたから」


アリスが淡々と告げる。

……がんばれ兄。


「殿下も怪我をされていますし、やることは盛りだくさんでしょう。

人手は欲しいはずです」


ユウリが静かに補足する。


「それと……部下のしたことだから主人の責任、とか何とか言い訳つけて、

お嬢様を帰さないためになんかふっかけたのでしょう」


ユウリがさらりと言う。……す、するどい。


「それ俺たちのせい?」


テオが言うと、セナが肩をすくめた。


「ははは……」


私は苦笑するしかない。


「でも、実際国王がやらかしてたわけじゃない?

次期国王って、ディラン殿下ってことよね?」


ルイが首をかしげる。


「まあ、そうなりますよね」


セナが頷く。


「ディラン殿下が……国王か」


ロベルトがぽつりとつぶやく。


「すごいですね。

でもなんか、遠くの人になっちゃいますね」


アレンが感嘆の声を漏らした。


「とりあえず、ご飯にしましょうか」


ユウリの声に、みんながそれぞれ席につく。賑やかだった空気が、食事の香りとともに少し落ち着いていった。食事を終え部屋から出たところで、


「お嬢様」


「ルーク団長、今回はご協力いただきありがとうございます」


「いえいえ〜。何とかなってよかったです」


ルーク団長がゆるく笑う。その笑顔に、ようやく緊張がほどけていくのを感じた。


「オリバー副団長、エリックもありがとうございます」


「いえ、お力になれて良かったです」


オリバーの言葉に、エリックも静かに頷く。3人の表情には、安堵と、ほんの少しの心配が混じっていた。


「我々は報告も兼ねて、一足先に伯爵家へ戻りますね。明日あたりから雪が降るそうですから」


「わかりました。伯爵家のこと、よろしくお願いします」


「ええ。お嬢様はゆっくりしてきてください」


「セナ、お嬢様をよろしくな」


ルーク団長の言葉に、


「はい」


セナが力強く頷く。その横顔が妙に頼もしくて、胸が温かくなる。そして3人は、一足先に帰っていった。


「お嬢様」


「なに?」


「傷、痛みますか?」


セナの手がそっとの頬のガーゼへと伸びる。触れられる寸前、指先の温度が伝わってきて、心臓が少し跳ねた。


「大丈夫。

セナとテオが来てくれたから」


そう言って笑うと、セナの表情が一瞬だけ揺れて手をそっと下ろす。その揺れが、なぜか胸に刺さる。


「その顔…少し自分を責めてますね」


「え?なんでわかるの!」


「お嬢様のことはお見通しです。

どうせ、また“私がもっと強かったら”とか思ってるんでしょう?」


図星を刺されて、言葉に詰まる。自分の弱さを見透かされるのは、恥ずかしいのに、どこか安心する。


「え、エスパー?」


真面目に聞いてみると、セナが柔らかく笑った。


「お嬢様は強いですよ。力だけじゃない。何より、心が」


その言葉が胸に染みた。


「そうやってさ…みんな甘やかす」


「いいじゃないですか。いっぱい頑張ったんですから。甘やかされたって」


そう言って、セナの手がそっと頭を撫でる。その優しさに、思わず目を伏せた。触れられるたび、心の奥の不安が溶けていく。


「間に合って良かったです。

俺も、もっと精進します」


その声は、まっすぐで、温かくて。“守りたい”という気持ちが、言葉の端々から滲んでいた。


「お嬢さまー」


ふいに、ぎゅーっと優しく後ろから抱きしめられる。

温かい腕が腰に回り、背中に触れる体温に思わず息が止まった。


「テオ…」


「またお前は…」


セナがため息をつく。


「いいでしょう?

あいつも、ルイもレオもさ、お嬢様にくっつきすぎ。

セナだって、さっき頭撫でてた!」


「…副団長と呼べ」


「あーそうだった」


テオが緩く笑う。その無邪気さに、少しだけ心が和む。


「お嬢様、ほんと無事でよかった。

怪我させちゃって、ごめんね」


耳元に落ちる声は、いつになく優しくて。抱きしめられたままでは、心まで溶けてしまいそうだった。


「ううん。本当にありがとうね。

2人が一緒に追いかけてきてくれて、良かったよ」


「そりゃあね!

お嬢様の行くところは、俺どこだってついていくから!」


「ふふ…」


「だから、この先も…ずっと一緒ね」


耳元で囁かれた瞬間、胸がドキッと跳ねた。息が触れた気がして、思わず肩が震える。


「おい…離れろ」


低い声が割り込む。


「あれー、乗っ取られ王子?もう動けるの?」


「まあね…

っというか、その呼び方やめろ」


ディランがレイと一緒に現れる。まだ痛むはずの身体で歩いてくる姿に、胸がきゅっと締めつけられた。よく歩けるな…無理してるのが、見ているだけでわかる。テオがゆっくり腕をほどいたので、私はディランに一歩近づく。


「ディラン、大丈夫?」


「ああ」


「大丈夫じゃないです。

肋骨が何本も折れてますので、絶対安静なんですよ…本当は」

レイが眼鏡の奥から鋭い視線を向ける。その言葉に、テオとセナがしれっと横を向いた。


「ディラン、はやく戻ろ。ゆっくりしよ?」


「そうだな」


ディランは優しく笑い、私の頭をそっと撫でる。その手つきがあまりに自然で、胸がじんわり温かくなる。ディランを支えようと手を伸ばした瞬間、セナとテオがさっとディランの両脇を固めた。


「おい、なんだこれは」


ディランが顔をしかめる。


「乗っ取られ王子の護衛でーす」


「多少の罪滅ぼしということで」


テオとセナが同時に口を開く。


「歩けるが」


「お嬢様も怪我されていますから。

我々が支えますので」


「そうそう」


2人の言葉に、ディランは深いため息をついた。


「すみません、レイさん」


私がそういうと、


「いえいえ、楽しい方たちですね」


レイが柔らかく笑い、少しだけ緊張がほどけた。

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