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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

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あたたかな絆 1

ディランの腕からようやく離れられた私は、自室へ戻った。部屋に入ると――


「お嬢様!」


「アリス?」


アリスが迷わず私を抱きしめてきた。


「大変でしたね」


「うん。でも、終わったよ」


「はい。お疲れ様でした。……髪、短いですね」


心配そうに私の髪を見つめる。


「そうだね。アリスとおそろいだよ」


アリスの肩まで揃えられた髪を見ながら笑う。


「それは光栄ですね」


アリスもほっとしたように微笑んだ。


「着替えとか色々持ってきましたので、とりあえず身支度しましょうか」


「うん、お願い」


アリスは手際よくバッグから着替えを取り出し、私を手伝ってくれる。椅子に腰掛けると、アリスがそっと髪をとかし始めた。


「少し毛先がバラバラですね」


「私が何となく揃えたんだけどね」


「そうでしたか」


そんな会話をしていると――コンコン、と扉が叩かれた。


「ティアナちゃーん、入っていいかしら?」


「どうぞ」


扉が開き、ルイがひらりと手を振って入ってきた。


「あら、アリスちゃんも来てたのね」


「はい、昼頃到着しまして」


「ちょうどよかったわ! ティアナちゃん、毛先整えてもいいかしら?」


ルイがウィンクする。


「お願い!」


「よし、まっかせなさい」


そう言うと、ルイは慣れた手つきで道具を取り出し、パサリ、パサリと迷いなく髪を整えていく。


「さすが、上手だね〜」


「ふふ、ありがとう。エマとサラの髪も私が切ってるのよ」


「そうなんだ」


「これ、迷宮内で切ったのよね? 何で切ったの?」


「あー、これこれ」


私はサッとナイフを取り出して見せる。


「それって、騎士団のみんなからもらったやつ?」


「そう! 切れ味抜群だった」


「ふふ、ほんと、うちのお姫様は頼もしいわね」


「そうですね」


ルイとアリスが顔を見合わせて笑った。


「はい、できたわよ!」


肩にポン、とルイの手が置かれる。鏡に映る髪は、綺麗に肩の上で切り揃えられていた。


「ありがとう」


そう言った瞬間、ルイがふわりと後ろから私を抱きしめてきた。


「ルイ?」


「ほんとに……無事でよかったわ」


「うん」


「心配したのよ」


「うん」


「来るの、遅くなっちゃってごめんね」


抱きしめる腕にぎゅっと力がこもる。


「大丈夫だよ。来てくれてありがとう」


そう言った瞬間、その声色がわずかに沈んだ。


「……女の子の髪を切るなんて、最低よ。あのジジイ」


優しさの奥に、押し殺した怒りが混じっている。私の髪にそっと触れながら、悔しさを噛みしめるような声音だった。


「ふふ」


「でも、よく似合ってる」


「ありがとう」


コンコン、とノックが一瞬きこえ、すぐにガチャッと扉が開く。


「お嬢さーん!! ……って、あ!! ルイ、なにやってるの!?」


勢いよくレオが飛び込んできた。


「ちょっとレオちゃん、返事聞いてから入りなさいよ!!」


「わ! ごめーん! お嬢さん!!」


「入り口で騒がないでよ」


「ちょ、テオ押さないで!」


「――あ、お嬢様!! おはよう……って、ルイ、マジでなにやってるの!? 離れて?」


抱きしめられたままの私を見て、テオがドスの効いた声を出す。


「もう、お邪魔がいっぱい来たわね」


ルイはやれやれと肩をすくめ、私から離れた。


「お嬢様、身体大丈夫?? よく眠れた?? あいつに変なことされてないよね!!?」


テオがぐいぐい距離を詰めてくる。


「大丈夫だよ」


苦笑いしながら答えた。


「ねぇ、お嬢様。しばらくここにいるって聞いたけど、そうなの?」


椅子に座る私の前で、テオがしゃがみ込み、見上げるようにして問いかけてくる。


「うん、そのつもり。雪も降りそうだし、復興も手伝わないとね」


魔宝獣が暴れた跡も残っている。ジョルジュの後処理だって山ほどある。やらなきゃいけないことは、まだまだ多い。


「ふーん」


短く返事をするテオ。


「協力してくれる?」


「それはもちろん。お嬢様のお願いだからね」


迷いのない声に、思わず笑みがこぼれる。


「ありがとう、テオ」


するとひょこっとレオがでてくる。


「ねぇ! お嬢さん!

ご飯まだでしょ!? みんなで食べようと思って呼びに来たんだ!」


相変わらず声が大きい。部屋の空気が一気に明るくなる。


「そうだったんだ!」


そういえば朝方寝て、起きたのは昼すぎ。というか、15時くらいだ。


「キッチンと食事する部屋も借りてるから行こ!!」


レオが嬉しそうに私の手をつかむ。その手は温かくて、引っ張る力も容赦ない。


「ちょっとレオちゃん!

ティアナちゃん怪我してるんだから、無理させないでよ」


ルイが慌てて近づき。眉をひそめて、私の足元を心配そうに見つめた。


「――あっ、そうだった! ごめん!

俺、おんぶする??」


レオが慌てて手を離し、今度は背中を向けてしゃがみ込む。

その動きがあまりに急で、思わず笑いそうになる。


「はあ!? それするのは俺だから」


テオがレオの肩をつかんで引き戻す。真剣な顔なのに、どこか子どもっぽい。


「いや、テオはヒョロいから」


「はあ!? 誰がヒョロいって!?」


テオの声が一段高くなる。二人の言い合いが始まると、部屋の空気が一気に騒がしくなる。でも、そのやり取りがどこか心地よくて、胸の奥が少し温かくなった。


「だって、テオあんまり食べないじゃん!

腕も細いし!」


レオがテオの腕をつまんで揺らす。けれど、実際には細いというより、無駄のない引き締まった腕だ。


「はあ? 食べてるし。

これでも筋肉ついてるし!!」


テオはむっとしながら袖をまくる。浮き上がった筋が、しなやかな力を秘めているのがわかる。細いけれど、触れたら硬そうな、いわゆる細マッチョ体型だ。


「全くもう」


ルイが呆れたように笑い、アリスは小さく首を振る。2人とも、このやり取りに慣れきっている。


「歩けるから大丈夫だよ!

ほら、いこいこ!」


私はゆっくり立ち上がる。足に少し力が入らなくて、体がふらついた。


「お嬢様、

せめて腕! 腕支えるから!!」


テオがすぐに駆け寄り、私の右腕をそっと取る。その手は温かくて、思ったよりしっかりしていた。細いのに、支えられると安心感がある。


「俺も俺も!!」


レオが反対側の腕をつかむ。こちらは相変わらず勢いが強い。


「ねぇ、これなんか私、囚われた人みたいじゃない?」


「お嬢さん確保ーだ!」


レオが楽しそうに言う。テオは横で真剣な顔のまま。


「ちょっとさ、俺は本気で心配してるんだけど!!」


テオの声は本気で、胸の奥に響く。その真面目さが、逆に可笑しくて少し笑ってしまう。


「ねぇー歩きにくいって。」


2人に挟まれたまま、ガヤガヤと歩き出す。まるで護衛されているみたいで、少し照れくさい。その後ろからルイとアリスがやれやれという顔でついてくる。

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