終息 1
裏庭に出た私たちの前へ、甲冑の音を響かせながら王宮の騎士たちが駆けつけてきた。その先頭には――アラン殿下、ルーク団長、オリバー副団長、そしてエリック、アレン、ロベルトの姿があった。
「テオさん!! 大丈夫ですか!!」
エリックが大袈裟に駆け寄ってくる。
「まじでやめて。俺よりお嬢様優先」
テオが顔をしかめる。
「そ、そうですね……! お嬢様、大丈夫ですか?」
エリックが慌てて私の方へ向き直る。
「ええ、大丈夫」
私は微笑んで答えた。その直後、さらに2つの影が勢いよく飛び込んでくる。
「お嬢様!! 大丈夫じゃないですよね!!」
「ボロボロじゃないですか!!」
「ってか、髪どうしたんですか!?」
「み、短い!!」
アレンとロベルトが、ほぼ同時に叫びながら駆け寄ってきた。アレンは半泣きで私の肩をのぞき込み、ロベルトは心配のあまり手が震えている。
「平気よ。ちゃんと立てるから。
髪は……切られちゃって」
短くなった髪をつまみながら、私は微笑んだ。
「お嬢様の髪が!! 血が……!」
アレンが大騒ぎする。
「落ち着けアレン。お嬢様は強い」
ロベルトが言いながらも、声が震えていた。その様子に、テオが呆れたように肩をすくめる。
「だから言ったろ。俺よりお嬢様優先しろって」
「当たり前です!」
アレンが即答する。
「テオは……まあ、平気だろ。セナ副団長も生命力すごいから」
ロベルトが小声で付け足す。
「おい聞こえてるぞ」
セナが眉をひそめた。
そのやり取りに、周囲の空気が少しだけ和らいだ。
「そちらは、大丈夫でしたか?
魔宝獣が出ていたようですが」
ユウリが落ち着いた声で問いかける。
「ああ、こっちは大丈夫だ。
負傷者はいるが、死人は出ていない」
アラン殿下の言葉に、胸の奥がふっと軽くなる。
「よかった……」
思わず息が漏れた。緊張がほどけ、身体の力がゆっくり抜けていく。アラン殿下は、仲間たちの騒がしさを見守りながら、ふっと優しく笑った。
「……本当に、良い仲間に恵まれているな、ディラン」
「はい。……自慢の仲間です」
ディランが誇らしげに答える。
「ディラン」
「兄上」
2人の視線が静かに交わる。
「……終わったな」
「はい」
「よくやった」
その言葉に、ディランは目を丸くした。驚きと、どこか信じられないような表情。私はそっとアラン殿下に目配せする。殿下はふっと柔らかく笑った。
「ディラン。お前を誇りに思う」
「……ありがとうございます」
アラン殿下はゆっくりと歩み寄り、弟の肩をそっと掴んだ。そして――そのまま強く抱きしめる。
「……もう一人で背負わせない」
ディランの肩がわずかに震えた。
「……はい」
アラン殿下は弟の背を何度も叩きながら、押し殺した声で続ける。
「本当に……よかった。
生きててくれて……」
その言葉に、ディランは目を閉じ、静かに息を吐いた。そしてようやく、肩の力を抜き、柔らかく笑みを返す。アラン殿下は次に私へ向き直る。
「ティアナ嬢」
「はい」
「弟を……ありがとう」
その言葉は、静かで、まっすぐで、温かかった。
「……はい」
私は深く頷いた。崩れゆく迷宮からの脱出、激しい戦い、そして再会。すべてがようやく、ひとつの終わりを迎えたのだと実感した。次の瞬間、ディランの身体がふらりと揺れた。
「ディラン!」
私は慌てて支えに入る。
「……すまない」
ディランが弱く笑う。
「いえ、大丈夫です」
私は彼の腕をしっかりと掴んだ。
ディランは私を見つめ、少し照れたように、でも真剣な声で言う。
「君は……本当に強いな」
「ボロボロですけどね」
私は苦笑した。
「それは……本当にすまない」
ディランが眉を下げる。
私は首を振る。
「違うんです。
ジョルジュだとわかっていたのに……
見た目がディランだったから、まんまとやられました」
「……そうか」
ディランは少しだけ目を伏せた。
私は胸を張って言う。
「だから今度は、ディランの見た目でも
容赦なく叩きなおせるように強くなります!」
ディランは一瞬固まり――困ったように、でも優しく笑った。
「それは……ちょっと違う気がするよ」
その笑顔に、胸の奥がじんわりと温かくなる。




