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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

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取り戻す心 3


アレキサンドライトの光に貫かれ、化け物と化した影が悲鳴を上げながら崩れ落ちていく。赤黒い宝石が砕け、黒い泥のような質量が地に溶けていく。その中心で――ジョルジュ陛下の影が、ゆっくりと形を失っていった。


「……あ……あぁ……」


かつて王であった男の面影が、崩れ落ちる砂のように消えていく。ディランはその姿を、ただ静かに見つめていた。そして――冷たく、凍てつくような声で告げる。


「貴方を……俺は絶対に許さない」


影が震えた。


「両親を殺したことも。

ティアナを利用しようとしたことも。

俺たちの人生を踏みにじったことも――全部だ」


その声音には怒りではなく、静かな決別だけがあった。


「俺は……二度と貴方を祖父とは思わない」


ジョルジュの影が、最後の形を保てず崩れ落ちる。


「や……め……ろ……ディ……ラ……」


その声が消えた瞬間、影は完全に霧散した。静寂が訪れる。ディランは剣を下ろし、深く息を吐いた。その横顔は、少年ではなく――王としての覚悟を宿した青年のものだった。私はそっと彼に近づく。ディランは私へ視線を向け、ほんの少しだけ、柔らかく微笑んだ。


「……終わったよ、ティアナ。

ありがとう」


影が完全に霧散し、戦場に静寂が戻った。私とディランが立ち尽くすその前へ、仲間たちが一斉に駆け寄ってくる。レオが真っ先に声を上げた。


「お嬢さんもボロボロじゃん! どうしたのそれ!」


私は苦笑しながら肩をすくめる。


「これはね……」


曖昧に濁していると――


「そこの王子が身体乗っ取られてやったの。最低でしょ」


テオが容赦なく言い放つ。ディランは罰が悪そうに視線を落とした。


「……本当にすまない」


私は首を振る。


「いえ、大丈夫です。

むしろ……戻ってきてくれてよかった」


その言葉に、ディランはほんの少しだけ息を吐いた。そこへルイが、私とディランを交互に見て言う。


「でも王子様もボロボロね。

顔色、ひどいわよ?」


その瞬間、セナとテオが同時に視線をそらした。


「それは不可抗力です」


「そうそう、不可抗力」


私は思わず吹き出しそうになる。ユウリが穏やかに微笑んだ。


「……ともあれ、終わりましたね。

お嬢様……本当によく頑張りました」


レイも眼鏡の奥で瞳を揺らしながら、静かに言葉を添える。


「ティアナ様、ありがとうございます。

殿下も……よかったです。本当に……」


仲間たちの声が、温かく私とディランを包み込む。戦いは終わった。そして――彼らは、また一緒に立っていた。


ジョルジュの影が消えた直後――地下迷宮全体が、ぐにゃりと歪んだ。壁が波打ち、天井が軋む。


「……まずいな。このままだと潰される」


ディランが険しい顔で言い放つ。


「なにその! お決まり展開!」

レオが叫びながら頭を抱えた。


「とりあえず逃げるわよ!」

ルイも声を張り上げる。

みんなが一斉に駆け出す。私も走り出そうとした――その瞬間。太ももの傷が鋭く痛んだ。


「っ……!」


足がもつれかけたその時、ふわりと身体が持ち上げられる。


「えっ……ディラン?」


ディランが私を抱き上げ、軽く笑った。


「王子の役目を果たさせてくれ。お姫様」


その言い方に、思わず顔が熱くなる。だがすぐ後ろからテオが声を上げた。


「殿下もボロボロでしょ。俺、代わるよ!」


「いやだ。絶対代わらない」


ディランが即答する。


「あーそう」

テオは呆れたように肩をすくめた。


「ほら、行きますよ!」

セナが先頭で駆け出す。


ユウリとレイも頷き、後に続いた。崩れゆく迷宮の中、私たちは全員で出口へ向かって走り出した。迷宮が悲鳴を上げるように揺れ、壁が波打ち、天井が崩れ始めた。


「こっちです!」

セナが叫ぶ。


ディランは私を抱えたまま走り続ける。その姿を見て、レオが慌てて叫んだ。


「ねぇやっぱりさ! 殿下もその状態でお嬢さん抱えたら危なくない!?」


「大丈夫だ」

ディランは即答する。


「レオちゃんは黙って走りなさい!」

ルイが容赦なく怒鳴る。


「あと絶対罠にかからないでよね!

今度かかったら、まじで置いていくからね!!」


「ひどくない!?」

レオが涙目で抗議する。その横でレイが冷静に眼鏡を押し上げた。


「セナさん、そこ左です」


「了解です!」

セナが鋭く曲がる。そのタイミングで、ディランが私に小声で言った。


「ティアナ、重くないから安心して」


「それ言わなくていいから!!」


「仲良いな! 2人とも!」

レオが笑いながら叫ぶ。


「今それ言う!? 真面目に走れ!!」

テオが全力でツッコむ。崩れゆく迷宮の中、私たちは叫び合いながら、それでも息を合わせて出口へ向かって駆け抜けた。崩れゆく迷宮を全力で駆け抜け、最後の角を曲がった瞬間――ぱあっと光が差し込んだ。


「これ……ここに繋がってたんだ!」


レオが目を丸くする。私たちが飛び出したのは、王城の裏庭――静かな緑が広がる庭園だった。地上の空気が一気に肺へ流れ込み、胸の奥がじんわりと温かくなる。


「外……だ」

ディランが息を吐く。


「助かった……!」

テオがその場に手をつく。


「まさか庭に出るとはね。

地下迷宮って、ほんと何でもありだわ」

ルイが裾を払ってため息をつく。


セナは周囲を確認しながら頷いた。


「安全です。崩落もここまでは来ません」


ユウリが静かに言葉を添える。


「……皆さん、本当に無事でよかった」


「はい」

レイも強く頷く。ディランは私をそっと降ろし、まだ少し震える手で支えてくれた。


「ティアナ、大丈夫か?」


「うん……ありがとう。

ディランが抱えてくれたおかげで助かったよ」


「そ、そう言われると……悪くないな」

ディランが微笑む。すかさずレオが叫ぶ。


「ほら出た! 逃走中もイチャイチャしてた2人!」


「それ言わなくていいから!」

テオが全力でツッコむ。


「まあまあ。

でも本当に……終わったのね」

ルイが呆れたように肩をすくめた。レイが穏やかに微笑む。


「ええ。皆さんのおかげで」


風が静かに庭を撫で、戦いの余韻を優しく包み込んだ。

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