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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

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取り戻す心 2

私はゆっくりと目を開けた。視界に映ったのは――必死に立ち続けるディランの姿。その背後では、ジョルジュの影が頭を抱え、苦しげに呻いていた。


「や……やめろ……!!!」


影がディランの身体にまとわりつき、黒い腕を伸ばして彼を再び闇へ引きずり戻そうとしている。その度に、ディランの身体が小さく震えた。胸が締めつけられた。――まだ、戦っている。私は一歩、前へ踏み出した。

その瞬間、戦っていた仲間たち――ユウリ、レイ、セナ、テオが、まるで合図を受けたかのように動きを止めた。


「お嬢様」

ユウリが静かに告げる。


「殿下を頼みます」

レイは剣を下げ、深く頭を垂れる。


「行け、ティアナ」

セナは氷の剣を引き、ティアナの背中を守るように下がった。


「最後は…お嬢様の番だ」

テオは紅い魔力を収め、にやりと笑う。4人の視線が、私の決意を押し出す。胸が熱くなった。――みんな、信じてくれている。私は剣を構え、ディランへ向けて歩み出た。


「ディランは返してもらう」


蒼い光が刀身に宿り、空気が震える。私の想いが、刃に乗って脈打つ。深く息を吸い、詠唱を紡ぐ。


「蒼き想いよ――

切り離せ、ラピスラズリ!」


蒼い風が渦を巻き、私の想いが刃となって放たれる。その一閃は、影だけを正確に断ち、ジョルジュの魔の手をディランから引き剥がした。影が悲鳴を上げ、霧のように散っていく。ディランの身体がふらりと揺れ、私は駆け寄ってその身体を抱きとめた。


「……もう、大丈夫だから」


腕の中の温もりが、確かに“彼”のものだった。蒼い光が静かに消えていく。私はその胸に顔を寄せ、震える声で囁いた。


「おかえり、ディラン」


ディランが私の腕の中で、ゆっくりと目を開けた。


「……ティアナ」


弱々しい声。けれど、エメラルドのその瞳はもう迷っていない。


「ありがとう、ティアナ。

まるで君が王子様みたいだな」


私は軽く笑い返す。


「そうだね。

では――お姫様、まだ終わってませんよ」


手を差し出すと、ディランは苦笑しながらその手を取った。


「その言い方は勘弁してくれ」


2人が立ち上がった、その瞬間――床の影が再び伸び、ディランの足元へ絡みつこうとする。ジョルジュが苦悶の声を上げた。


「や……やめろ……!

まだ……終わって……ない……!」


影がうねり、再びディランを引きずり込もうと迫る。

その時――


「待ってぇぇぇ!!

俺たち完全出遅れ組だよ!!」


「レオちゃんのせいでしょ!

罠にかかりまくるんだから!!」


レオとルイが、息を切らしながら駆け込んできた。レオは大剣を肩に担ぎ、叫ぶ。


「いやいや! あれは罠が悪い!

俺じゃない!」


ルイが容赦なくツッコむ。


「罠に3回も引っかかる人が悪いに決まってるでしょ!」


セナとテオが同時にため息をつく。


「……まあ、来てくれただけありがたいですが」


ユウリは静かに呟きレイも頷く。

影が再び私たちへ迫る。レオが大剣を構え、叫ぶ。


「燃えあがれ!ペリドット!」


大剣が赤熱し、爆ぜる火花が炎となって刀身を包む。熱気が戦場を揺らし、影を焼き払うように押し返した。続いてルイが優雅に剣を掲げる。


「美しく、酔いしれなさい――ローズクォーツ」


淡い薔薇色の光が剣を包み、舞う光の粒が幻想的な残像を描く。その軌跡は影を惑わせ、動きを鈍らせた。レオの炎とルイの光が重なり、影の進行を完全に止める。私は剣を握り直し、前へ踏み出した。


「ディランは……もう渡さない」


蒼い光が刀身に宿る。ジョルジュの影が、足元の魔宝獣を次々と吸い込み始めた。

――ズズズ……ッ!黒い泥のような質量が膨れ上がり、赤黒い宝石が脈打つようにゆらめく。影は形を変え、巨大なドラゴンのような化け物へと変貌していく。その圧に、風が荒れ狂った。


「すご!! ドラゴン!?」


場違いなほど明るいレオの声が響く。


「なんか迷宮にドラゴンってお決まり展開ね」


ルイが肩をすくめる。


「とりあえず、これどうにかしないとじゃない?」


テオがゆるりと笑った。


「そうだな」


セナも頷く。


「もう一踏ん張りですね」


「はい」


ユウリとレイも静かに構え直した。私は剣を握り、仲間たちを見渡す。


「みんな……倒すよ!

私たちの共鳴を――!」


その声に応えるように、中央に立つティアナの剣先へ淡い蒼の光が集まり始める。ディランが低く告げた。


「……ああ」


次の瞬間、仲間たちが動いた。


「我が剣に従え――アクアマリン。

流れを凍てつかせ、暴走を鎮めよ」


セナの刀身が氷水の輝きを帯び、空気そのものが冷却されていく。荒れ狂っていた魔力の流速が、確かに鈍った。


「紅く、鋭く――我が想いに応えよ、スピネル!

迷いを断ち、前を切り拓け!」


テオの刃が深紅に燃え上がる。意志そのものが炎となり、前線を押し返した。


「燃えあがれ――ペリドット!

恐れを焼き払い、道を拓け!」


レオの大剣が爆炎を纏い、轟音とともに魔力の壁を打ち砕く。


「美しく、惑わせ――ローズクォーツ。

その心、甘き夢に沈めなさい」


薔薇色の光が舞い散り、幻想の花弁が宙を満たす。敵の視界が歪み、動きが鈍る。


「理を整えよ――フローライト。

混沌を律へ、歪みを円環へ」


淡紫の光が円を描き、暴走する魔力の流れを強制的に整えていく。


「静寂を保て。惑いを断て――アメジスト。

恐怖も雑音も、ここには要らない」


レイの剣が静かに振るわれ、音も、恐慌も、戦場から削ぎ落とされていく。


そして――ディランが私の隣に立つ。

剣先に集まった蒼い光が、まるで星々の記憶を呼び覚ますように脈打つ。私は深く息を吸い、仲間たちの想いを背に受けながら、静かに詠唱を紡いだ。


「蒼き想いよ――

星の記憶を継ぎ、

交わした誓いを導に」


ラピスラズリが夜空のように輝き、蒼い光が輪の中心へと収束していく。


「想いを……一つに」


私は剣を前へ突き出した。


「――ディランに、つなげ!」


蒼い奔流がディランへと流れ込み、彼の剣のアレキサンドライトが強く脈動する。ディランの身体が光に包まれた。


「……ティアナ……受け取った」


低く、確かな声。

次の瞬間――ディランの瞳が、エメラルドからルビーに鮮烈の輝きを放った。


「変化を統べる光――

アレキサンドライト・レグルス!」


その名を叫んだ瞬間、ディランの剣が7色の光を帯び、星のような輝きが戦場を照らす。ジョルジュの影が、赤黒い宝石を脈打たせながら咆哮した。


「グアアアアアアア!!」


だが、もう遅い。ティアナが託した“想い”と、仲間たちの共鳴がすべてディランへと集まり、彼の剣を――“王の刃”へと昇華させていた。ディランは一歩、前へ踏み出す。


「これは……俺だけの力じゃない。

みんなの想いが――俺を立たせてくれた」


そして、剣を振りかぶる。


「だから……終わらせる!」


アレキサンドライトの光が奔り、星の軌跡を描きながら化け物と化した影を貫いた。赤黒い宝石が砕け散り、影は悲鳴を上げながら光に溶けていく。

蒼。

氷、紅。

炎、薔薇。

整、静。

そして――ディランの変化。すべてがひとつの光となり、影を完全に浄化した。戦場に、静寂が戻る。

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