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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

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奪われた王子 3

カンッ――!火花が散った瞬間、頬に鋭い痛みが走った。細い切り傷から温かい血が一筋、肌を伝う。

「っ……!」

ほんの一瞬の迷い。その一瞬が、また傷を生む。ディランなのにディランじゃない――その事実が胸を締めつけ、腕を鈍らせる。息が詰まりそうなほど苦しい。ジョルジュは、その揺らぎを楽しむように目を細めた。


「いいねぇ……その迷い。

愛する男を傷つけられないだろう?」


ディランの声で、冷たく嘲るように笑う。次の瞬間――シュッ!銀の刃が鋭く振り下ろされ、私は咄嗟に身をひねった。だが完全には避けきれず、太ももに熱い痛みが走る。布が裂け、血が滲む。


「くっ……!」


痛みが走るたび、迷いが胸を締めつける。重い衝撃が腕に響き、足が後ろへ滑る。ジョルジュは若い身体の反応速度を完全に使いこなし、まるで遊ぶように攻撃を重ねてくる。


「ほら、もっと見せてみろ。

その“迷い”が、私には最高の隙だ」


重い衝撃が腕に響き、足が後ろへ滑る。呼吸が荒くなり、視界が揺れる。――まずい。迷いがまだ消えない。その一瞬の揺らぎが、また傷を生む。シュッ!


「っ……!」

銀の刃が腕をかすめ、血が滲む。わずかに震える指先。


「ほら、また迷った」


――負けない。

――負けるわけにはいかない。

――ディランを取り戻すまでは、絶対に倒れない。

そう思うのに、身体が追いつかない。剣が重く感じる。胸が苦しくて、息が浅い。ジョルジュの剣が振り下ろされる。


「終わりだよ、ティアナ」


その瞬間――

氷の冷気と、紅い閃光が私の前に飛び込んだ。


「「お嬢様!!」」


セナとテオだ。2人は迷いなく私の間合いに滑り込み、同時にジョルジュへ蹴りを叩き込んだ。ドッ!


「ぐっ……!」


ディランの身体が吹っ飛び、床を転がる。よろめきながら立ち上がる姿を見て、胸がざわつく。――見た目がディランだから……複雑。血をぺっと吐き捨てながら、ジョルジュが笑う。


「おいおい……

王子に容赦なく蹴りを入れる騎士がどこにいる」


セナが冷たく言い放つ。


「ここにいる」


テオも肩をすくめる。


「うん、いるね」


2人の声は揺るがない。その姿に、胸が熱くなる。


「セナ、テオ……!」


セナが振り返り、優しく微笑む。


「お待たせしました、お嬢様。大丈夫ですか?」


テオは剣を構えながら言う。


「あとは任せて……お嬢様」


2人が前に立つ。その背中は頼もしく、強く、揺るぎない。私は息を荒げながら、セナとテオに叫んだ。


「中身がジョルジュ陛下なの!

でも……ディランは、まだ飲まれきってないと思う!」


声は震えていた。けれど、その奥には確かな確信があった。

私の視線は、ジョルジュが握る剣へ向く。アレキサンドライトの宝石が、迷うように揺れている。


「証拠に……あの剣。

ディランの剣なの。

あの宝石、迷ってる……主人が誰なのか。

まだディランは中にいる!」


セナとテオが一瞬だけ目を見交わす。そして――


「だったら、俺たちが」


「時間を稼ぐ」


2人の声が重なった。ジョルジュが鼻で笑う。


「ほう……王子に剣を向ける覚悟があるのか?」


テオが肩を回しながら、軽く笑った。


「正直さ、こうやってあいつに剣を向けられるなんて……

貴重だねー」


セナが呆れたように眉をひそめる。


「なんか少し楽しんでないか、テオ」


「だってさ、お嬢様をとったのは事実だし。

腹いせ? ってやつ」


テオの目が鋭く光る。


「そうだな。それに……お嬢様にこんな不安な顔させてる。

許せないな」


セナも静かに頷く。


「うん。許せない」


その瞬間、2人の気配が変わった。迷いが一切ない、騎士としての覚悟。


「よし――」


セナが剣を構え、氷の気配が広がる。テオは紅い魔力を纏い、足元の空気が揺らめく。2人は迷わず、前へ踏み込んだ。その背中は頼もしく、強く、揺るぎない。

――守られてばかりじゃ、だめ。胸の奥で、再び熱が灯る。

ディランを取り戻す。そのために、私も戦う。セナが静かに剣を掲げた。その動きは、冷たく澄んだ水面をなぞるように滑らかだ。


「我が剣に従え――アクアマリン」


淡い青白い光が刀身を包み、空気が一瞬で凍りつく。氷の魔力が剣先から溢れ、斬撃の軌跡に白い霧が舞った。その凍気は、確実にジョルジュの動きを奪っていく。続いて、テオが地を蹴り、前へと躍り出た。


「紅く、鋭く――我が想いに応えよ、スピネル」


深紅の魔力が刀身を染め上げ、黒に近い紅が空気を揺らす。

その刃は、怒りと決意そのものだった。テオの一撃は迷いを断ち切るように鋭く、セナの氷の軌跡をなぞるように走る。

――普段は喧嘩ばかりの2人なのに。今は驚くほど息が合っている。セナが凍気で動きを鈍らせ、テオがその隙を逃さず叩き込む。テオの紅が道を切り開き、セナの氷がその道を固める。まるで長年の相棒のように、互いの動きを読み合い、補い合っていた。ガンッ!ドッ!


「ぐっ……!」


ジョルジュの身体が吹っ飛び、壁に叩きつけられて床に膝をつく。ディランの顔が歪むのを見るたび、胸が少し痛む。

けれど――2人は迷わない。セナが冷たく言い放つ。


「動きが鈍ったな」


テオが笑う。


「そりゃそうだよ。俺たち、容赦しないからね」


2人は再び構えた。氷と紅――相反する魔力が、今はひとつの目的のために重なり合う。


「行くよ、セナ」


「呼び捨てするな」


「今ぐらいいいでしょ?」


「……仕方ないな。合わせろよ、テオ」


「はいはい」


迷いなく、前へ踏み込んだ。

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