↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
334/354

闇へ走る 1

ディラン side

ティアナ……急げ。きっと、禁書庫のほうだ。胸の奥で焦りが燃え上がる。嫌な予感が、ずっと消えない。その感覚に背中を押されるように、俺は禁書庫の奥へと足を踏み入れた。空気が重い。まるで、暗闇そのものが俺を待ち構えているようだった。さらに奥へ進むと、古い本棚が並ぶ区画に出た。

普段は固く閉ざされているはずの棚が——開いている。

嫌な汗が背中を伝う。慎重に足を進め、開いた部屋の中へ入った瞬間——息が止まった。

壁一面に貼られた紙。幼い頃の肖像画。訓練中の写真。最近の、ティアナと並んだ写真まで。そして、俺に関する膨大な資料。執拗なほど、びっしりと。


「……なんだ、これ……」


震える指で一枚を掴む。そこには、見慣れない文字でこう記されていた。“ディランが、器として最適”その瞬間——


「もう来たのか。早いな、ディラン」

背後から聞こえた声に、心臓が跳ねた。振り返ると、薄暗い部屋の奥。祖父——ジョルジュ陛下が、愉快そうに笑っていた。


「なんですか……これは」

声が震える。怒りか、恐怖か、自分でもわからない。


「うむ。真実を告げるときだな」

ジョルジュは、壁に貼られた俺の写真を指でなぞった。


「お前は美しい。

エメラルドの瞳も、暗闇で変わるルビーの瞳も。

まさにアレキサンドライト。王の器だ」


「だからなんですか」

吐き捨てるように言うと、祖父は満足げに頷いた。


「お前のことは大事に育ててきたんだ。

精神も身体も、完璧になるようにな」


その言葉が落ちた瞬間、背筋がひやりと冷えた。まるで、ずっと背後にあった影が ようやく姿を現したかのように。


「ディラン、お前の両親は……なぜ死んだか知っているか?」


「船の事故ですよね」


「違うな。事故で死んだんじゃない」


ジョルジュは、まるで天気の話でもするように言った。


「私が処理した」


「……っ!」


視界が揺れた。怒りで、呼吸が乱れる。


「どうして……! 貴方の息子でしょう!」


「お前を“器”にしようとしていることに気づかれたからな。

我が息子ながら、鋭かったよ」


くつくつと笑うその姿は、もはや人間のものではなかった。


「そうそう。ガイルでは成し得なかった“完全な器”。

それをディラン、お前で完成させる。

さらに——不老不死を実現するために」


胸の奥が、ひどく冷たくなる。


「……」


「そのための“鍵”として、ティアナ——お前の婚約者が必要なんだよ」


その瞬間、胸の奥が焼けるように痛んだ。ティアナを巻き込むために。俺を“器”にするために。すべてが——最初から、歪んだ目的のために用意されていた。


「そんなこと……させると思うか」


低く、喉の奥から絞り出すように言った。怒りで視界が赤く染まる。ジョルジュは、まるでそれを楽しむように微笑んだ。その笑みは、血の通わない仮面のようだった。


「ティアナはどこだ?」


低く押し殺した声に、ジョルジュはふっと笑った。


「ついてきなさい」


背を向けて歩き出すその姿には、命令というより“確信”があった。まるで、俺が逆らえないことを知っているかのように。足が勝手に動く。怒りで震えているはずなのに、身体の奥が妙に冷たい。

薄暗い通路を抜けた先——そこは、古い魔法陣が床一面に刻まれた部屋だった。ジョルジュが手をかざすと、魔法陣が淡く光り始める。空気が震え、胸の奥がざわりと波打つ。


「さて……見せてやろう」


祖父は懐から、小さな銀の箱を取り出した。蓋を開けた瞬間、ふわりと光がこぼれ——

そこにあったのは、スミレ色と桃色が混ざる、柔らかな髪。ティアナの髪。


「……っ!」


息が止まる。胸が締めつけられ、視界が揺れた。


「ティアナは……無事なんでしょうね」


必死に声を絞り出すと、ジョルジュは愉快そうに笑った。


「無事かどうかは……お前次第だ」


その瞬間、魔法陣の光が強くなり、足元から冷たい何かが這い上がってくるような感覚に襲われた。


「やめろ……!」


「抵抗するな。

ティアナの髪は“鍵”だ。

お前の精神は、彼女を想うほどに脆くなる」


胸の奥に、鋭い痛みが走る。ティアナの髪が揺れるたび、心が引き裂かれるようだった。


「……っ、く……!」


膝が落ちる。視界の端が暗く染まり、思考が濁っていく。ジョルジュの声が、頭の中に直接響いた。


「さあ、ディラン。

お前の身体を借りるとしよう。

“器”として完成したその肉体をな」


魔力が精神に食い込み、意識がゆっくりと押し流されていく。——ティアナ。来るな。絶対に、ここへ来るな。願いは、声にならなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。