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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第一部

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救世主7

ディランside


「オーウェン団長、ここは君の出身だったね」


「はい」


ここは双輝アレキサンドライト王国にも近く、騎士団の中にはここの孤児院出身者もいる。後継のいない貴族が養子として迎えることもあるのだから、騎士団と孤児院のつながりは侮れない。


さて、蒼紋ラピスラズリ伯爵家のマルクがこのボランティアを取り仕切ると聞いたが、どうにも気がかりだ。王国騎士団にもこの孤児院出身者がいる。もしマルクが雑なことをすれば、王国と蒼紋ラピスラズリ伯爵家との関係の悪化もありうる。


あれが次期当主になったら、蒼紋ラピスラズリ伯爵家は終わるだろう。教養もなく、努力もしない。どうにかして次期当主の座から退かせ、ティアナ嬢を当主に据えたほうが、領民や国のためになるはずだ。


一週間前の騒動で、デホラとその娘ニーナは財産も地位も剥奪され、辺境の地へ送られた。正直、毒殺未遂の罪で死刑にしてもよかったと思う。しかし、それではティアナ嬢の心を傷つける。あえて手を下さず、結果を見守ることにした。


思い返せば、10年前から俺が密かに渡していた本が、今や執事によってティアナ嬢に届けられていたと知り、さぞ驚いただろう。

口の堅そうな執事も、10年の時を経てそろそろ時効と判断したのだろうか。

しかし、あの執事は誠実で、何よりティアナ嬢への忠誠心が強い。彼女を守ろうとするその心意気は、何者にも揺るがない。

良い執事だ。



クラリス夫人の誕生日パーティーでは、わざわざ俺の後を追いかけてきてくれたことに、思わず感動してしまった。

ゲストルームに入ったあと、こっそりベランダの鍵を開けておくと、案の定、そこからやってきてくれた。

俺が毒殺されそうと心配して止めようとしてくれたのは嬉しかったな。

ただ揉め事に巻き込んでしまったことは申し訳なかったが。



何よりも、首を傾げて潤んだ瞳でこちらを見つめられた瞬間には、抱きしめたい気持ちが抑えきれなかった。しかし、耐えた自分を少しだけ褒めてやりたいと思う。


他の令嬢からよく擦り寄られたことはあったが、正直、1ミリもときめいたことはなかった。けれど、興味のある令嬢からされると、心の反応はまったく違うものだ。


「可愛かったな……」

ぼそっと口に出てしまった。


「何か言いましたか、殿下?」


「いや、なんでもないよ」


涼しげな顔をし返事をする。

馬車を近くに止めてもらい、孤児院の前までやって来る。


「これは……」

「大盛況だね」


様子を見ていると、整理券を見せてから食事を受け取っている。上手くやっているようだ。

賑わってはいるが混乱はなく、すべてがスムーズに運営されている。


「殿下、オーウェン団長殿、御足労いただきましてありがとうございます」


俺たちに気づいた蒼紋ラピスラズリ伯爵家の騎士団。どうやら当主の差し金で動く騎士団員のようだ。

一応、息子がやらかさないか監視しているらしいが――


「これは、誰が仕切っているのかな?」

「マルク様です」


意味深に微笑む俺。

「嘘をつくというのは、王国不敬罪にあたるよね」


騎士団員はしどろもどろになる。

「し、失礼しました。ティアナお嬢様です」

「そうだろうね」


「あ、あの……」

ますます動揺する騎士団員に、俺はさらに問いを重ねる。

「そうだな、正直にちゃんと説明してくれる?」

「は、はい……」


孤児院でのボランティアを進めるにあたり、マルクは騎士団員に丸投げしていた。しかし、予算内で出した案は実行不可能に近く、ここでティアナ嬢の手助けが不可欠だった。


彼女はメニューの改案、孤児院への協力要請、必要な設備の準備、前準備まで完璧にこなしていた――さすがだ。

だからこそ、ティアナ嬢への興味が尽きない。聡明でありながら、決してお人よしではない。

どこかに野望があるような気がして、つい目が離せないのだ。




「このことは、ちゃんと伯爵家の当主に報告するんだよ。マルクではなく、ティアナ嬢の功績としてね」


「はい、もちろんです」

騎士団員はそそくさとお辞儀をして、足早に去っていった。


「話に聞いておりましたが、ティアナ嬢は素晴らしい方のようですね」

オーウェンが珍しく褒める。


「そうだね、とても興味深いよ」

俺は自然に微笑みながら応じる。


「オーウェン、せっかく来たから院長に挨拶してくるといい」


「しかし、殿下の側を離れるわけには……」

彼の表情には迷いがある。


「大丈夫、強い騎士団員が今、私に気づいたようだ」

そう告げると、オーウェンもそちらをみる。


「こちらでどうされたのですか?」


銀色の髪に、鋭く切れ長の瞳。鍛え上げられた筋肉の立ち振る舞いから、ただ者ではないことがひと目でわかる。



「やあ、ティアナ嬢の専属騎士の……確か」


「セナです。呼び捨てで構いません」

その落ち着いた声、静かな威圧感。

その立ち振る舞いからして相当強い騎士だ。



「彼と2人で話をしたいからオーウェン少し席を外してくれ」


「しかし」


オーウェンが警戒しながらセナをみる。


「オーウェン何度も言わせるな」


低い声で告げるとオーウェンが頭を下げる。



「わかりました。少し失礼致します」


そういうとオーウェンが施設の方に歩いていくのを確認し、目の前のセナと向き合う。


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