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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

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地下潜入 4

オーウェン団長がゆっくりと剣を構えた。苦しそうに目を伏せる。


「私は……なんと愚かなことを」


ずっと信じていた。ディランを守っていると。けれど実際は、ジョルジュ陛下に利用されていただけだった。オーウェン団長は、覚悟を決めたように顔を上げる。そして静かに呟いた。


「不動の意志よ――我が力となれ。オニキス」


黒い魔宝石が淡く輝き、剣を黒く染め上げる。空気が重く張りつめる。


「……ほう」


ジョルジュ陛下が目を細めた。


次の瞬間、陛下の騎士たちが一斉に襲いかかる。鋭い剣が次々と振るわれるが、オーウェン団長は冷静に受け流していく。剣を弾き、かわし、素早く反撃する。迷いのない動きだった。


「すごい……」


思わず声が漏れる。さすが王国騎士団団長。その実力は圧倒的だった。けれど――一瞬だけ。騎士の剣先が、オーウェン団長の腕をかすめた。赤い傷が浅く走る。


「オーウェン団長!」


私は思わず声を上げる。だが本人は、気にした様子もなく言った。


「この程度……

大した怪我では――」


その瞬間だった。ぐらり、と。オーウェン団長の身体が大きく揺れる。


「っ……!?」


膝が崩れ、剣が床に落ちた。ガラン、と重い音が響く。


「まさか……」


嫌な予感が胸をよぎる。


「毒ですか!?」


私が叫んだ瞬間、後ろから強く腕を掴まれた。


「っ!」


動きを封じられる。ジョルジュ陛下が、愉快そうに笑った。


「毒ではないよ」


ゆっくりとした声が響く。


「しびれ薬だ。

オーウェンの実力は把握している。

これくらい使わないとな」


オーウェン団長は、なんとか立ち上がろうとしている。けれど、身体がうまく動かない。指先がかすかに震えるだけだ。


「強力な薬だ。

もう声も満足に出せないだろう」


「……じょ、……」


掠れた声が漏れる。悔しそうに、オーウェン団長が床を睨む。それでも身体は動かず、ついにそのまま倒れ込んだ。近寄ろうとしたがさらに、強い力で腕を掴まれた。


「――っ!」


抵抗する間もなく、私は陛下の部隊に引きずられ、無理やり前へ突き出される。


「お嬢様!」


セナが動こうとした瞬間――


「動くな」


冷え切った声が、空気を裂いた。


「これ以上動けば……

 お嬢様の顔に、傷がつくぞ」


長い剣が、私の頬すれすれに突きつけられる。ひやりとした殺気が肌を刺し、喉がかすかに鳴った。セナも、テオも、皆が動きを止める。私は息を整え、顔を上げた。


「……やっぱり、そうだったのね」


ジョルジュ陛下の眉がわずかに動く。


「ガイルの件も、ディランのご両親の件も。

 全部、あなたの計画の一部だった」


「最初から……そのつもりだったのでしょう?」


にらみつけると、陛下はゆっくりと笑った。


「そうだ」


私は自分の手がわずかに震えているのを感じた。でも、握りしめて押しとどめる。


「あなたの計画に、私たちは屈しない」


陛下の笑みが深くなる。


「強いな。ディランが執着するのもわかる。

 だからこそ“鍵”として相応しい」


胸の奥が冷たくなる。でも、私は一歩も引かない。


「……あなたの思い通りにはならない。

 ディランも、私も」


「……残念だよ」


ジョルジュ陛下が、愉しげに言う。


「何も知らなければ、

 こんな怖い思いをせずに済んだものを」


「……うるさい」


震えた声だった。でも、逃げる震えじゃない。


「大丈夫だ。

 まだ、殺しはしない」


陛下は、私を値踏みするように見下ろした。


「だが……これは、もらっておこう」


合図もなく、剣が伸びた。押さえつけられ、身動きが取れない。仲間たちが剣を構えようとするが、すぐに部隊に取り押さえられる。


次の瞬間――バサッ。軽い音とともに、何かが落ちた。はらはらと、床に散るのは、スミレと桃色の髪。切られたと理解した瞬間、胸の奥が、ひどく冷えた。それでも私は、顔を上げ笑って見せる。


「……それで、満足?」


「実にいい。

…さあ」


陛下は、淡々と告げた。


「迷宮へ」


その言葉と同時に、掴まれていた体が、乱暴に突き飛ばされる。視界が傾き、私は闇の奥へ――奈落の、底……?そう思った瞬間だった。迷うことなく、セナとテオが私の落ちた穴へと身を投げる。


「お嬢様――!」


「ティアナ!」


その声が、闇に吸い込まれていく。


「待って!」


ルイの叫びと同時に、ユウリも、レオも、慌てて後を追った。だが――床が、再び音を立てて割れる。


「――っ!」


ルイ、ユウリ、レオの足元が崩れ、3人は、私たちとは別の穴へと落とされた。伸ばした手は、届かない。声も、重ならない。闇が、すべてを分け隔てる。

こうして――私たちは、完全に引き裂かれた。落下の風が、耳元を切り裂く。胸の奥が、ひどく冷えた。でも――私は、目を閉じなかった。


「……絶対に、負けない」


震えた声だった。けれど、その言葉は闇に飲まれず、まっすぐ落ちていった。


レイside


ティアナ様たちが動き出した。少し遅れて、陛下も席を立つ。殿下から言われている。**「陛下から目を離すな」**と。私は任務として、気配を殺してついていった。禁書庫――そう思われる場所に陛下の騎士たちが集っている。

ティアナ様たちが見つかったのかと胸がざわつき、剣を握りしめた。こっそり中を覗き、息を呑む。殿下の写真、資料の山。ディラン殿下が“器”……?理解した瞬間、背筋が冷える。すぐに殿下へ伝えなければ。踵を返そうとしたその時。


「動くな」


陛下の騎士。しまった――。


「レイか」


陛下がこちらを見据える。なんで冷えた目だ。


「……はい、陛下」


「気づいたようだな」


「はじめから、殿下を利用するつもりだったのですか!」


「ああ。よくディランに仕えてくれた。感謝しているよ。

だが――それも今日までだ」


ティアナ様の髪が床に落ちている。スミレ色と桃色。


「なんてことを…

ティアナ様はどこにいるのですか?」


「そんなに心配なら、同じ場所へ行けばいい」


「……は?」


「迷宮だ。そこの下だ」


指さされた先は、奈落。


「大丈夫だ、レイ。お前も“そこ”へ行かせてやる」


強い力で背を押される。抵抗して剣を振るうが、遅い。

落ちていく。殿下――。

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