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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

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地下潜入 3

「……とりあえず、証拠資料を確保して。

 それから、外に出ましょう」


そう言った、その直後だった。


「随分はやいですね」


そう言って、セナが鋭く目を細めた。視線の先――石階段の奥から、重い足音がゆっくりと響いてくる。その姿を見た瞬間、私は思わず息を呑んだ。


「オーウェン団長……どうして」


現れたのは、いつもディランの傍で護衛を務めている、王国騎士団団長オーウェンだった。重厚な鎧姿のまま、こちらを静かに見据えている。


「……驚いたな」


低い声が、静かに落ちる。


「まさか、ここまで早く辿り着くとは思っていなかった」


その言葉に、私たちは一瞬、顔を見合わせる。


「私はディラン殿下の護衛騎士です」


オーウェン団長が淡々と告げる。


「ジョルジュ陛下の命により、

貴方方の行動を監視していました」


空気が、ぴたりと凍った。


「監視……」


セナが低く呟く。


「ディラン殿下に危害を加える可能性がある。

そう報告を受けていましたので」


真っ直ぐな声音。けれど、その言葉に悪意は感じない。……この人は、本当に知らないのだ。ジョルジュに利用されている。


「なるほどね〜」


テオが肩を竦めながら、じろりとオーウェン団長を睨む。


「でも、それ……本当に合ってる?」


「……どういう意味ですか?」


オーウェン団長の眉が寄る。


私はゆっくりと、壁一面へ視線を向けた。そこには、大量の資料が貼られている。ディランの行動記録。魔力反応。身体データ。幼少期から現在までの異様な調査内容。執着じみた記録が、狂気のように並んでいた。


「オーウェン団長……

これを見ても、私たちがディランの敵だと言えますか?」


その瞬間。オーウェン団長の表情が、はっきりと変わった。


「な……っ」


目を見開き、息を呑む。


「なんですか……これは」


明らかな動揺だった。資料へ近づき、震える手で紙を掴む。


「これは……ディラン殿下の……」


顔色が変わっていく。やはり知らなかった。ジョルジュの本当の目的を。


――パン、パン、パン。

その時。静まり返った空間に、乾いた拍手が響いた。空気が、一瞬で張りつめる。


「素晴らしい」


階段の奥、闇の中からゆっくりと声が落ちる。


「まさか、ここまで辿り着くとはね」


重い足音。一歩ずつ、こちらへ近づいてくる。


「ディランにも、

あまり嗅ぎ回るなと釘を刺しておいたのだが」


闇の奥から姿を現したのは――ジョルジュ陛下だった。私は息を呑む。けれど、すぐに背筋を伸ばした。


「……なんて、恐ろしいことを」


声は震えていない。胸の奥は冷たいのに、言葉だけはまっすぐ出た。


「恐ろしい、だって?」


ジョルジュ陛下が、愉快そうに笑う。


「美しい、の間違いだろう?」


ぞくり、と背筋が粟立つ。それでも私は目を逸らさない。


「この老いた身体で不老不死になっても意味がない。

――ディランの、美しい身体でなければね」


その声に、祖父としての情は一切なかった。ただ、異様な執着だけが滲んでいる。


「さて……」


ジョルジュ陛下の視線が、私たちを順番になぞる。


「君たちは、知りすぎてしまった」


仲間たちが身構える。その中で、オーウェン団長だけが呆然としていた。


「ジョルジュ陛下……

これは……どういうことですか」


震える声だった。信じたくないのだろう。ずっと忠誠を誓ってきた相手なのだから。だが、ジョルジュ陛下は薄く笑うだけだった。


「うむ。

今までよくディランを守ってくれた」


まるで褒美でも与えるような口調。


「君は扱いやすかったよ。

ディランの護衛騎士としても、

王国騎士団団長としても、

“王命は絶対”だからな」


ふむ、と顎に手を添える。その言葉に、オーウェン団長の顔から血の気が引いた。


「私は……

ずっと……」


利用されていた。その事実を理解したのだろう。ぎり、と剣を握る手に力が入る。そして、私たちの前へ出た。


「貴方は……

ディラン殿下を大切に思っていたのではないのですか」


「大切だとも」


ジョルジュ陛下が嗤う。


「私の所有物としてね」


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