地下潜入 3
「……とりあえず、証拠資料を確保して。
それから、外に出ましょう」
そう言った、その直後だった。
「随分はやいですね」
そう言って、セナが鋭く目を細めた。視線の先――石階段の奥から、重い足音がゆっくりと響いてくる。その姿を見た瞬間、私は思わず息を呑んだ。
「オーウェン団長……どうして」
現れたのは、いつもディランの傍で護衛を務めている、王国騎士団団長オーウェンだった。重厚な鎧姿のまま、こちらを静かに見据えている。
「……驚いたな」
低い声が、静かに落ちる。
「まさか、ここまで早く辿り着くとは思っていなかった」
その言葉に、私たちは一瞬、顔を見合わせる。
「私はディラン殿下の護衛騎士です」
オーウェン団長が淡々と告げる。
「ジョルジュ陛下の命により、
貴方方の行動を監視していました」
空気が、ぴたりと凍った。
「監視……」
セナが低く呟く。
「ディラン殿下に危害を加える可能性がある。
そう報告を受けていましたので」
真っ直ぐな声音。けれど、その言葉に悪意は感じない。……この人は、本当に知らないのだ。ジョルジュに利用されている。
「なるほどね〜」
テオが肩を竦めながら、じろりとオーウェン団長を睨む。
「でも、それ……本当に合ってる?」
「……どういう意味ですか?」
オーウェン団長の眉が寄る。
私はゆっくりと、壁一面へ視線を向けた。そこには、大量の資料が貼られている。ディランの行動記録。魔力反応。身体データ。幼少期から現在までの異様な調査内容。執着じみた記録が、狂気のように並んでいた。
「オーウェン団長……
これを見ても、私たちがディランの敵だと言えますか?」
その瞬間。オーウェン団長の表情が、はっきりと変わった。
「な……っ」
目を見開き、息を呑む。
「なんですか……これは」
明らかな動揺だった。資料へ近づき、震える手で紙を掴む。
「これは……ディラン殿下の……」
顔色が変わっていく。やはり知らなかった。ジョルジュの本当の目的を。
――パン、パン、パン。
その時。静まり返った空間に、乾いた拍手が響いた。空気が、一瞬で張りつめる。
「素晴らしい」
階段の奥、闇の中からゆっくりと声が落ちる。
「まさか、ここまで辿り着くとはね」
重い足音。一歩ずつ、こちらへ近づいてくる。
「ディランにも、
あまり嗅ぎ回るなと釘を刺しておいたのだが」
闇の奥から姿を現したのは――ジョルジュ陛下だった。私は息を呑む。けれど、すぐに背筋を伸ばした。
「……なんて、恐ろしいことを」
声は震えていない。胸の奥は冷たいのに、言葉だけはまっすぐ出た。
「恐ろしい、だって?」
ジョルジュ陛下が、愉快そうに笑う。
「美しい、の間違いだろう?」
ぞくり、と背筋が粟立つ。それでも私は目を逸らさない。
「この老いた身体で不老不死になっても意味がない。
――ディランの、美しい身体でなければね」
その声に、祖父としての情は一切なかった。ただ、異様な執着だけが滲んでいる。
「さて……」
ジョルジュ陛下の視線が、私たちを順番になぞる。
「君たちは、知りすぎてしまった」
仲間たちが身構える。その中で、オーウェン団長だけが呆然としていた。
「ジョルジュ陛下……
これは……どういうことですか」
震える声だった。信じたくないのだろう。ずっと忠誠を誓ってきた相手なのだから。だが、ジョルジュ陛下は薄く笑うだけだった。
「うむ。
今までよくディランを守ってくれた」
まるで褒美でも与えるような口調。
「君は扱いやすかったよ。
ディランの護衛騎士としても、
王国騎士団団長としても、
“王命は絶対”だからな」
ふむ、と顎に手を添える。その言葉に、オーウェン団長の顔から血の気が引いた。
「私は……
ずっと……」
利用されていた。その事実を理解したのだろう。ぎり、と剣を握る手に力が入る。そして、私たちの前へ出た。
「貴方は……
ディラン殿下を大切に思っていたのではないのですか」
「大切だとも」
ジョルジュ陛下が嗤う。
「私の所有物としてね」




