それぞれの役割 3
「……もし」
俺は一度だけ息を整え、まっすぐディランを見た。怖さはある。けれど、それ以上に“言うべきこと”がある。
「お嬢さんだったら、こう言うと思います」
ディランの視線が、鋭く俺に向く。その圧を正面から受け止める。
「ローゼ様とスーザ様については――
もう、十分怖い思いをしたはずだと」
魔宝獣に襲われたと聞いた。あれを経験したなら、もう二度と軽率な真似はできない。
「だから、お嬢さんには二度と近づけないようにして、
表に出ない形で責任を取らせると思います」
一拍置き、はっきりと言う。
「……命までは、奪わない」
次に、刺客へ視線を向ける。男は怯えていたが、俺は目を逸らさなかった。
「この人についても同じです。やったことは許されません」
だが、と続ける。
「陛下に使われただけなら……また、同じことが起きます」
俺は胸を張って言った。
「生かしたまま、二度と刃を握れないようにする」
それが、お嬢さんのやり方だ。優しさと強さを両立させる、あの人らしい選択。沈黙が落ちる。ディランは目を伏せ、深く考え込んだ。怒られるなら、それでもいい。俺はそう思っていた。言うべきことを言っただけだ。やがて。
「……なるほどな」
ディランは顔を上げ、静かに言った。
「確かに、ティアナらしい」
その声には迷いがなかった。
「ローゼとスーザには、国外への静養命令を出す。
二度と、王都の政治に関わらせない」
即断。王族の決断の重さが、そのまま言葉に乗る。
「刺客は――」
拘束された男へ視線を向ける。
「処刑はしない。だが、身分を剥奪し、以後、王国で剣を取ることを禁ずる。監視付きで生かす」
男が、驚愕に目を見開く。
「……感謝しろ」
冷たく、だが揺るぎない声。
「ティアナの望みだ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなった。
…この人。お嬢さんの“優しさ”を、ちゃんと理解してる。
「レオ」
ディランが、こちらを見る。
「よく伝えてくれた」
「……はい!」
俺は堂々と頭を下げた。お嬢さんちゃんと守られますよ!
◇
ルイ side
みんなは王国へ潜入中。私はというと、隠れ家でティアナちゃんが式典で着るドレスの最終調整をしていた。パーティーから一瞬で戦闘服へと変わるよう、何度も改良を重ねてきた特製のドレス。妥協なんてできない。
動きやすく、そして美しく――その両方を満たすことが絶対条件。
「……よし、これでいいわね」
私はそっとドレスを広げる。光を受けて布がふわりと揺れ、仕込んだ細工がわずかにきらめいた。
「相変わらず素晴らしいですね」
振り返ると、ティアナちゃんの侍女・アリスが立っていた。
普段はクールな彼女だが、その瞳にはわずかに不安の色が滲んでいる。
「あら、アリスちゃん。ありがとう」
「……お嬢様、大丈夫でしょうか」
「大丈夫よ。みんないるわ。もちろん私もね」
「……はい」
アリスは小さくうなずいたが、その指先はかすかに震えていた。




