↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
319/354

それぞれの役割 2

「……はあ」


ディランが、深く、長く息を吐いた。その仕草ひとつで、空気が凍りつく。


「さて。どう落とし前をつけるか」


声は低く、冷え切っている。怒りすら感じられない――だからこそ恐ろしい。ひぇ……これ、本気で怒ってるやつ……。

ローゼとスーザの肩が、ガタガタと震えた。殿下が一歩踏み出すだけで、2人の呼吸が詰まる。


「も、申し訳……ありません……」


スーザが、喉をひきつらせながら言う。


「わ、わたくしは関係ありませんわ!」


ローゼが必死に否定する。だが――。


「関係ない? 言葉を選べ」


ディランの声が、刃物のように鋭く落ちた。


「君がティアナにしてきた嫌がらせは、すべて把握している。渋いお茶、陰口、教科書のイタズラ……」


一拍置いて、さらに冷たく。


「そして――ティアナの指を傷つけた。

花びらにガラス片を混ぜてな」


ローゼの体がビクッと跳ねる。


「俺が気づかないとでも思ったのか」


その声音は、底なしの冷たさだった。…と、とりあえず浮気じゃなかったー!!心の中で思わずガッツポーズ。よかった!ほんとによかった!!


「……そして」


ディランの視線が、刺客へと向く。空気が一段と重く沈む。


「お前だ」


「ひぃっ……!」


刺客の喉が鳴る音が聞こえるほどの沈黙。


「誰に命じられた?」


逃げ場のない声。拒否も嘘も許さない声音。刺客はしばし黙り――ついに折れた。


「……ジョルジュ陛下だ」


その名が出た瞬間。


「やはりな」


ディランは微動だにしない。驚きも怒りも見せない。ただ、事実を確認しただけのように淡々としている。うわぁ……お嬢さんの言ってた通りじゃん……。背筋がぞわりと冷える。

これ…俺、聞いちゃいけないやつ…めちゃくちゃ聞いてない?息を殺し、俺はベランダの影にさらに身を沈めた。

……やっば。完全に、逃げるタイミングを失った。

ローゼとスーザは立ち尽くし、刺客は拘束されたまま動けない。今さら動いたら、絶対気づかれる。ベランダの影に身を沈め、息を限界まで殺す。心臓の音が、耳の中で暴れている。頼むから……誰も外を見ないで……!


その時。


「……誰かいますね」


低い。静か。なのに、背骨を掴まれるような声。――レイさんだ。うそでしょ……なんでバレるの……?


「…そうか」


ディランが、ゆっくりと視線を上げる。見るな見るな見るな……!指先がじわりと汗ばむ。


「そこにいますね」


レイさんの声が、空気を切り裂く。


「隠れても無駄です。

……はっきりと“気配”があります。」


その言い方は、逃げ道を完全に断ち切るものだった。終わった。もう、完全に詰んだ。飛び降りれば音が出る。戻れば見つかる。動かなくても、もうバレてる。


(庭師、詰みました)


一歩。レイさんの足音が、こちらへ向かってくる。その一歩だけで、心臓が跳ねた。


「――出てきなさい」


低く、拒否を許さない声。命令というより“宣告”に近い。ひょこっと顔を出した。


「……なんだ。レオか」


ディランが、こちらを見る。その目は冷静で、状況をすべて見透かしているようだった。


「聞いていたのか?」


「す、すみません……!」


慌てて頭を下げる。


「別に、聞かれて困ることではないさ」


淡々とした声。責める気配はない――だが、温度もない。


「それで」


殿下の視線が、ローゼとスーザ、そして拘束された刺客へ向く。


「ローゼはティアナへ嫌がらせをしていたし、刺客への依頼も把握していた。

スーザは刺客にティアナを脅すよう依頼し、

刺客はそれを実行した」


まるで罪状を読み上げるように、淡々と。


そして――。


「刺客についてだが……レオ。お前はどうしたい?」


「え……?」


「大事なティアナの命を狙った者だ」


一拍。


「……殺すべきか?」


「へっ!?」


素っ頓狂な声が出た。


(い、いきなり重っ!?)


「い、いや……!」


慌てて首を振る。


「お嬢さん、そんなこと望んでません!」


「この人も……」


刺客を見る。


「殺す気はなかったって、言ってましたし!」


必死で言い募ると、ディランはしばし黙り込んだ。その沈黙が、やけに重い。呼吸すらためらうほどの圧がある。


(……間違ったこと、言ってないよな?)


やがて。


「……そうか」


短く息を吐く。その表情は冷静で――どこか、深い疲労を滲ませていた。


「確かに、ティアナは命を奪うことを良しとはしない」


そう言ってから、もう一度、刺客に視線を向ける。


「だが」


声が、わずかに低くなる。


「それで済む話かどうかは、別だ」


(……あ。この人、やっぱり覚悟が違う)


軽い気持ちで首を突っ込んだわけじゃない。その覚悟の重さが、ひしひしと伝わってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。