それぞれの役割 1
テオside
さて、と。俺は人目を避けながら、城の内部を改めて確認していく。お嬢様が王妃教育を受けていた頃、このあたりの構造はだいたい頭に入っている。
警備の巡回ルート。時間ごとの交代。そして――例の北側の部屋への出入り。
(なるほどな)
警備の数が、妙に多い。しかも、理由を説明できる配置じゃない。
確かに……北の部屋は、あやしい。だが問題はそこじゃない。正面から入るのは論外だ。目も多ければ、記録も残る。
「……さて」
壁に手を当て、裏側の構造を思い出す。この部屋の裏はどうなっている?通路か。それとも行き止まりか。
あるいは――誰にも知られていない、もうひとつの通路があるのか。視線が、静かに鋭くなる。
「……テオ」
背後から、ほとんど息だけの声が落ちてきた。
「ユウリ……ウェイター様になってるね」
「それはどうも」
ユウリは軽く肩をすくめる。その自然さは、役に溶け込むことに慣れた者の動きだ。
「そちらは、どうです?」
「北側の部屋は、やっぱり怪しい。正面から入るのは厳しいな」
視線を逸らしつつ、周囲の気配を探る。
「裏側も、もう少し探ってみる」
「分かりました」
一拍置いて、ユウリが問い返す。
「そっちは? 何か進展は?」
「特には。……ただ、少し気になることが」
声がわずかに低くなる。
「ディラン殿下の両親が亡くなっているのは、知っていますか?」
「……ああ。まあ」
「その死亡事故について、妙な噂を少し耳にしまして」
「へぇ」
思わず、口の端が上がる。ユウリが“妙な噂”と言うときは、だいたい本当に妙なやつだ。
「調べているところです」
「なるほどね」
一瞬だけ、互いの視線が交わる。短いが、十分な確認。
「じゃあ、お互い気をつけよう」
「そうですね」
ユウリは、何事もなかったように一礼した。
「では」
そのまま、雑踏へと自然に溶けていく。気配が消えるのが早い。相変わらずだ。小さく息を吐き、再び壁へ視線を向けた。
(……さて。こっちも急がないとな)
静かに足音を消し、再び動き出す。
◇
レオ side
庭師レオ、参上!
それにしても――アレキサンドライト王国の城、広すぎ!庭もまた、とんでもない広さだ。王国創立記念式典を控えているせいで、庭師たちは総出で大忙し。
花を植えて、枝を払って、木の形を整えて――
(これ、何日かかるんだろ……)
でも、そのおかげで。
「……意外と、紛れ込めるもんだなぁ」
作業着に帽子、道具を持っていれば、誰も気にしない。まあ、その辺は殿下がうまく手を回してくれてるんだろうけど。ありがたい話だ…とはいえ。
「外から見て、何か分かるもんかな……」
首を傾げつつ、手を日よけみたいにして城を眺める。……ん?
「……あれ?」
裏手のほう。王国騎士団が、誰かを連れて裏口から入っていくのが見えた。護送ってほど物々しくはないけど、雰囲気が、ちょっと違う。
「……気になるなぁ」
俺は何食わぬ顔で剪定ばさみを動かしながら、しれっと、その後を追った。
「あれ……?」
視界の端で、違和感が引っかかった。
「……罪人?」
王国騎士団に挟まれ、手を拘束された人物が裏手へ連れていかれている。
(式典前に、こんな動き?)
気づけば、体が勝手に動いていた。音を立てないよう距離を保ちつつ、すっと後を追う。近くの木に飛びつき、枝を伝って上へ。葉の隙間から、下を覗き込む。
「……え」
見えたのは――
「殿下じゃん」
ディラン殿下。それに、側近のレイさん。そして。
「あの女の人……?」
どこかで見た顔だ。
(えっと、えっと……)
記憶をたどる。
「……あ! ローゼ、だっけ?」
ユウリが持ってた資料に載っていた、婚約者候補のひとり。
その瞬間。――ローゼが、殿下に抱きついた。
「えっ!ちょ、近っ!殿下、それ浮気じゃない!?」
全力ツッコミ。顔、近い近い近い!
「お嬢さんが悲しむやつー!」
……と思ったのも束の間。殿下の表情は、甘くない。あれ?空気が、思ってたのと違う。
「……真実、確かめないと」
そう決めた時には、3人はすでに部屋の中へ消えていた。
「うわー……外からじゃ聞こえない」
扉は閉まり、声も漏れない。中、入れないかな。周囲を見回し――
「……あ」
すぐ上。
「ベランダ、あるじゃん」
木の枝から身を翻し、音もなくベランダへ移動する。息を潜め、そっと中の様子を探った。ここなら中の様子見えるし、声も聞こえる。
やっぱりだ。殿下たちだけじゃない――。
「まず――」
ディラン殿下の声が響く。低く、抑え込んだ怒気を含んだ声だ。
「君が、ティアナを殺そうとした刺客だな」
「――っ!?」
思わず息が止まる。
(お嬢さんを狙った刺客!?そいつがここに!?)
「ち、違う……!」
男の声は焦りに満ちていた。
「殺すつもりはなかった! ただ脅すだけのつもりだったんだ!」
「……それで?」
ディラン殿下の声がさらに冷え込む。
「ローゼ嬢。
君は彼に、それを頼んだのか」
「ち、違いますわ!」
ローゼの声は震えていた。
「ご誤解ですの! わたくしはそんな……この方が勝手にやったことですわ!」
怯えたように首を振るローゼ。その瞬間――。
「確かに、この女からは依頼されてない。
そっちの女の方だ」
刺客が指し示した先で、もう一人の令嬢が顔を伏せた。そして刺客は、はっきりと言い切る。
「そこのスーザって女で間違いない」
「――は?」
頭の中で何かが弾けた。
(なんだってぇぇぇ!?)




