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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

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潜入準備

王国創立記念式典――。

各地に散っていた王国騎士団が一堂に集められ、一週間にわたる強化合宿がいよいよ始まる。そして迎える、最終日。王国創立を祝う記念祭パーティーが開かれる。この一週間が、勝負だ。その間に、確実な証拠を掴まなければならない。

敵に回すことになるのは――王国の頂点。

冗談では済まされない相手だ。踏み外せばすべてを失う、危険すぎる橋。それでも。見過ごせば、取り返しのつかない事態になる。だからこそ――本気でいくしかない。


「あの……本当に、その格好で行くんですか?」


セナが盛大なため息をつきながら言った。


「行くよ! バッチリでしょ!」


鏡に映るのは――私……いや、俺だ。


ルイの衣装に茶髪のウィッグ。身長を底上げする厚底のシークレットブーツ。冬用の厚手の服を重ねれば、体のラインも完全に隠れる。


「見た目は……まあ、悪くないですけど」


セナが渋々うなずく。


「よりによって、騎士団員として参加しなくても……」


「だって、せっかくだし参加したいじゃん!」


振り返って胸を張る。


「騎士団のレベル、実際に見てみたいし!」


「はぁぁ……」


セナは頭を抱えた。


「見た目は完全に男の子ですね!」


「確かに」


アレンとロベルトも感心したように言う。


「でも……」


今度のセナの声は、少しだけ真剣だった。


「魔宝剣を発動したら、即バレますよね?」


「まあ、その時は木剣使うでしょ」


軽く肩をすくめる。


「……使いそうになったら、逃げる!」


「計画が雑すぎます!」


セナが即座に突っ込んだ。

……でも。胸の奥が、ほんの少し高鳴っていた。

危険なのは分かってる。それでも――この中に、答えがある気がしてならなかった。


「いや、お嬢様……すっごく素敵! かっこいい!!」


テオが目を輝かせて叫ぶ。


「あ、王子さま……?」

一拍置いて――

「……でも、それもいい!!」


完全にうっとりしている。


「ありがとう」


軽く笑って返す。


「でもさ」


レオが腕を組み、じっとこちらを見つめた。


「見た目は完璧だけど……声でバレない?」


「それはね……」


口角を上げる。


「ふふふ」


「……なんだか悪の親玉みたいですよ、お嬢様」


ユウリが淡々と突っ込む。


「これ!」


首元に手をやり、魔宝石のついたチョーカーを見せる。カチリ、と留め具をはめた。


「声、変わるだろ?」


次の瞬間――


「……す、すごっ!!」


レオが思わず声を張り上げる。


「ちょ、今の……完全に男の声じゃない!!」


ルイも興奮気味に身を乗り出す。


「どうしたんですか、それ」


セナも目を丸くした。


「声帯の魔力振動を調整する魔具。一定時間、性別判別できない音域に固定されるの」


さらっと説明する。


「……そんなの聞いたことないです」


「でしょうね」


にやりと笑う。


「非売品だし」


一同、沈黙。そして――


「……本気すぎません?」


セナがぽつりと漏らす。


「当たり前でしょ」


視線を鏡の中の“俺”に戻す。


「今回は、遊びじゃないもの」


空気が、わずかに引き締まった。


「これ、アラン殿下に頼んで譲ってもらったの」


そう言って、チョーカーを指で弾く。その瞬間、ふと記憶がよみがえった。

――以前、蝶の会に潜入したとき。

ディランはサーフェスになりすましていた。

顔だけじゃない。声まで、完全に別人だった。


(あのときも、同じ違和感を覚えた)


あれは魔法というより……**精密すぎる“調整”**だった。

交換条件と称して聞いてみたら、案の定だった。

知識も、人脈も、手段も持っている人。そういう人にしか扱えない代物。


『ああ、それね』


軽い口調で、でもどこか意味深に笑って。


『声帯に干渉する魔宝石だ。本来は諜報用で、一般には出回らない』


『君が使うなら、問題ないだろう』


……まるで貸し出す本の話でもするみたいに、さらっと。


(ほんと、ディランもすごいけど……アラン殿下も規格外)


「なるほど……」


セナが納得したように息を吐く。


「アラン殿下が絡んでるなら、確かに性能は保証付きですね」


「でしょ?」


私はにっと笑う。


「だから今回は――」


チョーカーに触れながら、低く宣言する。


「完璧に“男”でいく」


その言葉に、一同が静かに頷いた。危険なのは、誰より分かっているつもりだ。


「――作戦確認ね!」


私は視線を一巡させ、全員の顔をしっかりと見渡した。


「期間は一週間。その間に、私とセナ、アレン、ロベルトは王国騎士団員として合宿に参加して、内部から情報を集める」


一度、言葉を区切る。


「そして合間を縫って、ジョルジュの“本当の目的”を突き止める。これが最優先」


空気が、ぴんと張りつめた。


「それから――目星をつけた場所」


指先で机を軽く叩く。


「頃合いを見て、夜中に潜入する。

その際に使うのが、ディランから受け取った城内地図と、見張りの配置情報。入念に確認してから動くわ」


私は視線を向ける。


「その役目は――テオ、ユウリ。お願い」


「2人は城内の使用人として潜入」


「はーい」


テオが軽く手を上げ、


「承知しました」


ユウリが静かに頷く。


「それから――」


私はレオを見る。


「レオは庭師として潜入」


「はい!」


元気よく返事をして胸を張る。


「外から見張ります!」


「お願いね。外の異変に一番気づけるのは、あなたよ」


次に、ルイへ視線を移す。


「ルイは裏方で、私のサポートをお願い」


その瞬間だけ、空気が少しやわらぐ。


「……わかったわ」


短く、しかし迷いのない返事。


「それと――」


声を引き締める。


「アリス、ルーク団長、オリバー副団長、エリックは待機。

流石に、伯爵家をそのまま空けるわけにはいかないから」


「わかりました」


アリスが頷き、


「りょうかい!」


ルーク団長が即答する。


「ただし」


私は念を押す。


「こちらが動く時には、必ず力を貸してほしい」


「わかりました」


オリバー副団長とエリックも、静かに、しかし確かな意志で頷いた。


「……危険な作戦よ」


でも、と小さく笑う。


「だからこそ、一人も欠けずに帰る」


その言葉に、誰も冗談めかすことなく、真剣に頷いた。

――もう、後戻りはできない。

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