救世主5
パンとシチューは、問題なく完成した。
午前の部と午後の部に分けて整理券を配布。そして決まった時間に取りに来てもらう制度にした。
「どうしてこのような制度にするのですか?」
そうアレンに問われ、
「同じ人が何度も取りに来ないようにするためね。とにかくたくさんの人に配りたい。
あとは、大人数が並ぶと通りの邪魔にもなるし、せっかく長い時間並んだのにもらえなかっただと悲しいでしょ」
「な、なるほど」
「あと、ひとつ疑問なんですが……」
アレンが周囲を気にしながら声を落とす。
「もしマルク様が来たら、気まずくないですか?」
何も知らされていない張本人が、ふらっと顔を出したらどうするのか、ということだろう。
「それは大丈夫よ」
私はあっさり答える。
「今日は令嬢たちと川辺でヨットを借りて、ピクニックの予定らしいから」
「……なるほど」
「それもあって、ボランティアに使う金額を抑えて、そちらに回したんだと思うわ」
その言葉に、第2騎士団員たちから一斉にため息が漏れる。
「それは……なんと言えばいいのか……」
アレンが気まずそうに視線を逸らした。
「まあ、そういうわけで」
私は軽く手を叩く。
「私たちは、私たちにできることを精一杯やりましょう」
その後、ボランティアは大きな混乱もなく、無事に進んだ。
午前・午後ともに予定数の食事を配り切り、最後の鍋も空になる。
「……もう終わりみたい。残念ね」
そう呟きながら、親子連れが名残惜しそうに立ち去ろうとする。
「うん……」
子どもも少ししょんぼりした様子だ。
「よかったら、これどうぞ」
私は小袋に入ったクッキーを差し出した。
「え、いいんですか?」
驚いたように目を丸くする。
「ありがとう!」
そう言って、親子は笑顔で帰っていった。
余った小麦粉で焼いたクッキーは、食事を配り切れなかった人たちにも手渡す。
ほんの少しのお菓子かもしれないが、それでも受け取った人たちは皆、穏やかな表情を浮かべてくれた。
――全部、配り終えた。
厨房を見渡すと、子どもたちも騎士団員たちも、どこか誇らしげな顔をしている。
疲れてはいるが、その表情は明るい。
「成功だな!」
レオがこちらをみる。
「ええ」
私は静かに頷く。
「大成功よ」
誰かの一日を、ほんの少しでも温かくできたのなら。
それだけで、今日ここに来た意味は十分にあった。
少し離れたところで第2騎士団と第3騎士団みんなで楽しそうに話している。
すると1人の第2騎士団員が近づいてきた。
「今回はご協力、本当にありがとうございました」
「いいのよ。マルクの無茶振りに付き合わされた被害者でしょ」
「いえ、実は私、ここの孤児院の出身でして、現在は男爵家の長男として引き取られています。
今回、ボランティアの話を聞いてとても嬉しかったのですが、マルク様の対応には少し不安があり、とても憂鬱でした。
しかし、ティアナお嬢様のご配慮で、たくさんの人が喜び、子どもたちにとっても貴重な経験となり、感謝の気持ちでいっぱいです」
「それは良かったです。私は大したことはしてないので。
レオやパン屋の旦那さん、第3騎士団のみんなにも伝えてあげて。きっと喜ぶと思うから」
ニコッと微笑むと、第2騎士団員は深くお辞儀をし、嬉しそうにその場を去った
はじめてこの孤児院の名前を耳にしたとき、なぜか直感が働いた。ここは双輝アレキサンドライト王国にもそう遠くはない場所にある。騎士団の中には孤児院出身者も少なくなく、後継のいない貴族が養子として迎え入れることもあるのだ。
調べてみると、その直感は間違っていなかった。蒼紋ラピスラズリ伯爵家 第1騎士団や双輝アレキサンドライト王国騎士団の中に、孤児院出身の者たちがいる。
そして何より驚いたのは、王国騎士団のオーウェン団長までもが、この孤児院で育ったということだった。
こうした事実を知ると、ボランティアの活動が雑になれば、単なる孤児院の問題では済まされず、蒼紋ラピスラズリ伯爵家の名誉や騎士団員の忠誠心にまで影響しかねない。しかし、現状はここまで順調に進んでおり、少なくとも及第点はといえるだろう。
少し疲れたな…
ここ数日はボランティアの準備で夜更けまで仕事していた。
夕暮れの空を見ながらほんの少し 今だけは穏やかな気持ちでいたい。




