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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

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仲直り 2

正面玄関まで戻ると、


「あっ。お嬢さーん、雪ですよ!」


レオの楽しげな声が響く。……と思ったら。


「って、殿下! あ、仲直りしたんですね!」


一瞬で状況を察するその観察力、今はいらない。


「ちっ。なんだ、仲直りしたのか」


テオがわざとらしく舌打ちする。


「ちょっと、テオちゃん!よかったじゃない」


ルイが肩をすくめてなだめた。


「とりあえず、中でお茶にしましょう」


「ええ、用意します」


場をまとめるようにユウリが声をかけ、アリスも頷く。その言葉に、張りつめていた空気がようやく緩んだ。

アレンとロベルトは事情を深く聞くこともなく、ただニコニコと笑っている。

そして――セナが、誰にも気づかれないように、そっと息を吐いた。その横顔を見て、私もようやく肩の力を抜いた。


暖炉の火が、ぱちりと小さく弾けた。

湯気の立つティーカップが並び、甘い香りが部屋いっぱいに広がる。


「はい、どうぞ」


ユウリとアリスが手際よくお茶を配っていく。

……平和。見た目だけは。


「それにしても」


ルイが、わざとらしくカップを口元に運びながら言った。


「さっきの、なかなか名シーンだったわね」


「ルイ」


即座に、セナが低い声で制する。


「え? なに?」


悪びれない笑顔。


「仲直りした瞬間に雪って、演出完璧じゃない?」


「……」


ディランが咳払いをひとつ。視線はカップに落としたまま、こちらを見ようとしない。耳が、赤い。


「殿下」


テオがじろりと睨む。


「お嬢様、大事にしてよ。次はないからね」


「……承知している」


間髪入れず返る真面目な声。――だから余計に目立つ。

アレンとロベルトは顔を見合わせて、


「なんか……あったかいですね」


「雪なのにな」


と、よくわかっていないまま微笑んでいる。

私はというと――……落ち着かない。

隣に座るディランとの距離が、近い。

さっきまで抱きしめられていた温もりが、まだ肌に残っている。


「……お茶、冷めるよ」


小さく囁かれ、心臓が跳ねた。


「……あ、はい」


カップを持つ手が、わずかに震える。その様子を見て、ルイが満足そうに頷いた。


「うん。完全に仲直りね」


「……」


誰も否定しなかった。暖炉の火と、紅茶の湯気に包まれる。


「……とりあえず、少し話をまとめましょうか」


ユウリが静かに口を開く。

その言葉を合図にしたかのように、扉の前で気まずそうに立っていたルーク団長とオリバー副団長、そしてエリックが、遠慮がちに部屋へ入ってきた。


「……」


一瞬、視線がこちらに集まる。


「す、すみません」


思わず頭を下げ、内心のざわつきを押し込めるように背筋を伸ばす。

――切り替えなきゃ。

王国創立記念祭までは、まだ時間はある。けれど、余裕があるわけじゃない。

それぞれの役割、準備の進捗警備と動線、来賓対応。

ひとつずつ確認していくうちに、部屋の空気は少しずつ、いつもの「仕事の場」へと戻っていった。

さっきまでの気恥ずかしさも、胸の奥に残る甘さも、今はそっとしまい込む。

私は、次の議題へ視線を落とした。一区切りしたところで、


「俺は、これで帰るとしよう」


ディランが静かに席を立つ。


「わかりました。……見送ります」


「それは、ありがとう」


部屋を出て、扉が閉まる。

――二人きり。さっきまでの喧騒が嘘のように、空気がしんと静まり返った。私はひとつ息を整え、口を開く。


「ディラン……」


名前を呼んだだけで、胸がきゅっと締めつけられる。


「私は、ジョルジュ陛下が信用できません」


慎重に言葉を選びながら続ける。


「なにか……とんでもないことを考えている気がするんです」


ディランは否定も驚きもせず、ただ短く頷いた。


「ああ」


その反応に、覚悟が固まる。


「……ディランのご家族を悪く言いたいわけではありません。でも――それを、確かめたいんです」


沈黙。ほんの一瞬、迷いがよぎったように見えて、思わず視線を上げる。


「大丈夫だ」


低く、はっきりとした声。


「前にも言っただろ」


一歩近づき、まっすぐに見つめてくる。


「俺が一番大事なのは――きみだ」


迷いのない瞳が、逃げ場のないほど真っ直ぐに私を捉える。

誠実で、強くて、揺るがない。その視線に、胸の奥が熱くなった。

――この人は、選んだんだ。

迷わず、私を。


「……もし、あの人が何か悪さをしているのなら」


ディランは言葉を選ぶように、ひとつ息を置いた。


「俺は、孫として。そして――次期国王として、止めなければならない…絶対に」


エメラルドの瞳が、迷いなく前を見据えている。


「今回、俺は表立っては動けない。……祖父の目があるからな」


少し声を落とし、続けた。


「だから……君に、危険な役目を任せることになる」


その言葉に、私は一瞬もためらわなかった。


「それは、大丈夫です」


むしろ、自然に口をついて出た。


「一緒に、やりましょう」


対等に。隣に立つ覚悟で。

ディランは驚いたように目を瞬かせ、それからふっと肩の力を抜いた。


「……ほんと、逞しいな」


小さく笑って。


「俺のお姫様は」


その呼び方に、胸が少しくすぐったくなる。でも――守られるだけのお姫様じゃない。そう思いながら、私は彼の視線をまっすぐ受け止めた。

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