王子の苦悩 1
ディラン side
俺が城を離れていた、たったその隙に――事態は最悪の形で転がっていた。
ティアナに差し向けられた刺客。ガーデンに現れた魔宝獣。
それを、ティアナとテオの二人だけで押しとどめたという。
そして、その元凶がジョルジュ陛下だと。
……認めたくなくても、事実だ。くそ。
ティアナが無事だったことに胸を撫で下ろす気持ちはある。
だが、それ以上に――どうしようもなく黒い怒りが、胸の底からせり上がってくる。
俺がいない間に、彼女は命を狙われた。
俺が守るべき人間が、俺の知らないところで戦わされていた。
城へ戻った頃には、王妃教育はすでに中止されていた。
ティアナも、もう帰還しているらしい。
――俺のいない場所で。俺の知らないところで。
その事実が、何よりも俺を苛立たせた。
◇
「ジョルジュ陛下……話があります」
迷いなど一片もなく、俺は祖父の私室へ踏み込んだ。
「なんだ、ディラン。ずいぶん早く戻ったな」
相変わらずのんびりとした声。まるで、城で何も起きなかったかのように。
「……ティアナを危険に晒しましたね」
視線を逸らさず、真正面から睨みつける。
「危険?まさか」
陛下は肩をすくめ、軽く笑った。
「彼女が、自分で対処してくれただけだ」
「――そう仕向けたのは、あなたでしょう!」
喉の奥から、氷のように冷たい声が漏れた。
「うむ。しかし、あの力……実に見事だった」
「彼女を国のための道具にするつもりなら、やめてください」
一歩も退かず、言葉を叩きつける。
「ふむ」
祖父は、じっと俺を見据えた。
「……そこまで、彼女が大切か」
「当たり前です」
迷いなど、最初からなかった。
「……わかった」
陛下は小さく息を吐いた。
「ただ、あの娘は嗅ぎ回りすぎる。大切に思うなら――お前がきちんと囲っておけ」
そう言って、緩く笑う。……この人は。
「わかりました」
俺は一礼すらしなかった。
「彼女に、これ以上何かするなら――」
視線を逸らさず、静かに言い切る。
「私は、あなたを許しません」
王に向けるべき言葉ではない。それでも、引く気はなかった。そうして俺は踵を返し、部屋を後にした。
ジョルジュ side
――いや、いい。
実に……よい。
ティアナ・ラピスラズリ。
あの娘の力は、私の予想など軽々と超えてきた。
共鳴。
あれほどの力、喉から手が出るほど欲しい。
国のためではない。私のために、だ。
そしてディラン。
あの子が、あそこまで露骨に感情を荒らげるとはな。
ふふ……可愛いものだ。
反発? 構わん。
むしろ、あれくらいの方が扱いやすい。
計画に支障などない。すべては、私の掌の上。
いや――むしろ、ますます楽しみになってきた。
長年追い続けてきた夢。
この国の形を、私の望むままに作り替えるという夢。
そのために必要なものは、すべて揃いつつある。
多少の犠牲? 当然だろう。
大義の前に、個の命など軽い。
さあ――
もう少しだ。
私の“理想”が、ようやく現実になる。




