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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

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王子の苦悩 1

ディラン side


俺が城を離れていた、たったその隙に――事態は最悪の形で転がっていた。

ティアナに差し向けられた刺客。ガーデンに現れた魔宝獣。

それを、ティアナとテオの二人だけで押しとどめたという。

そして、その元凶がジョルジュ陛下だと。

……認めたくなくても、事実だ。くそ。

ティアナが無事だったことに胸を撫で下ろす気持ちはある。

だが、それ以上に――どうしようもなく黒い怒りが、胸の底からせり上がってくる。


俺がいない間に、彼女は命を狙われた。

俺が守るべき人間が、俺の知らないところで戦わされていた。

城へ戻った頃には、王妃教育はすでに中止されていた。

ティアナも、もう帰還しているらしい。

――俺のいない場所で。俺の知らないところで。

その事実が、何よりも俺を苛立たせた。



「ジョルジュ陛下……話があります」


迷いなど一片もなく、俺は祖父の私室へ踏み込んだ。


「なんだ、ディラン。ずいぶん早く戻ったな」


相変わらずのんびりとした声。まるで、城で何も起きなかったかのように。


「……ティアナを危険に晒しましたね」


視線を逸らさず、真正面から睨みつける。


「危険?まさか」


陛下は肩をすくめ、軽く笑った。


「彼女が、自分で対処してくれただけだ」


「――そう仕向けたのは、あなたでしょう!」


喉の奥から、氷のように冷たい声が漏れた。


「うむ。しかし、あの力……実に見事だった」


「彼女を国のための道具にするつもりなら、やめてください」


一歩も退かず、言葉を叩きつける。


「ふむ」


祖父は、じっと俺を見据えた。


「……そこまで、彼女が大切か」


「当たり前です」


迷いなど、最初からなかった。


「……わかった」


陛下は小さく息を吐いた。


「ただ、あの娘は嗅ぎ回りすぎる。大切に思うなら――お前がきちんと囲っておけ」


そう言って、緩く笑う。……この人は。


「わかりました」


俺は一礼すらしなかった。


「彼女に、これ以上何かするなら――」


視線を逸らさず、静かに言い切る。


「私は、あなたを許しません」


王に向けるべき言葉ではない。それでも、引く気はなかった。そうして俺は踵を返し、部屋を後にした。



ジョルジュ side


――いや、いい。

実に……よい。


ティアナ・ラピスラズリ。

あの娘の力は、私の予想など軽々と超えてきた。


共鳴。

あれほどの力、喉から手が出るほど欲しい。

国のためではない。私のために、だ。

そしてディラン。

あの子が、あそこまで露骨に感情を荒らげるとはな。

ふふ……可愛いものだ。

反発? 構わん。

むしろ、あれくらいの方が扱いやすい。

計画に支障などない。すべては、私の掌の上。

いや――むしろ、ますます楽しみになってきた。

長年追い続けてきた夢。

この国の形を、私の望むままに作り替えるという夢。

そのために必要なものは、すべて揃いつつある。

多少の犠牲? 当然だろう。

大義の前に、個の命など軽い。


さあ――

もう少しだ。

私の“理想”が、ようやく現実になる。

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