↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
303/354

帰還と甘え 3

セナとの会話が、ふいに胸の奥でよみがえった。

――わかってる。ちゃんとディランと話をしなきゃ。

このままじゃ、前に進めない。頭では理解しているのに、心が追いつかない。考えれば考えるほど胸が重くなっていく。


「はああ……」


深く息を吐くと、夜の静けさが、余計に不安を大きくする。

向き合わなきゃいけないのに、どうすればいい。

セナの言葉は正しい。でも、正しいからこそ胸に刺さる。

そんな沈んだ空気の中――


「お嬢さーん!!」


廊下の向こうから弾む声が響き、次の瞬間、レオが勢いよく扉を押し開けて入ってきた。

コーラルオレンジの髪が揺れ、陽だまりみたいな笑顔が部屋を一気に明るくする。


「レオ、どうしたの?」


椅子から身を起こすと、レオは胸を張って言った。


「お嬢さん、王妃教育お疲れ様でした!」


じゃじゃーん、と口で効果音をつけながら、

彼は私の目の前のテーブルに大きなワンプレートをそっと置いた。甘い香りがふわりと広がる。

ガトーショコラの濃厚なチョコの香り。

つやつやと揺れるカスタードプリン。

真っ白な生クリームがふわりとのったショートケーキ。

そして、冷気をまとったアイスクリームがきらりと光る。


「レオすごい!私の好きなものばっかりだよ!!」


思わず声が弾んだ。胸の奥が一気にほどけていく。


「お嬢さん、いっぱい頑張ってきたでしょ?

だからご褒美だよ!」


レオはいつものようにニコニコと笑う。

その笑顔を見るだけで、張りつめていた心がゆるんでいく。


「嬉しい…ありがとう!」


「ほらほら、食べて食べて!

紅茶もどうぞ」


湯気の立つカップを差し出され、私は両手でそっと受け取る。


「いただきます!」


「どうぞどうぞ!」


ひと口飲むと、やさしい甘さと爽やかな香りが口いっぱいに広がった。


「んー…おいしい。」


胸の奥がじんわり温かくなる。


「ありがとう、レオ。ずっとレオの料理が恋しかったんだよ」


そう言うと、レオは鼻の頭をかきながら、得意げに笑った。


「それは良かった! なんせ俺はお嬢さんの専属料理人ですからね!」


へへん、と胸を張る姿が可笑しくて、思わず笑ってしまう。


「これからまた大変なことになりそうですけど…

でも今は甘いものを食べて、自分を労ってください」


その言葉は、甘いデザートよりもずっと心に沁みた。


「レオ…ありがとう」


「はいっ!」


レオは満面の笑みを浮かべた。その笑顔に、悩みがすっと溶けていく気がした。レオは、私が最後の一口を飲み込むまで、ずっとニコニコと見守っていた。


「ご馳走様でした」


「お粗末様でした!」


レオは満足そうに胸を張る。その明るさに、沈んでいた心が少しだけ軽くなる。ふと、胸の奥に引っかかっていた言葉がこぼれた。


「ねぇ、レオはさ……」


「はい?」


「ケンカしたときって、どうやって仲直りする?」


自分でも驚くほど自然に出た問いだった。

レオは一瞬きょとんとしたあと、ぱっと表情を明るくする。


「殿下とですよね!」


直球すぎて、思わず目をそらす。


「うーん……俺は、自分が悪くないなら謝らないですね!」


「そう」


「でも、自分に非があるんなら謝ります!

ちゃんと正面から聞きます!」


「さすがレオだなぁ」


思わず笑ってしまう。本当に、真っ直ぐすぎる。


「相手が何を思ってるかって、わからないじゃないですか。

だから俺だったらストレートに聞いちゃいますね。

俺、腹の探り合いとか苦手だから」


「そっか……見習いたい」


そう言うと、レオがぱちりと目を丸くした。


「お嬢さんにそう言われるの、嬉しいですね!」


「え?」


「お嬢さんはさ、いつも前を向いてて、なんでもこなしちゃうから。

俺が力になれることなんて、たいしてないんじゃないかって思うことがあります」


「そんなことないよ」


即座に否定した。本当に、そんなことはない。私は何度もレオの太陽みたいな明るさに支えてもらっている。レオは照れくさそうに笑い、でも真剣な目で続けた。


「だから、俺……お嬢さんの荷物が少しでも減るように、いっぱい持ちます。

だから、頼ってください」


その言葉は、甘いデザートよりもずっと深く、じんわりと胸に染み込んでいった。


「ありがとう」


「あとは、お嬢さんの素直な気持ちを伝えればいいんですよ。殿下なら、ちゃんと聞いて仲直りできますよ」


「そうかな……」


不安が少しだけ顔をのぞかせると、レオは即答した。


「はい!

あの人、お嬢さんのこと大好きですもんね!」


「……」


思わず視線が泳ぐ。そんな私を見て、レオはぱっと笑顔を咲かせた。


「あ、でもでも!

俺もお嬢さんこと大好きですからね!

そこは覚えておいてください!」


恥ずかしげもなく言い切るレオに、頬が一気に熱くなる。


「……もう、レオは本当に……」


照れ隠しの言葉が喉まで出かかったけれど、

その明るさに救われている自分がいることも、ちゃんと分かっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。