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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第五部

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帰還と甘え 1

王妃教育――

あれは、ただの教育の場なんかじゃなかった。選ばれるためでもない。試される場だった。

そして、ジョルジュ陛下がディランへ向けたあの瞳。あれは……“器”として見定める目。以前私に向けられた視線と、まったく同じだった。

――そして私は、帰ってきた。みんなのもとへ。


「お嬢さーん……おっかえりー!!」


コーラルオレンジの髪を揺らしたレオが大きな手をぶんぶんと振る。


「ただいま」


その一言だけなのに、胸の奥がふっと緩んだ。


「お嬢様、おかえりなさい」


銀髪に水色の瞳のセナが、いつもより少し柔らかい笑みを向けてくれる。

――帰ってきた。


「お嬢様。ご苦労様でした。大変でしたね」


薄栗色の髪と灰色の瞳のユウリも変わらぬ美しい所作で一礼した。


「ええ……色々と」


短く返すと、自然と息が深くなる。


「とりあえず――みんな、集まって」


私は皆を呼び集めた。


ユウリ、セナ、テオ、レオ、ルイ。アレン、ロベルト、アリス。そしてルーク団長、オリバー副団長、エリックまで揃ってくれた。

これだけの顔ぶれが一堂に会するのは、本当に久しぶりだ。

――深く息を吸う。


「聞いてほしいことがある」


その言葉に、自然と視線が集まった。


第5部、開幕。



まず、ディランに向けられていた陛下の視線について話した。それが、かつてガイルが私に向けたものと同じだったこと。

人としてではなく、ただの“器”として値踏みする目。

その瞬間、場の空気がぴんと張りつめたのがわかった。

続けて、陛下との試験のことを話す。

宝石の選定試験――そしてそれが、私に“黒い靄が見えているか”を確かめるためのものだったこと。


「それから……」


私は、ほんの一瞬だけ言葉を選んだ。


「魔宝石との共鳴の確認があった」


透明な宝石。触れた途端、私の魔力を吸い取ろうとした、あの不快な感覚。思い出しただけで、背筋に冷たいものが走る。

そして、ローザとスーザのこと。さらに、陛下が差し向けた刺客の存在についても話した。場の空気が、いっそう重く沈む。

最後に、魔宝獣に襲われた件。そして、その場で――力を使ったこと。

沈黙が落ちる。


「……共鳴を使ったんですね」


セナが、ぽつりと呟いた。


「ええ」


私は、はっきりと頷く。


「陛下は、それを確かめようとしていた。

 だから――あえて、魅せたの」


視線をそらさず、続ける。


「ここで見せなければ、きっとまた別の形で、誰かが巻き込まれる」


胸の奥が、ひどく痛んだ。


「……それは、だめよ」


静かだが揺るぎない声だった。

相手は王国の頂点。一歩間違えれば――全員が危険に晒される。それでも、私ひとりでは抗えない。


「……力を貸してくれる人は、いる?」


そう言って、皆の顔を見渡した。


「そんなの、当たり前でしょ。お嬢様」


「もちろんよ!」


「俺も、やります!!」


テオ、ルイ、レオが次々に声を上げ、ロベルトとアレン、アリスも迷いなく頷いた。


「私も、協力させてもらうよ」


緑の髪をゆるりと指に絡めながら、ルーク団長が穏やかに言う。


「当然です」


オリバー副団長も、即座に続いた。


「皆さんがやるなら……私もやります」


最後に、エリックが名乗りを上げる。その場に、迷いはひとつもなかった。


「なるほど。それで、この後はどう動きますか?」


セナが当然のようにこちらを見る。――すでに指示を待つ体勢だ。


「王国創立記念式典があるのは、知ってる?」


その言葉に、皆が一瞬だけ顔を見合わせた。


「騎士団からも参加者が出ますよね。まだ誰が行くかは決まっていませんが」


アレンが答え、ロベルトも短く頷く。


「王国創立記念式典は、人の出入りが非常に多い」


私は静かに言葉を選んだ。


「その混乱に紛れて――」


一拍置いて、告げる。


「潜入する」


「……潜入、ですか」


ユウリが低く呟いた。


「うん。正直に言うと、怪しい部屋はいくつか見つけられたわ。アリスの協力でね」


アリスが控えめに頷く。


「でも、実際に侵入するとなると……協力者が必須なの」


「それは、そうですね」


オリバー副団長も静かに同意した。


「なら、ディラン殿下がいるじゃん!」


レオが明るく言うが、私はゆっくりと首を振る。


「正直に言うと……ディランには、確実な証拠が出るまで伏せておきたい」


「ど、どうしてですか?」


レオが目を見開いた。


「ジョルジュ陛下は、ディランの祖父よ。……家族なの」


そこで一度、言葉を切った。


「証拠もないまま疑って、不安にさせたくない」


短いけれど、揺るぎない本音だった。


「……まあ、わかるけどさ」


レオが、少し不満そうに口を尖らせる。しばらく沈黙が流れる。


「もしかして……」


セナが一歩踏み出し、真っ直ぐにこちらを見る。


「面と向かって話せない理由でも、ありますか?」


逃げ場のない視線。さすが…鋭い。

その問いに、アリス、ルイ、そして――なぜかテオまでが、同時に視線を逸らした。


「……ちょっと、喧嘩中」


観念してそう言った。


「え!? 喧嘩ですか!? だめですよー、仲直りしなくちゃ!」


レオが勢いよく食いつく。


「まあまあ、レオちゃん。落ち着いて」


ルイが肩を軽く叩いてなだめる。


「そうです。むしろ、このまま婚約破棄でもいいと思います」


アリスがさらりと言い放つ。


「それ名案。あいつが悪い」


誰かが続け、場が一気に騒がしくなる。――わちゃわちゃし始めた。


「と、とにかく!」


私は慌てて声を張った。


「潜入するために、計画つめさせて!」


その一言で、場の空気がようやく落ち着きを取り戻した。

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