刺客 2
「……聞きたいことがある」
私がそう告げると、テオは一度だけ瞬きをした。
「じゃあ、とりあえず拘束するね」
淡々とした声。そのまま剣を構え、低く呟く。
「紅く鋭く――縛れ。スピネル」
テオの剣から紅い魔力が噴き出し、生き物のようにうねりながら刺客へ絡みついた。逃げ道を塞ぐように、ぎり、と締まる。
「少しでも動いたら、殺すから」
静かで、冷たい声。だからこそ、重く響く。
「は、はい……!」
男は震えながら頷いた。
「それで。誰が、こんなことを?」
沈黙。
刺客は唇を噛み、視線を逸らす。
「言わないなら、もういいよね」
紅い拘束が、さらに締まった。
「い、言います! 言いますからっ!」
悲鳴のような声が庭に響く。
「スーザ嬢です……!」
「……そう」
ローゼの取り巻きか…
きっとローゼも絡んでいるのだろう。
私は小さく息を吐いた。
その瞬間、テオが何の迷いもなく言った。
「そいつさ、ローゼってやつの取り巻きだよね
お嬢さまに嫌がらせしてた」
「みんな殺すか…」
空気が凍りつく。
「待って、テオ」
私はすぐに制した。
「殺す気は、最初からなかったはずよね。
脅して、辞退させるつもりだったんでしょう?」
「……それは……」
刺客は視線を泳がせ、しぶしぶ口を開く。
「婚約者候補から辞退するって条件を飲めば……
殺さないつもりでした……」
「そう」
答えは十分だった。だが、男は震えながら、ぽつりと呟いた。
「でも……なんで伯爵家のお嬢様が……
こんな暗殺者みたいな男を連れ歩いてるんだよ……」
その一言で、空気が変わった。
「……失礼だな。こいつ」
テオの声が、氷点下まで落ちる。紅い魔力が、ぎり、とさらに強く締め上げた。
「テオ」
私は名前を呼んだ。
「……はーい」
不満げに返事をしながらも、魔力の締め付けを緩める。
――本当に、危なっかしい。
でも。この人が私の味方でよかったと、今だけは心の底から思ってしまった。
「それで、どうするの? こいつ」
テオが、興味を失ったように淡々と呟く。
その声音には、もはや“人間”への期待が一切ない。
「もう、用はなくない?」
「ま、待ってくれ! まだある!」
刺客の男は、縋るように叫んだ。テオがゆっくりと視線を向ける。その一瞬で、男の喉がひゅっと鳴った。
「……なに?」
冷たい問い。それだけで、男の顔色がさらに青ざめる。
「でも、これを言ったら見逃してくれ!
もう二度と、お前らには近づかない! 約束だ!」
沈黙が落ちる。
風すら止まったような、重い沈黙。
「……ふーん」
テオは、ほんの少しだけ首を傾げた。
考えているというより――“遊んでいる”ような仕草。
「とりあえず、聞こうかな」
私が口を開くと、
「お嬢様がそう言うなら」
テオがゆるりと笑う。だが紅い拘束は解かれない。
男はそのまま、必死に息を整えた。
「……あんたを狙ったのは、その令嬢だけじゃない」
胸の奥が、わずかに沈む。嫌な予感が、形を持ち始める。
「もう一人……
あんたを“大人しくさせろ”って依頼してきた人物がいる」
「へえ」
私は短く返し、続きを促した。男は観念したように目を伏せる。
「あんた……
ジョルジュ陛下に、目をつけられてる」
空気が、ひやりと冷えた。
――やはり。
胸の奥で、静かに何かが噛み合う。
これは、ただの脅しではない。“警告”だ。
これ以上余計なことをするな。
王妃教育だけを受けていろ。
余計な動きを見せるなと。
……なるほど。
そういう段階に、入ったというわけね。




