嫉妬 4
ティアナside
私がアラン殿下に会った途端、ディランはすこぶる機嫌を悪くして帰っていった。
……なによ。『そばにいるのが、辛い』
そう言われたけれど、意味が分からない。むしろ、こちらが聞きたいくらいだ。
「お嬢様……」
「ティアナちゃん……」
気がつくと、目の前にはアリスとルイがいた。
少し相談したいことがあって、ルイにも来てもらったのだが。
二人は顔を見合わせ――そして、ほぼ同時に口を開いた。
「それは、嫉妬です」
「嫉妬よ」
「……え?」
思わず間の抜けた声が出る。
「ちょっと、よく考えてみなさいよー」
ルイが肩をすくめながら続けた。
「アラン殿下ってね、めちゃくちゃ優秀なのよ」
「そうですよ、お嬢様」
アリスも頷く。
「確か、母方のご親戚の家系で実務を学ばれていて……財政の立て直し、采配、人の使い方。どれも非常に的確だと聞いています」
「ディラン殿下ももちろん優秀だけどね」
ルイは少し声を落とし、
「でも、あの“瞳の色”がなかったら……間違いなく、次期国王はアラン殿下よ」
……え。
胸の奥で、何かが小さく音を立てた。
――あの人、そんなにすごい人だったの?
ただのブラコンではなかったのね。王位争いの中心に立つ存在ということか。
アラン殿下の穏やかな笑顔が、ふと脳裏に浮かぶ。
その裏に、そんな重い立場があったなんて。
そして――そんな兄と自分が並んで歩いていたことを、ディランは見た。
(……だから、あんな顔をしたの?)
胸の奥が、じわりと熱くなる。
「そんなハイスペックな兄がよ? ティアナちゃんとイチャイチャしてみなさいよ! そりゃもう、気が気じゃないでしょうよ!」
「……イチャイチャは、してないけど」
思わず即座に否定してしまう。
「とにかく、今回は王子様の気持ちも分かるわよ」
ルイが肩をすくめる。
「じゃあ……私は、どうすれば……?」
口に出した瞬間、余計に分からなくなった。正解なんて、まったく浮かばない。
「そんなの簡単よ。ティアナちゃんから、ぎゅーってしたり、ちゅーってすればいいの」
「……いや、全然簡単じゃない」
即答だった。
「まあね。王子も少し大人気なかったし。でも、ティアナちゃんのこと、本当に大切に思ってるわよ?」
「はい。そこは私も認めております」
アリスも静かに頷く。
「……わかってる。わかってるけど……」
言葉が続かない。
嫉妬なんて、考えたこともなかった。
あの人がそんな感情を抱くなんて、想像すらしていなかった。
でもあの時の顔……
胸の奥が、また小さく疼く。
怒っていたわけでもない。責めるようでもない。
ただ、苦しそうで。触れたら壊れてしまいそうで。
「……辛いって、どういう意味なんだろう」
ぽつりと漏らした言葉に、アリスとルイは顔を見合わせ、優しく微笑んだ。
「それはね、ティアナちゃんが一番よく知ってるはずよ」
ルイがウィンクする。
「……え?」
「殿下の“辛さ”は、お嬢様に関わることです。お嬢様がどうしたいかで、きっと変わります」
アリスの声は穏やかだった。
胸の奥がざわつく。わからない。でも、このままわからないままではいられない。
「ありがとうね、二人とも」
「ええ」
「はい」
二人が揃って頷く。
「じゃあ、ルイ。あの件、お願いね。忙しいところ悪いけど」
「いいのよ! 楽しそうだし、まっかせなさーい!
…じゃあね。王子様と、ちゃーんと話すのよ」
ひらりと手を振り、ルイは軽やかに去っていった。
ちゃんと話す…その言葉が、静かに胸に落ちる。




