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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響
第四部

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アリスとお嬢様 1

アリスside


お嬢様の勘は、よく当たる。

これまで何度も見てきた。嫌な予感が、ただの思い過ごしで終わったことは一度もない。

——今回も、きっとそうだ。

ジョルジュ陛下が何かを企んでいる。それは、もはや疑いではない。お嬢様に危険が及ぶことなど、決して許されない。

ならば、私がすべきことは一つ。

侍女として。影として。この城の中を、探る。

陛下が、何を“集めてきたのか”。——何を、どれほどの年月、隠してきたのか。それを暴く。

お嬢様が檻に閉じ込められる前に。私は、静かに息を整えた。

今は執事のユウリもいない。お嬢様を守れるのは…私だ。


アリス、15歳。

ティアナ、12歳。


あの頃の私は、すでに「選ばれる」ということの重さを知っていた。私には兄が2人いる。父は王国騎士団の人間で、兄たちも当然のように試験を受けた。

魔宝石適正判定。——だが、2人とも通らなかった。

透明なまま、何の色も宿らず、何の力も与えられなかった。

父は、露骨に落胆していた。

「仕方ない」と口では言いながら、その背中は、明らかに失望していた。

母は、柔らかく笑って言った。「そんなこともあるわ」その言葉に、兄たちは、どこか救われたような顔をしていた。


そして私は。王国の侍女になるための試験を、半ば当然のように受けさせられた。

——ついでに。

「試しに」と、魔宝石適正判定も受けさせられた。

まさか、とは思った。だが。その宝石は、ゆっくりと光を帯びた。ムーンストーン。淡く、静かな月の色。

父は、はっきりと喜んだ。誇らしげに。まるで、待ち望んでいたかのように。

けれど。母は、笑わなかった。兄たちも、目を伏せたままだった。その時、私は初めて知った。

——選ばれることは、必ずしも祝福ではないのだと。

誰かの期待であり、

誰かの失望であり、

誰かの居場所を奪うことでもあるのだと。


父は、私を侍女ではなく、騎士に仕立てあげようとしていた。ムーンストーンの適性を得たのだから、当然だと言わんばかりに。——けれど。私は、嫌だった。剣を振ることはできる。訓練にも、ついていけた。

けれど、それを「望んだ」ことは、一度もない。私の手は、

誰かを傷つけるためのものではない。

そう思いながらも、逆らう術はなかった。そんな頃だ。


「こんにちは」


不意にかけられた、幼い声。振り向くと、そこにいたのは小さな少女だった。柔らかなスミレ色と桃色の髪、澄んだ蒼い瞳。

まだ子どもなのに、不思議とこちらを“見ている”目。


「ねぇ、私の侍女にならない?」


あまりにも自然に、そう言われて、言葉を失った。


「……なぜ、侍女、なのですか?」


戸惑いながら、そう返す。


「私は今、剣を持っていますし……」


すると少女は、少しだけ首を傾げた。


「え?」


次の瞬間、何気ない調子で言う。


「だって、服のしわが綺麗に伸びてるでしょ」


視線が、私の袖口に落ちる。


「髪も、ちゃんと手入れされてる」


「それに……」


私の手を、じっと見つめて。


「手荒れ、してるね」


——心臓が、跳ねた。


「剣を持つ手って感じじゃない」


静かな断定。


「誰かの世話をする人の手」


一瞬、言葉が詰まる。


「……失礼、だったかな?」


そう言って、少女は少しだけ困ったように笑った。

その笑顔を見た瞬間。胸の奥で、何かが、はっきりとほどけた。

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