パーティーは波乱5
ティアナside
ニーナと殿下を追いかけてきたが、個室に入ると中から鍵を閉められてしまった。
これでは中の様子がまったくわからない。
隣の部屋がたまたま空いていたので、そこに入る。
ベランダに出て隣を確認する。多少距離はあるが、このくらいなら飛び移れるかもしれない。
ただし、ヒールでは危険だ。
そっとヒールを脱ぎ、隣のベランダに投げ込む。
「コトン」と小さな音がしたが、中からは気づかれていないようだ。
覚悟を決め、ベランダに足をかける。ドレスを巻き込まないよう少したくし上げる。
「よいしょっ」
跳んで隣に飛び移る。
転がっていたヒールを素早く履き直し、カーテンの陰に身を隠す。
幸い、中の鍵はかかっていない。
カーテンの隙間から、そっと中の様子を覗き見る。
紅茶に何か仕込んでいるのが、私にははっきりと見えた。
殿下の方からは見えてない?気づいていない様子だ。
ニーナが殿下に紅茶を差し出す。殿下はそれを受け取ろうとした瞬間、私は心臓が跳ねる。
「殿下、飲んではいけません!」
ベランダから登場した私に、ニーナは悲鳴をあげた。
だが、殿下は驚く様子もなく、涼しい顔をしている。
「うん、飲まないよ」
――サラッと言われてしまった。
思わず、出てこなくてもよかったのでは、と頭をかすめる。
「え!飲まないのですか?」
ニーナが大きな声を上げる。
「だって、これ毒でしょ?」
殿下が紅茶のカップを揺らしながら、冷たい視線をニーナに向ける。
「いえ、毒ではないです」
気まずそうに目線をそらす。
確かに、殿下のことを慕うニーナが毒を入れるはずはない。
しかし、私はこの一瞬の緊張を逃さず、心の中で静かに息を整えた。
殿下は自分の内ポケットから銀製のナイフを取り出す。
それを紅茶につけると、みるみると黒く変色する。
「これはヒ素ですね」
「そう、間違いなく毒だ」
そう言って私たちはニーナに目を向ける。
「ち、違います!!これは毒ではないです。私は殿下のこと愛してますのよ」
「じゃあなんだっていうだ?」
ジロリとニーナを睨む殿下。
「これは、媚薬です。気になる殿方に使うといいとある商人から買ったものです!」
「もういい」
冷たい声で殿下が告げた瞬間に、外で控えていたのか騎士団がゾロゾロと入ってきた。
すると突然、ニーナが大きな声を上げて暴れだした。
「いやああああ!!!殿下は私のものよ!!」
その手にしていた宝石から、黒いモヤがほのかに立ち上り、空気が重く揺れた。
「な、何……?」
思わず息を呑む。宝石から出る黒いモヤは、室内の空気をねっとりと包み込み、まるで生きているかのようにうごめいている。
黒いモヤが室内を渦巻く中、ニーナは暴れ続けている。
その宝石から放たれる黒い気配は、見るからに異常で、触れるだけで冷たい圧力が心臓に響く。
入ってきた騎士団達もどう動けばいいか戸惑っている状況だ。
さすがにこの人数の中で浄化の力を使うのは目立ちすぎる…
だけど殿下に何かあっては元も子もない。
覚悟を決め、ドレスの裾に隠していた短剣を触ろうとしたところ。
「ティアナ嬢 下がってください」
静かな声。だが、その中に隠された威圧感は、暴れるニーナを一瞬で止めるほどの力を持っていた。
ニーナは宝石を握りしめ、震える手で何度も声をあげる。
黒いモヤはますます濃く、部屋の空気がどよめく。
殿下は腰から剣を抜く。
「我が剣に応えよ アレキサンドライト!」
冷たい空気に包まれた室内で、剣の先が金色に光る。
その鋭い剣が宝石に向かう。
ニーナはまだ膝をついたまま、恐怖で顔を覆っている。
黒いモヤが揺れ、宝石が微かに光を反射する。
剣が宝石を捉えた瞬間、あっという間に黒いモヤが一気に弾けるように消えた。
鋭い音とともに宝石は砕け散り、小さな破片と光が床に散る。
さすが殿下だ…私の癒す 浄化とは違う。
圧倒的強さを持つ光の剣。
殿下は静かに剣を納め、私のほうに向き直る。
「もう安心だ。危険はない」
その穏やかで確信に満ちた声に、自然と肩の力が抜けた。
ニーナはまだ震えているが、黒いモヤは完全に消え、宝石の破片だけが残る。
「……殿下、本当に……」
ニーナが口を開く。
殿下はわずかに微笑むだけで、余計な言葉はなかった。
その冷静さと圧倒的な力に、改めて目が離せなくなる。
王国騎士団がニーナを連れて部屋から出ていった。




