幕間 珠吉のひとりごと
あいも変わらず、人間というのは愚かな生き物だ。
いきなりどうしたかって?
そんなの聞くだけ野暮だとは思わないのか?
⋯⋯まあ、聞かれたならば答えてやる。
なんてったって、我は偉大なる猫又の珠吉様だからな! 寛大な心を持っておるのだ。
とまあ、そんな茶番は置いておいて。
我がこんなことを考えるようになった理由だが。
すでに気づいているだろう。あの二人の若造達だ。
毎日毎日決まった時間に見せに来たかと思えば、その度に「珠吉は今日もふわふわだねぇ」だの、「わあっ! 伸びた!」だの我を弄んでくる。
痛いことをしてくるわけではないし、実際乱暴をされているわけでもないから抵抗するにもできないのが現状なのが悩みどころではある。
だが!!
我は断じて、構われて嬉しいなどと思っているわけではない!
思っていないからな!
『たまきち、たまきちっ』
夢幻喫茶という、時空の狭間にあるこの喫茶店には実に様々なお客がやって来る。
我は看板猫であるから客ではないのだが、ただ一人、お客とも従業員とも呼べない存在がいる。
それが、カウンターの上で丸くなる我を必死に見上げている、座敷童子のとこよだ。
『ねてる?』
『⋯⋯起きてる』
『っ!』
我が起きているだけで何をそんなに喜ぶ必要があるのか。
とこよはぱあっと顔を輝かせると、椅子をよじ登り、身を乗り出して我が毛並みに手を伸ばしてきた。短く小さな手だ。撫でるというよりは、ペタペタと遠慮なく触ってくる。
『たまきち、けがほわほわ。あったかい』
『当たり前だ。我をそこらの野良猫と一緒にするな。毛並みの手入れには余念がないのだからな』
ふふん、と鼻を鳴らして見せると、とこよは『おー』と感心したように小さな手をぽんと叩いた。
この座敷童子は、店に福をもたらすありがたい存在……の仕様になっているらしいが、我からしてみれば好奇心旺盛な暇人にすぎん。店が静かな時間帯になると、決まって我のところへやって来ては、こうしてちょっかいを出してくるのだ。
『たまきち、あそぼ』
『断る。我は今、日当たりの良いカウンターで高尚な思索に耽っている最中なのだ』
『しさく?』
『簡単に言えば昼寝だ』
『じゃあ、おあずけ』
言うが早いか、とこよは我の目の前に小さな何かをぽん、と置いた。
見れば、何処から持ってきたのか、丸められた色とりどりの折り紙だ。
『これ、ころころして』
『……子供騙しも大概にしろ。我を普通の猫のように、丸いものを転がせば喜ぶ単純な生き物だと思っているのか?』
呆れて目を逸らす。付き合ってられん。
我は幾年月を生き抜いてきた偉大なる猫又だぞ。紙屑ひとつに惑わされるような浅はかな精神など持ち合わせて——。
(ころ……)
とこよが指先でちょんと突き、紙ボールがカウンターの上を滑った。
(ピクッ)
……い、いや、動いたからと言って目線が勝手に追ってしまったのは不可抗力だ。猫の本能という奴で、我の崇高な意思とは無関係である。
『たまきち、めがうごいた』
『動いておらん! 気のせいだ!』
『えーいっ』
(ころころころ……)
『……ッ!』
くっ……! 何故だ、あの不規則な転がり方は! 絶妙に狩猟本能を擽る角度で転がるのではない!
我が葛藤していると、厨房の奥からマスターが楽しそうな声をかけてきた。
「珠吉、あまりとこよさんを焦らしてあげないでくださいね。せっかく遊んでくれようとしているのですから」
『黙れマスター! 我は焦らしてなどおらん! そもそも遊んでもらっているのは我ではなく——』
『えーいっ!』
(コロコロッ)
あ。
紙ボールがカウンターの端へ転がり、そのまま床へと落ちていく。
(前脚が……勝手に……!)
パシッ!
気づいた時には、我はカウンターから身を乗り出し、見事な素早さで落下の途中にあった紙ボールを空中キャッチしていた。
『……』
『……っ!』
静まり返る店内で、我が床に着地する足音が嫌になるほど響いた。
我が前脚の中に収まる、色鮮やかな紙ボール。
とこよは目を丸くした後、本日一番の輝かしい笑顔を弾けさせた。
『たまきち、すごい。パシッてつかまえた、すごい』
「おお、流石は珠吉。見事な着地とキャッチですね」
……やってしまった。
完全に、完璧に、本能に敗北した。
『もっかい、もっかいやって』
目をキラキラと輝かせ、楽しそうにぴょんぴょんはねる座敷童子。
……はぁ。
まったく、これだから人間も妖怪も、子供という奴は世話が焼けるのだ。偉大なる我の威厳も形無しではないか。
『今回だけだぞ。次は絶対に追わんからな』
ぶつぶつと文句を言いながらも、我は咥えた紙ボールをとこよの足元へぽんと戻してやった。
まったく、夢幻喫茶の日常というのは、我が威厳を脅かす誘惑に満ち溢れていて実に困りものである。
『それっ!』
(ころころころ……)
『……』
(ぱしっ)
『わぁっ! またとった。 たまきちすごいっ』
……何故我は、こうも素直に前脚を動かしてしまうのか。
自分の身体に宿る猫の本能というものが、心底恨めしい。
とこよは満面の笑みでパチパチと小さな手を叩いている。
その無邪気な姿を見ていると、「もうやめだ」と突き放すのも何だか気が引けてしまい、結局我は、何度も転がされる折り紙のボールを、虚無の目をしながら打ち返し続ける羽目になっていた。
「ふふ、仲が良いですね」
カウンターの向こう側で、マスターが楽しそうにコーヒー豆を挽く音を響かせている。香ばしい良い香りが店内に満ちていく。
『仲良くなどしておらん! 我はただ、この座敷童子のしつこさに付き合ってやっているだけだ!』
「はいはい。珠吉は本当に面倒見が良いですね」
『言葉の裏を返せば余計なお世話だと言っておるのだ!』
キーキーと抗議の声を上げる我を余所に、マスターは「そろそろお客様がみえる時間ですね」と、手元のおしぼりを整え始めた。
カランカラン――。
タイミングを合わせたかのように、店の扉が開いた。
入ってきたのは、見慣れた制服姿の二人組。夢月と八雲だ。
「こんにちはー!」
「おいでませ、夢幻喫茶へ。夢月さんに拓さん」
夢月の明るい声と、八雲の相変わらず少し気だるげな声が店内に響く。
夢月は店内に入るやいなや、カウンターの上にいる我と、その隣で折り紙を持って構えているとこよの姿を目に留めた。
「あっ! とこよちゃん、それに珠吉も」
『む、お前達か』
夢月はパァッと顔を輝かせると、鞄を置くのも忘れて一直線にカウンターへと駆け寄ってきた。
「なになに? 珠吉ととこよちゃん、遊んでたの? 可愛いことしてるね」
『あ遊んでなどおらん! これは……その、鍛錬だ! 反射神経のな!』
「はいはい、分かった。珠吉は偉いねぇ」
言いながら、夢月の手が迷いなく我の頭へと伸びてくる。
耳の後ろの、一番気持ちの良いところを、巧みな力加減でカサカサと撫で回された。
(くっ……! こ、この手つき……! こいつ、我の弱点を完全に把握しておるな……!)
「あ、見て八雲君。 珠吉、喉鳴らしそうになってるよ」
「ほんとだ。なんか目がいっちゃってますね」
『なっ……! いっておらん! 我の目は常に知的で澄み渡っておるわ!』
必死に身体を突っぱねようとするのだが、夢月の撫で方が絶妙すぎて身動きが取れない。おまけに、とこよまで『たまきち、きもちいい?』と言いながら、逆側の頬をペチペチと撫で回し始めた。
両側からの挟み撃ちである。
偉大なる猫又の尊厳が、怒涛の勢いで削り取られていく。
「珠吉ー、今日も毛並みが最高だねぇ。ふわふわ」
「あ、如月さん、俺も触っていいすか?」
「もちろん。 八雲君もどうぞ」
「じゃあお邪魔して……お、ほんとだ、めちゃくちゃ柔らかい」
『くぉらっ! 若造ども! 我を毛布か何かと勘違いするな! 離れろ!』
シャアッと威嚇してみせるものの、爪を出さずに肉球でポカポカ叩くだけの抵抗など、彼らにとっては「遊んでくれている」としか受け取られない。八雲に至っては「なんかパンチされてる……可愛い……」などと不敬な呟き漏らす始末だ。
「二人とも、あまり珠吉を甘やかしすぎては駄目ですよ。後で照れ隠しが大変になりますから」
『マスター! お前はどっちの味方なのだ!?』
マスターが淹れてくれた温かいカフェオレとミルクティーの湯気が立つ中、夢月と八雲の笑い声と、とこよの楽しげなはしゃぎ声が店内に満ちていく。
……ふん。人間も妖怪も、どいつもこいつも調子のいい奴らばかりだ。
我は溜め息混じりに、夢月の膝の上へとドサリと体重を預けた。丸くなると、夢月の温もりがダイレクトに伝わってくる。
「なんだかんだ言って、いつも珠吉から膝に来てくれるよね」
『勘違いするな。膝の上がちょうど良い高さだったから休んでいるだけだ』
「うんうん、そうだよね」
全く伝わっていない返事を聞きながら、我はふっと目を閉じた。
愚かで、我が儘で、我が身を弄ぶ不届き者達。
だが、まあ。この賑やかで温かい時間を、そこまで悪くないと思ってしまっている自分がいることも、また紛れもない事実なのだ。
(……だが、絶対に口にはしてやらんがな!)
我は小さく鼻を鳴らすと、夢月の膝の上で、静かに深い丸まりの中へと落ちていった。
——ハッ!
我は跳ね起きるように目を開けた。
夢月の膝の上で微睡んでいたはずなのだが、尾の先までゾクリと走った妙な虫の知らせに、猫特有の鋭い野性が目を覚ましたのだ。
耳をぴんと立て、視線を巡らせる。
夢月はマスターと楽しそうに季節のケーキの話をしており、我を起こさないようそっと背中を撫で続けてくれていた。
だが、問題は別の場所だ。
ふと見れば、カウンターの端の席。
椅子に腰掛けた八雲の足元へ、座敷童子のとこよがひたひたと忍び寄っていた。
(……ぬ? 何をしているんだ、あいつ。あの少年に近寄るなど珍しい)
とこよは背伸びをし、八雲の袖をちょんちょんと引っ張った。
八雲は「ん?」と視線を落とすと、椅子に座ったまま少しだけ身を縮め、とこよの小さな口元へと耳を近づける。
とこよは八雲の耳元に両手を添えて、ひそひそと何かを耳打ちし始めた。
『……の、⋯⋯を⋯したい』
「まじで?」
『うん!』
何かを密談している。間違いなく、碌でもない悪巧みだ。
八雲の目が怪しく光り、とこよはニヒヒと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
やがて、耳打ちを終えた二人はゆっくりと顔を見合わせる。そして、なんとも不敵で、邪悪な笑みを同時に浮かべたのだった。
(な、なんだあの二人の邪悪な面構えは!?)
我の体毛がサーッと逆立つ。
八雲ととこよは、息の合った足取りでぬるりとこちらへ歩み寄ってきた。
「如月さーん」
「ん? 何、八雲君?」
「ちょっと、珠吉の様子が変かもしれないっす」
「えっ!? 珠吉が!?」
『騙されるな夢月! こやつらは嘘をついておる!』
夢月が驚いて身体を起こした隙を逃さず、八雲ととこよが瞬時に動いた。
「今だ、とこよちゃん!」
『はいっ!』
なんと八雲は、素早い手つきで我の身体をすぽんと抱え上げると、仰向けの体勢で完全に固定したのだ!
そしてすかさず、とこよがポケットから取り出した「ある物」を手に迫ってくる。
それは、色取り取りの、可愛らしい小さなリボンと猫用の簪(のような玩具)だった。
『なっ……!? き、貴様ら何を——』
「ほら珠吉、動かない動かない。とこよちゃんが『珠吉を可愛くドレスアップしたい』って言うからさ」
『たまきち、おしゃれしよ』
『やめろー! 我は偉大なる猫又だぞ! そんな女子のようなヒラヒラしたものをつけ――ぐぬぬっ!?』
八雲の手によって頭や顎の下を巧みに撫で回され、一瞬動きが鈍ったその隙に!
とこよの手によって、耳の間にあでやかな赤いリボンが結ばれ、両耳の脇には小さな花の髪飾りがちょこんと装着されてしまった。
「……できたっす!」
『できた。 おはなのたまきち』
「……えっ! 嘘、すごい似合ってる!」
夢月が目を輝かせて歓声を上げた。
我は慌ててカウンターの上の手鏡に飛びつき、己の姿を映し出した。
そこに映っていたのは、頭にデカデカと赤いリボンをつけ、両耳に可愛らしい花を散らした、どう見ても「おめかしし過ぎたお姫様猫」の姿であった。
『な……っ!? なんじゃこの姿はーーーっ!』
「あははは! 珠吉、めちゃくちゃ可愛い! 乙女みたいだよ!」
「いやぁ、思った以上に似合っちゃいましたね」
『たまきち、めんこい』
『笑うな! 乙女とはなんだ乙女とは! 我の威厳が、 男としての尊厳が完全に崩壊しておるではないか!』
手を叩いて大爆笑する夢月と八雲、そして満足そうに鼻を鳴らすとこよ。
マスターに至っては、「おや、お店の看板猫として華やかで実に素晴らしいセンスですね」と感心したように頷いている。
……だめだ。やはりこの店には、我が威厳を守ってくれるまともな存在が一人もおらん!
『えーい、取れ! 今すぐこれを外さんか貴様らぁぁぁ!』
我は真っ赤になりながら、頭のリボンを外そうと前脚を振り回した。
こうして夢幻喫茶の平和な(?)午後は、我の悲痛な叫びと皆の笑い声と共に、賑やかに過ぎていくのだった。
『ぬぐぐぐ……取れん! 何故前脚が届かんのだ……!』
必死に両前脚を頭の上へ伸ばし、バタバタと空を掻く。
だが、我が前脚は絶望的に短い。リボンに僅かに肉球が掠めるのみで、結び目を解くことすらままならなかった。
「あはは! 珠吉、ジタバタしてて可愛いー!」
「如月さん、ちょっと待って。仕上げにこれもあります」
八雲がポケットから取り出したのは、なんと小さな手鏡……ではなく、ピンク色の小さなレースの首飾りだった。
(……何処からそんなものを仕込んできたのだ貴様ぁぁぁ!)
『 止めるんだ! これ以上我が身に装飾を施したら、我が怒りの爪が火を噴くぞ!』
「まあまあ、珠吉様。とこよちゃんの情熱に応えてあげてくださいよ」
『たまきち、これもおそろい』
とこよの首元を見れば、なるほど確かに同じようなレースの首飾りが巻かれている。
……くっ、この座敷童子、自分とお揃いにしたかったというのか。
その純粋極まりないキラキラとした瞳で見つめられると、威嚇のために開いた口がそのまま固まってしまう。
「ほら、おとなしくしててね〜」
夢月に後ろから優しく身体を抱え込まれ、八雲の手によってパチンと首元にレースが巻き付けられた。
「……完成っす」
「わぁぁっ! すごい!。完全にお姫様だ」
『おひめさま』
パチパチと拍手が湧き起こる。
カウンターの向こうでは、マスターが「これは素晴らしい。本日の特製いちごパフェの看板モデルになっていただきましょうか」などと恐ろしい提案をしている。
『だ、誰がお姫様だ! 我はオスだと言っておろうが!』
我は夢月の拘束をスルリと抜け出すと、カウンターの上をダッシュして鏡の前に立ちはだかった。
鏡の中に佇むのは、頭に大きな赤いリボン、耳元に可憐な花、首元にフリルのレースを纏った、完璧な「乙女猫」である。
毛並みがツヤツヤで手入れが行き届いている分、余計にドレスアップが映えてしまっているのが輪をかけて腹立たしい。
『うぐぬぬぬ……! 威厳が……我が数百年の威厳が……!』
夢月と八雲の楽しそうな笑い声と、とこよの歓声が、夢幻喫茶の午後に心地よく響き渡っていた。
(……まったく、調子のいい奴らめ)
首元のレースのムズムズ感に文句を言いながらも、我はほんの少しだけ、この馬鹿馬鹿しくも温かい時間が愛おしいと思ってしまうのであった。
(だが、明日になったら八雲の靴の中に毛玉を吐いてやるからな!)
我はバシッと前脚でカウンターを叩いたが、首元のレースと頭の大きなリボンが揺れるばかりで、ちっとも威厳が伴わない。
「はい、珠吉。モデル代ですよ」
クスクスと笑いながら、マスターが目の前に小さな皿を置いた。
乗っているのは、我の大好物である細かく刻んだ特製の乾燥鰹節と、ほんの少しのマグロの煮こごりだ。香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。
(ぐっ……! ま、マスターめ……我の好みを完璧に把握した上での買収工作か……!)
すでに更へと伸びている前足から顔を上げると、マスターすらも意地の悪い笑みを浮かべている。
『ふ、ふん! この程度の物で我のプライドが買えると思ったら大間違いだぞ!』
捨て台詞を吐きつつも、我が身体は素直だった。
気づけばフンスフンスと鼻を鳴らし、夢中でお皿に顔を突っ込んでいた。
「あはは! 珠吉、口では怒ってるのにめちゃくちゃ勢いよく食べてる!」
「素直じゃないっすねぇ、ほんと」
『モグモグ……ッ! 黙れ若造ども! 食事の邪魔をするな!』
我のお口が塞がっている隙を狙い、とこよがそっと頭のリボンと耳の花飾りを外してくれた。首元のレースも解かれ、ようやくいつもの軽い首回りを取り戻す。
『……ふぅ』
お皿を綺麗に舐め終わると、我が身に宿る心地よい満足感と満腹感。
喉の奥が「ごろ……ごろ……」と勝手に音を立てそうになるのを、我は必死にぐっと堪えた。
「珠吉、美味しかった?」
夢月が優しく微笑みながら、頭を撫でてくる。
今度は飾りをつけるためではなく、純粋に我を愛でるための温かい手だ。
八雲も「お疲れ様っす、珠吉様」と可笑しそうに背中を撫で、とこよは満足そうに我が隣で小さく丸くなっている。
人間も、妖も、座敷童子も。
この小さな喫茶店に集う者達は、誰もが何処かお人好しで、寂しがり屋で、そして恐ろしいほど我が好きなのだ。
(……やれやれ。これだから、この店の看板猫はやめられんのだ)
我がふっと目を細めると、夢月が「あ、珠吉が笑った」と嬉しそうに声を上げた。
『笑っておらん! さあ、茶番は終わりだ! 若造ども、とっとと注文を決めんか! 店の売り上げに貢献するのだ!』
我は威厳を取り戻すように、大きく一発「ニャァァン!」と鳴いてみせた。
それに合わせて、マスターの淹れるコーヒーの香ばしい湯気がふわりと立ち上り、カランコロンと新しい客の訪れを告げる鈴の音が響く。
愚かで、愛おしい奴らと過ごす夢幻喫茶の日常は、今日も賑やかに、そして穏やかに続いていくのだった。




