第三十七話:目に映した影
セラフィナはまた、アスイェの状態を無意識に感じ取った。
アスイェの体調が優れないと、セラフィナも気分が悪くなる。
その糸は深く体の中に埋まっていた。痛みは感じないが、体がその糸に引っぱられているような感覚に、セラフィナは思わず息を殺した。
アスイェのそばにいると安心する、その感覚に駆られて、またアスイェを探しに行った。
セラフィナは本当は文句を言いたかったが、毎回アスイェを見るたび、やめてしまった。
彼を探すのは簡単なことだ。
セラフィナには今、アスイェのことがしっかり「見えていた」。
アスイェは体を椅子に預け、黒髪が視線を遮り、アスイェは疲れ果てたようだ。
彼の呼吸、仕草、眠りに落ちた気配。そして、もっと深い吸血鬼の鼓動……
「おやすみしてるの?」
彼女は寝ていたアスイェに近づき、名前を呼んだ。
「アスイェ?」
アスイェは動かなかったが、影は先に動いた。
吸血鬼に影はない。
それは影のようなものだった。静かに動いて、人が気づく前に呑み込む。
ただ、その影はそのまま消えてしまった。まるで日の光に焼かれたもののように。
アスイェが目を開けたのはその時だった。
「……怖いのか?」
「影はアスイェの能力なの?」
「そうだ。言ってなかったか?」
「初めて知った……」
「……言い忘れた」
セラフィナが彼に近づくと、何か別のものが、水のように頭の中へ流れ込んだ。
最初は一雫だった。
その雫は、まるで鏡のように何かを映し出した。
夜行、殺戮、炎、風。
その黒い影はいつもそこにいたが、楽しんだことはなく、ただ仕事をこなすだけだった。
これはアスイェの記憶だった。
しかし、セラフィナは自分の姿も目にした。
ただ彼の後ろについて歩き、親しみを込めた眼差しでアスイェを見つめていた。
静かで、若く、白かった。
「それ。セラなの?」
いつの間にかアスイェはもう立ち上がっていて、少女に聞いた。
「また、目眩がするのか?」
その答えを待たず、彼の手はセラフィナの目を覆っていた。
初めて、セラフィナは彼を避けた。
「何をするの?」
「見せるべきではないものを見たからだ」
「セラの記憶を消すの?」
「……」
「もう見たもん!」
「……だから忘れさせる」
「なんで?」
「体に悪い……」
いやだ!前はそうする前に、ちゃんとセラに聞いてたもん!
「毎回嫌だって言われただろう」
「忘れたくない!知りたいからアスイェのところに来た!アスイェが弱っていたのに何も知らないのは嫌!お願い!」
「叫ばない……」
「ごめんなさい……でも……」
しばらくして、アスイェはため息を吐いた。
「……まだきついだろう。おいで」
セラフィナは戸惑っていた。
「……おいで」
セラフィナはアスイェの言葉にさからえない。アスイェも彼女の願いを聞いた。
「知るべきものと、知らない方がいいものもある。まずは自分の能力をしっかり制御すること」
「わかっている」
「俺の秘密が知りたいなら、このくらいできないといけない」
「うん!」
「焦りは良くない。まずは食べるべきだ」
今はまだ夜が訪れていない時間だった。
彼の過去は、少女にとって甘い子守唄になるだろうか?
それでも悪夢になるだろうか?




