第三十六話:共感
セラフィナは、自分はもう成長したのだと思っていた。そのせいか、以前ほどアスイェの部屋を訪れなくなっていた。
夜,彼と一緒に散歩に行くことがあっても、
奇妙なことが起きた時や、血が騒いで助けを求める時でさえ、セラフィナはアスイェと距離を取った。
セラフィナは他の吸血鬼と会ったことがないし、アスイェの居場所を奪うつもりもなかった。
だが、なんとなくわかる。
アスイェが自分をこの屋敷に置いていること自体、普通ならありえない。
吸血鬼はなんとなくわかることが多い。例えば今日、一度もアスイェに会っていないことに違和感を覚えた。
そして、少女の調子もよくなかった。
最初はただの立ちくらみだと思った。
はっきりと感じたのはそのすぐあとだった。少女は歩くことすら難しい状態に陥った。
壁に手をつき、せめてこの状況をアスイェに伝えようと思い、重い足を引きずるように進んだ。
屋敷の中に、一つだけ鍵がかかっていない部屋があった。
アスイェが彼女を一人にする時のために用意した部屋で、普段なら、セラフィナが立ち寄るべきではない場所だったが、今日、セラフィナは初めてそこを訪れた。
彼女はノックせず、少しだけ部屋の扉を開けた。
カーテンは閉めきられておらず、部屋の中にはワインの香りが漂っていた。
この時だった。
この目眩も疲れも自分のものではなく、アスイェのものだと、ふと気づいた。
アスイェは疲れて、髪が頬ににかかり、その顔は普段よりも白く見えた。
アスイェがこんなにも静かな姿を見せたことは、セラフィナは扉の外に立ち止まり、入っていいかと躊躇っていた。
セラフィナは近づくたび、確信したことがあった。
これは、逆らえない血の繋がりだった。
別に血の繋がりに逆らうつもりはないが、アスイェが寝込んだ姿を見ると、どこか痛々しく感じた。
その時だった。
椅子の上に横になっていたアスイェは目を開け、躊躇している少女を見つめた。
「……来たか……どうした?」
「ごめんなさい……アスイェが疲れているって感じたから……」
「感じた……共感したのか?」
「「そうだと思う。さっきセラ、目眩したから……でも、アスイェがつらいって、さっきわかった」
「今もキツイか?」
「うん……」
「なら、横になって少し寝れば治る」
アスイェは手を広げて、隣にあけた。
「アスイェも、寝たら治る?」
「うん」
少女は一歩進めたが、まだ止まった。
「俺と一緒にいるのが嫌なら、自分の部屋で休んでいい。そのうち治る」
「そんな!一緒がいい!」
「ならこっちに来い。親と子が一緒に昼寝するのは、別におかしなことじゃない」
セラフィナの心は読まれていた。
それは恥ずかしいが、セラフィナにとって安心する一言だった。
彼女はやっと、ゆっくりとアスイェに近づいた。
椅子のそばまで行き、そっとアスイェの手に触れ、ゆっくりと彼の隣に横になった。
「病人扱いはしなくていい……」
「アスイェは病人じゃないの?」
「今、お前の目眩を治すのは俺だ」
日の光は窓から差し込み、床に落ちて、まるで金色の小さな花のようだった。
目眩が徐々に引き、セラフィナはやっと落ち着いた。
「練習するよ……」
「なにを?」
「共感。アスイェがつらい時、すぐにわかるように」
アスイェは答えなかった。まるで眠りについたようだったが、少女は、少しだけ力の入ったアスイェの手から、「火の熱」以外のものを感じた。




