表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アスイェ•Asyeh  作者: 新城凪
その五:名を授かった者は永遠を得る
PR
39/39

第三十八話:名を授かった者

いつもと同じ夜。アスイェはいつものように本を手にして窓辺に座っていた。

いつもならセラフィナは彼と一緒に座っていたが、今夜は床に座ると少女が言い出した。

そしてアスイェは問うた。

「自分の名前の意味は知っているか?」

部屋の中の灯りは薄く、アスイェの影はそのまま少女を覆った。

少女は彼の影の中に座り、小さな声で答えた。

「知らない」と。

アスイェは笑った。

その笑みには、いつもの気だるさも、からかうような気配もなかった。

あるのは優しさだけだった。

しばらく言葉を続けなかった彼は、優しい眼差しはセラフィナを通り越し、その先の過去を見つめていた。

再び語り始めた彼の声は、あまりにも優しくて、まるで一雫の水が枯れた湖に落ちたようだった。

***

アスイェは神だった。

セラフィナがよく知っている黒いマントを羽織り、、夜の中に歩き続けたアスイェではなかった。

その時、彼は白い衣をまとい、その姿は太陽のように金色だった。その目は晴れた空のように青く、翼は雲のように白かった。

彼は名を授けるものだ。

彼の使命は戦うことでもなく、裁くことでもない。ただ、まだ名を持たぬものに名を授けることだった。風を「かぜ」とし、光を「ひかり」と呼ばせるために。

その日、彼は白い神殿で彼女を見つけた。

幼子はまだ天真爛漫で、小さな翼と白い身体が神殿の色に溶け込み、彼女の姿はまるで雪のようだった。

幼子――小さな天使を導くのは、彼の仕事だった。その澄んだ目を見つめて問いかけた。

「名前、あげようか?」

小さな天使は答えず、彼を見つめた。

「あなたの名前はセラフィナだ」

***

「セラフィナ」――六翼天使に連なる名だ。

神座の第一層を守る、炎と純潔の化身。光の侍者であり、神の剣であり、天啓を告げる者。純粋で美しい、昔から今でも変わらない――お前だ」

「セラは、光に祝福された子?」

「火の神の祝福もある」

彼女は大きく目を開け、びっくりして動けなくなった。

まさか、自分の名前にこんな意味があるとは思わなかった。

「なんで、この名前をセラにくれたの?」

彼は笑った。それはセラフィナが見たことがない優しい笑顔だった。

「昔、セラは静かすぎたからだ。沈黙はお前に似合わない」

セラフィナはいつも、自分がいらない子と、思ったいた。

セラフィナは言葉が詰まった。しばらく、ありがとうの一言すら発することができなかった。

セラフィナはずっと、自分には意味がないと思っていた。

まさか、自分の名前がこんな祝福に満ちたものだなんて、思わなかった。

——の名前は、神からの贈り物だった

「この話、やめるほうがいい?今、泣きそうな顔してた」

「ううん、聞きたい!」

「なら、はじめから話す」

セラフィナはずっと神さまの隣に居た。

時を忘れるほど長く、そばにいた。

ほとんどのことを忘れた中でも、神さまの手の温もりだけは忘れない。

その手は細く、手を繋ぐたびに、強く握ることはなかった。

時々、セラフィナがこっそり強く握り返すと、神さまの優しい眼差しが返ってきた。

ただ、手を繋ぐだけで、喜びを感じる。

セラフィナは甘えることはない。

神さまが自分一人のものではないと知っていた。

彼女より年上のお兄さまとお姉さまがたくさんいる。

自分より有能な者もいれば、面白い話で神さまを喜ばせる者もいる。

皆が神さまを愛していた。神さまもまた、その愛に応えるように皆を愛していた。

彼女はただ、まっているだけだった。

神さまは毎日忙しい。

でも、離された手はいつも繋ぎ直された。それはセラフィナの待つ意味だった。

神さまも疲れる。

ただ、それを見せないようにしていただけだった。

深夜、神殿に誰もいない時に、神さまは一人で窓辺に座り、星を見ていた。

その時、セラフィナはいつも、そっと神さまに近づき、そのそばに座った。

「また来たんですね」

「うるさくしません……」

「あなたはいつも静かだからね」

神さまはそのまま、小さな天使とひとときを過ごした。

その時だけ、セラフィナは神さまを独り占めできたのだと、満足していた。


神さまは、皆をよく褒めたが、決して責めることはなかった。

歩みは決して遅くないが、よく足を止めて、幼い天使を待っていた。

セセラフィナが一度だけ神さまに問いかけたのは、自分の名前の意味だった。

その時、神さまは優しく笑って、彼女の目を見て、

「大きくなったら教える」と言った。

彼女が得意なのは待つことだった。

きっと自分の名の意味を知る日が来ると、信じていた。

セラフィナは、自分の神さまの隣にいた。

神さまに「ただいま」と言い続けた。

これは二人の日常だった。

この日常はずっと続くはずだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ