第三十四話:少女の狩り
森の風は止まらなかった。
彼は静かに森の端に立っていた。
手は腰につけていた剣に添えられていたが、その剣は鞘に収まっていたままいた。
一瞬で、セラフィナの気配は消えた。
森は眠りについたように静かだった。
彼はセラフィナを追っていない。
しばらくして、森はざわついた。
そのざわつきは蟲のせいではなく、少女の狩りが始まったからだ。
アスイェは高いところを見ていた。
セラフィナは足音を殺していないから、アスイェはすぐに少女を見つけた。
少女はまっすぐ蟲の群れの中へ突っ込んだ。
短剣を鞘から抜き、一瞬で蟲の群れに道を切り裂いた。
アスイェはたくさんの吸血鬼の狩り姿を見た。狂った野獣のように狩を楽しんでいた者があれば、優雅に殺していた者もいた。
彼はセラフィナに剣の使い方と狩りの仕方を教えていたが、だが、「正しいやり方」が何かまでは、あえて教えていなかった。
それでも、少女の狩り姿は自分によく似ていると、アスイェは思った。
――静かで、余計な音を立てない。速く、殺意をしっかり隠し、蟲が鳴く前に声を失わせていた。
しばらくして、焼けた後の匂いがした。
アスイェは微かに笑った。
「覚えるのが早いな」
吸血鬼はだいたい炎を恐れ嫌っているが、アスイェは好きだった。
夜の中に咲いた炎の花は蟲を殻ごと焼き尽くし、その炎は、彼が教えた通りに獲物を狩っていた。アスイェは目を離さなかった。
その止まることを知らない炎は、微かな薔薇の香りを纏っていた。
上から見ていたアスイェにとって、それは絶景だった。
まだ制御できていない力の美しさを、アスイェはしばらく見ていなかった。
セラフィナは自分の炎にむせて、咳が止まらなくなっていた。
それはあまり良くないものだが、叱るべきではない。
アスイェは少女の炎の扱い方を気に入っていたが、正しく導かなければ、あとで苦しむのはセラフィナだろう。
それでも、今言うべきことではない。
セラフィナは自分で気付き、自分でコントロールできるようになるしかない。
彼は狩りを教えた時のように導くこともできるが、彼は待つことを選んだ。
風が止まった時、彼女の狩りも終わった。
アスイェも姿を現した。
しばらく、二人はそのまま互いを見つめていた。
セラフィナはまだ炎の中に立っていた。
彼女の顔は汚れでいたが、怪我はなかった。だが、その目はまだ赤かった。まるで、まだ落ち着いていない捕食者のようだった。
「終わったか?」
セラフィナは答えなかったが、体が言葉より先に答えを出していた。
少女のまつげはまだ汚れていた。彼はただ、そばに立っていたセラフィナの手を握った。
セラフィナの手はまだ熱を帯びていた。触れれば火傷しそうな温度だった。
アスイェは何も言えず、セラフィナを連れて屋敷に帰った。
後ろの炎は徐々に消え、少女の初めての狩りは終わった。




