第三十話:いつもの朝と特別な味
セラフィナはよく甘える。
特にアスイェをハグするのが好きだった。
それは二人の間にある儀式のようだった。
一日のうち、いつも少女が近くにいる瞬間があって、アスイェの手がちょうどセラフィナの頭を撫でた時や、彼のそばに来た時に、セラフィナは必ずそこに座り、そっと彼に近づいて、抱きついた。
以前は寝る前にそのままアスイェの首に抱きつき、自分の体をぶら下げていた。
さらに前は、目を覚ますとすぐにアスイェに抱きついた。
今日はその「さらに前」の時と同じだった。
セラフィナはアスイェを見るなり、すぐに甘えた。
アスイェはそのまま彼女の背に手を回し、抱き寄せた。
「アスイェ、おはよう……」
「うん」
アスイェは彼女をうけとめ、寝起きの挨拶もせず、「もっと寝ればいい」と言った。
「いいや、今日はアスイェ、お出かけするの?」
「キッチンに行くだけだ」
「キッチン?」
「そろそろお前に人類の食べ物を与えるべきだ」
「ほんと、やった!」
セラフィナは、人間の食べ物が自分たちのものと違うと知っていて、ずっと試してみたかったが、今までアスイェは与えてくれなかった。
「うん。寝たくないなら、ついてこい」
屋敷は相変わらず静かだった。
そして、セラフィナは初めて、アスイェではない他の男の姿を見た。
その男は執事の姿をしていて、アスイェに深く頭を下げていた。
「その人は……」
「サーバントだ。気にしなくていい」
***
朝食は温かいものだった。
温かい肉と、甘く味付けされた野菜。
中身のわからないスープ。
——アスイェの前にも、その「わからないスープ」が置かれていた。
「見るだけじゃなく、食べていい」
セラフィナはスープを一口飲んだ。
甘い、ちょっとしょっぱい。
食べたことがない不思議な食感だった。でも——
「……美味しい」
「そうか……」
「味、わかるか?」
「わかる、けど、味がかわる……」
「味覚は錯乱している。そのうち治る」
「アスイェは?食べるの、好き?」
「ああ、食べるのは趣味の一つだ」
「趣味?」
セラフィナは二回瞬きをして、その話を続けなかった。
だが、食べ続けた。
食べ物の味は好きだが、食感は好きではなかった。
初めて人間の食べ物を食べ、しっかりと食べ終えた。
「もっと食べればいい」とアスイェは言った。
彼女は頷き、スープを飲み干した。
そして、この食べ物は自分の体に良いと感じた。
耳鳴りや嫌な熱も、この食べ物で和らいでいった。
この特別な朝食の中で、セラフィナはゆっくりと食べ続けた。
アスイェは最初セラフィナと共に食べていたが、食べ終えると彼女を待っていた。
アスイェは何も言わず、料理を一皿ずつ彼女の前に置いた。
違うものを食べるたびに、違う表情を浮かべた。
「もう食べられない……」やがて、セラフィナは手を止め、小さくそう言った。
「もういいのか?」
セラフィナはこっそりとアスイェを見た。
きっと、アスイェが見ていたからこそ、自分はちゃんと食べ終えられたのだと、セラフィナは思った。
「今日は何をするの?」
「何もしない」
「なら、今日はセラとずっと一緒だね!」
この朝は、その特別な味によって、少しだけ特別な朝になった。




