第七章 第十五話 覚醒と変貌
side:イース
イース「……(痛い……凄く痛い……でも……ケニーさんが……こっちに向かってくる……立って応戦しなきゃ……しな……きゃ……)」
ケニー「ギャアアアアアアァァァッッ!!!」
ケニーさんがオーズ村を襲おうという直前で、ハンスさんの分身さんのお陰でどうにか間に合った僕は、ケニーさんと相対した。
形勢が二転三転とする中、突如としてケニーさんの力が増し、僕は絶望なる一撃を受けてしまう。その一撃により、僕は今までにない程の絶体絶命の窮地に立たされた。
そして僕の命の終着点は……もうすぐの所まで来ていた。
イース「(……守さんは……あんなに大怪我をしていたのに……)」
僕はガーサル領奪還作戦で、シシオウさんと相対した守さんを思い出していた。
シシオウさんとドグマさんの二対一という不利な戦いで、何度も傷を負いながらもドグマさんに打ち勝って……強狂化したシシオウさんにも大切傷・大火傷の命に関わる程の大怪我を負いながらも倒れずに……諦めずに立ち向かっていき、シシオウさんにも打ち勝った……
守「負けられない!!皆の想いを背負ってるんだぁ!俺は一歩も引かない!!!」
守さんが皆んなの想いを背負って戦っているその姿が……凄く大きくて…………僕も……あんな風になりたいって……思ったんだ……
イース「(だけど……僕には……)」
身体に刻み込まれた数々の裂傷の激痛は……憧れの人に近づく為……オーズ村の皆さんを守る為に……立ちあがろうとする気力を根こそぎ奪おうとする程の物であった。
イース「うぅ……(僕は……やっぱり……ダメな……竜なんだ……いや……竜なんておこがましいかもしれない……ダメな……生き物なんだ……)」
激痛と悲壮感に苛まれ、僕は絶望した。
「愛弟子イース。オヌシはダメなんかじゃない。優しくて……強い……立派な竜じゃよ。」
イース「……!!」
「イース!もうお前はとっくに俺なんかよりも強くなってる!自信を持てぇ!!」
イース「……!!(師匠……!ヒース兄さん……!)」
僕が絶望に打ちひしがれていた時……亡くなって既にこの世にはいない筈の……師匠とヒース兄さんの励ましの声が聞こえてきた。
師匠は凄い強くて、時には厳しかったけど、どこまでも優しい人で……僕の事を「優しく強い竜」と認めてくれた時は本当に嬉しかった。
ヒース兄さんは僕のお兄さんの様な存在で、村にいた時には大変お世話になった。そして常に僕の先を行っていた憧れの竜だった。
二人とも僕の憧れであり、大切な方達だ。
「イース君。君はまだまだ強くなれるよ。」
「おめでとう!イース君!ハンター同士として、これからも宜しくな!!」
イース「(ハンスさん……!)
憧れの人ハンスさん。修行に付き合ってくれて、励まして頂いた。強くて冷静沈着な人だけど……優しい人だ。そして何度も助けて頂いた。ハンター試験に合格した時は労いの言葉を掛けて頂き、本当に嬉しかった。
「イースちゃん!大丈夫!?」
「イースちゃん!修行の成果が出てるよ!強くなってる!」
「イースちゃん……ごめん……ごめんね……」
イース「(ミズキさん……!)」
ミズキさんも憧れの人だ。そして僕を心配してくれて何度も助けて頂き、修行に付き合ってくれたり、励ましたりしてくれる優しい人だ。
ハンター試験の時に蟠り(わだかまり)が一度出来ちゃったけど……再試験で無事ハンターになって、蟠りが解けた時は本当に嬉しかった。
「イースが、ハンターになれる事を……俺は信じている。」
「いいぞ!イース!お前はもっと強くなる!!ここで終わるお前じゃない!」
「良くやったぞぉ!!イースぅぅっ!!これからはハンター同士として、宜しくなぁぁ!!」
イース「守さん……!」
憧れの兄弟子……守さん。こんな僕が修行や辛い戦いを乗り越えてこれたのは、守さんがいたからこそなんだ。
何度も助けて頂き、ハンター試験に一度落ちてしまった時も大きな背中を見せてくれて……再試験に合格した時は僕と一緒に喜んでくれた。今こうやってハンターになれたのは……守さんのお陰だ。
皆さんには返し切れない程の恩がある。どの方達も僕にとって大切な……憧れの方達であり、恩人だ。
その恩人の方々に少しでも肩を並べたい……僕がされた様に、今度は僕が世界中の困っている人達を助けたい……そう思ってハンターになったのに……
イース「(なのに……僕は……諦めて……絶望して……)」
情けない……
悔しい……
これじゃ……
以前の僕と……
イース「(同じだ……以前の情けない僕と……)」
僕が負けたら……
死んだら……
クレアさんやアレク村長さんを始めとするオーズ村の人達は……
イース「(嫌だ……僕は……強くなると決めたんだ……)」
胸が熱くなる。そして激痛を上回る熱量が、身体中を駆け巡る。
イース「(皆んなを守れる程に……強くなるって決めたじゃないか!!
……僕はまだ…………この程度の傷で…………
…………倒れたままじゃ終われない!!」
僕が強く心に念じた時。僕の周りを青銀色の気が立ち込めてきた。
イース「うおおぉぉぉっっっ!!!」
僕は精一杯の気力を振り絞り、立ち上がった。
ケニー「ギャアアアアアアァァァッッ!!!」
僕が立ち上がると、既にケニーさんが僕を噛み砕こうという様相で、口を名一杯開けて目の前まで来ていた。
イース「僕は……オーズ村の皆さんを……守るんだあぁぁっっ!!!」
僕はケニーさんに向かって、全力で右腕を振るった。
イース「うおおおぉぉぉっっっ!!!」
ドゴオオオオオオオォォォンッッ!!!
ケニー「ギャアアアアアアァァァッッ!!!」
僕の右腕はケニーさんの頭部を捕え、ケニーさんは大きく後退し、後ろ向きに倒れた。
イース「スウゥゥゥゥッッッ!!」
ケニー「……!!……スウゥゥゥゥッッッ!!」
僕が息を大きく吸ったのと呼応する様に、ケニーさんもすぐさま体勢を立て直し大きく息を吸い込む。
そして……
イース「ハアアアアアアァァァッッ!!!」
ケニー「ガアアアアアアァァァッッ!!!」
光り輝く氷属性の青銀の息と、禍々しい風属性の紫黒の息が激しく衝突する。
ドゴオオオオオオオォォォンッッ!!!!
先程は僕の息だけ消滅したが、今度は覚醒した僕の息が強くなり、同程度の威力同士となった。
そして衝突の結果、どちらの息も消滅した。
イース「はぁ……はぁ……(何とか……打ち消した……)」
僕の息は絶え絶えになるが、ケニーさんは落ち着きを取り戻していた。
ケニー「……そうか……小さき竜よ……覚醒したか……我の風の息が消されるとは……。……しかし……我も……兄者の力を貰い……力が泉の様に湧き上がってくる……
……湧き上がってくるぞおおおおおおぉぉっっ!!!」
ケニーさんはその言葉と同時に紫黒の煙を発し、急速に姿を変える。そして間も無く変貌を遂げた。
イース「……!!」
その姿は狼の名残を残しつつも……人型である……狼と人が混じり合わさった姿をしていた。臨時村防衛戦でも同じ様な型の魔物さんがいたが……決定的に違うのはその大きな体躯と筋肉隆々とした外見……そして、紫黒の強烈な気を発していた所だった。
ケニー「そうか……ようやく理解した……これが……正しく…………力欲と…………兄弟愛の力…………なのだな……」
イース「……(力欲……兄弟愛……)」
ケニーさんは「力欲」と「兄弟愛」という言葉を強調しながら言った。言葉を発した直後、ケニーさんは僕の前に急進した。
その踏み込みは地面を轟かせる程であり、僕との距離は瞬時に縮まっていた。
イース「……!!(速い……!!)」
ケニー「この力……先ずは……小さき竜……貴様に使うとしよう。」
ドゴオオオオオオオォォォンッッ!!
イース「ぐううぅぅっっ!!(この怪力は……まるで……)」
ケニーさんの怪力に僕は大きく後方へ吹っ飛ばされた。その力はスコットさんを彷彿させる程の威力であった。
イース「……(物凄い力だ……それに速さは……)」
スコットさん並の怪力に加え、先程まで見せていた速度は変わらない……それどころか更に速くなっている。
僕も力が強くなっていたが、今の僕が打ち勝つ可能性はないに等しい。
イース「くっ……(僕だけでこの人に勝つのは……それなら……)」
「イース。俺がスコットさんと戦う。イースはハンスさんの分身と共にオーズ村へ向かって、ケニーさんを止めてくれ。俺がスコットさんに打ち勝って、必ずイースの所に行くからな!」
僕は守さんがスコットさんとの戦いに入る前に、守さんと耳打ちをした話を思い出す。
ケニー「今の攻撃を耐えるか……小さき竜よ。だがもう貴様が我に敵う道理はない。我が食欲に加え……力欲と……兄弟愛の力を……思い知るが良い。」
イース「……ケニーさん。僕は……貴方より弱いです。
……だけど……もう……何があっても倒れません!!
(今の僕に出来る事……それは……守さんを信じる事だ!!……守さんが来るまでは……何としてでも……ここを守り抜くんだ!!)
僕は覚醒、一方ケニーさんは変貌によって、力を増幅した両者であったが、ケニーさんの力は僕よりも更に凌ぐ程の増幅を見せ、ケニーさんと僕との力量差はより拡がってしまった。
打ち勝つ事は困難だと判断した僕は、守さんが来てくれるのを信じ、オーズ村の防衛に専念する事を選択する。
そしてこの戦いは更なる苛烈さを帯びる事となる……
…… 第七章 第十六話へ続く




