108 ドラゴンさん、ドラゴンをよぶ
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シアンとピートロはうまく話せないみたいで、トントロがあぶないって事しかわからなかった。
けど、ノクトがちゃんと教えてくれた。
「トントロがあたしたちを逃がしてくれたの。だけど、あの子だけ残って、敵が来るのを止めているから……」
トントロがあぶない!
トントロはとってもたくさん生命力を生み出せるけど、それだっていつかはなくなってしまう。
あの敵たち――アルトの仲間だったモノは数が多かったし、なによりもう死んじゃっているからいつまでも元気? だ。
トントロが力尽きる方がきっと早い。
僕はシアンたちを腕に抱えて、翼を広げる。
すぐにでも雪の部屋に飛びたいけど……ダメだ。
魔力を伸ばそうとしてもうまくいかない。
扉がなくなっちゃったせいだ。
この火山の部屋の扉は、『峻厳』さんの爆発でこわれちゃったんだっけ。
『扉が壊れるなんて信じられなかったわ。ダンジョンを壊すなんて……』
なら、シアンたちが通ってきた穴を使おう。
僕のドラゴンブレスでできた壁の穴。
この先はどこにつながっているんだろう?
僕が穴を見ただけで考えている事がわかったのか、ノクトが教えてくれた。
『この先は滝の部屋よ。でも、そこからの扉ももう壊れているわ。あたしたちが通った後の爆発でね』
僕のドラゴンブレスでできた穴におどろいていたら、滝の部屋の扉もぜんぶこわれちゃったみたいだ。
たぶん、この部屋の近くにつながっていた部屋の扉はなくなっているんだと思う。
ダンジョンはそのうち元に戻るから、きっといつかは直るんだろうけど。
「そんなの待ってられない」
だから、考える。
中層の部屋はみんなバラバラで、扉でつながっている。
でも、今はその扉が使えないかもしれない。
だとしたら、中層から戻るのもむずかしい。
けど、道はある。
僕のドラゴンブレスでできた穴だ。
これは本当にどこまでも続いている。
滝の部屋に出たみたいだけど、その先にまでずっと、ずっと、ずーっと止まらないで続けたはずだ。
なら、そこを通っていけば他の部屋にだってつながっているかもしれない。
「でも、それでは時間がかかりすぎて……」
『置いてきたアルト曰く、あの雪の部屋は中層の奥にまで繋がっているそうよ』
よくわからないけど、遠くて大変って事だよね。
「お兄ちゃん……」
でも、そんなの関係ない。
僕の腕の中でぽろぽろと涙を流しているピートロがいる。
なら、『遠い』なんてやっつける。
「僕の魔力が届くなら……」
広げていた翼に剣を並べる。
そして、息を吸うのといっしょに翼からもマナを集めて、魔力に転換して、そのまま通路の奥にまで広げていった。
「なんていう、魔力を!」
『ダンジョンを破壊するわけね!』
煙みたいに広げたらダメだ。
これじゃおそい。
もっと速く、遠くに、届かせる。
そのためには……そうだ。
ノクトがシアンに言っていた。
探知魔導。
雨の落ちた水面。
そんなふうに考えればいいって。
僕のは雨じゃないけど、つまり、自分がわかりやすいようにすればいい。
僕の形は……わかりやすいのは――ドラゴンだ。
昔の姿。
十の頭を持つ僕。
ひとつは僕だけど、他の頭を思い出して……。
「これは……」
『デミドラゴンじゃない。本物のドラゴン』
魔力でここのつのドラゴンを作る。
あまり大きくないし、昔の僕より弱い。
だけど、とっても速く動けるはずだし、なにより見たり、聞いたりしたのが僕にも伝わってくる。
これならトントロを探せる!
「トントロがいる場所まで急いで!」
ドラゴンたちが穴の向こう側に飛んでいく。
最初は滝の部屋。
それから林の部屋。
じめっとした原っぱの部屋。乾いた原っぱの部屋。砂ばかりの部屋。石だけの部屋。岩の壁の部屋。谷の部屋。
とちゅうで扉が見つかった。
そこからは九つのドラゴンが分かれて、バラバラに探し始める。
いっぱいの見た物や聞いたものが集まってくるけど、こんなのへいきだ。
前の僕はこんな感じだったんだから。
そうして、見つけた。
氷の部屋の次。
見た事のある雪の部屋。
魔力が届いたなら、後はすぐだ。
魔闘法――竜人撃:砕嵐竜『異空を超える翼』
魔力を通して、あっちとこっちをつなげる。
遠いせいで壁がとっても固くなっているけど、だいじょうぶ。
のこっていた八つのドラゴンを元に戻したから、こわせないわけがないから、ほら、こわれた。
そのまま、パッと飛ぶ。
「ついた!」
雪の部屋。
『峻厳』さんのせいで暑かった火山の部屋より寒い。
『これは、瞬間移動? いえ、魔力で空間の壁を壊した……異空間渡りね』
ノクトが何か言っているけど、どうでもいい。
「トントロは!?」
「この風景……あっちです!」
シアンが周りを見てから指さす。
その先を見ると……白い雪の中にいろんな色が見えた。
そこだけ雪がなくなっていて、こわれた土の壁だったり、たくさんの生き物が動き回ったりした戦いの跡が残っている。
そして、動かなくなった人の形をしたモノ。
僕はまた壁をこわして、そこまで飛ぶ。
そして、見つけた。
「これ……」
赤い線。
白い雪の中にずっと赤い線が続いていた。
たくさんの人の足跡のまんなか。
動かなくなった動く死体が倒れる中に、少しずつ、少しずつ、はっきりと色を残しながら、向こうの方へと。
トントロは、ここにいない。
ただ、赤い線――そこから、よく知っている匂いがした。
「あちらは、扉があった場所ですね」
シアンの声がかたい。
なんだか、とってもやな感じがする。
ノクトは何も言わないまま、僕の腕から下りて歩き出した。
ピートロはガタガタとふるえて、目をギュッとつぶって、僕の腕にしがみついている。
見ればわかる。
僕の目ならここからでも何が向こうにあるかわかる。
だけど、見る勇気がなかった。
でも、このままでいるのも怖くて、ノクトを追いかけて歩き出す。
最初は普通に歩いていたノクトだけど、倒れた動く死体が増えていくと走り始めた。
僕もだ。
怖いが、別の怖いに負けて、歩いてなんかいられない。
ノクトを追い越して、走る。
雪に残った赤い線。
トントロの血の跡。
その最後の場所に。
「トントロ」
倒れた動く死体に囲まれて。
いっぱいの血と泥によごれて。
たくさんの剣や槍に刺されて。
それでも壊れた扉を背中に守って。
そう。守っていた。
扉の先に行った人を。
たった一匹で最後まで。
「トントロ!」
赤く染まった冷たい雪の中、トントロは倒れていた。