視線
「ちょっと母さん! 私の琥珀君に何言ってるの!」
詩乃さんの物でもない。
「あら、詩乃居たの?」
「今、声聞こえてたよね!」
そうだったかしら、と頬に手をあててそんなことを言う。
結構良い性格をしている人である。
しかし、珍しい……。この世界では女性は一途な人が多いのだが。男性と関係を持った女性はその男性に愛想を尽かされない様に、他の男性に誘いを掛けず、尽くしていくことが多いのだ。
……まぁ、違う男から誘われたら付いていくと思うが。
こっちの男釣った魚に餌をあげないどころか、餌を奪っていく感じだからな……。
しかし、いきなり誘いを掛けられたが、挨拶はしておくべきだろうが、この場合詩乃さんから紹介をして貰うべきなのだろう、しかし二人はまだ言い合いをしている。
「もう! なんでいきなり誘ってるの!」
「え~、でもこんなに可愛い男の子が居たら当然だと思うけど~」
「可愛いけど、私パートナーなんだから、そんな事しちゃ駄目!」
「でも、今日だけだよね?」
「はうわ!」
そろそろ良いだろうか? 俺は詩乃さんの服を軽く引き呼びかける。
「詩乃さん、挨拶をさせて欲しいんだけど」
「……琥珀君」
詩乃さんはム~と顔を顰めるが、渋々紹介をしてくれた。
「母さん、こちら今日、私のパートナーを務めてくれる、秦野 琥珀君」
詩乃さんは俺を母親に紹介してくれ、次にこちらを向き自分の母親を紹介してくれる。
「それで、こっちが私の母、東華院 咲紀」
それを聞き終えると、俺は笑顔を浮かべて挨拶をする。
「初めまして、本日詩乃さんのパートナーを務めさせていただきます、秦野 琥珀です。よろしくお願い致します」
「こちらこそ、よろしくお願いね、……それにしても詩乃にこんなに可愛い男の子の知り合いが居たなんて、驚いたわ」
「学校のクラスメートで詩乃さんとは仲良くさせて頂いてます」
「……しかも礼儀正しいし」
詩乃さんの母親は、う~んと唸りながら、こちらをジッと見ている。そして……、
「琥珀君、私のことは”咲紀”って呼んでね。それで……、さっきの話しどうかな……」
と言いながらこちらに手を伸ばしてくる。
その手が俺の腰に回されそうになる所で、詩乃さんがその手をチョップで叩き落とす。
「だから私のだから駄目だって!」
なんども言うが詩乃さんの物でもない。……いや、言葉に出してないけど。
俺は残念そうにしている、咲紀さんに声を掛ける。
「そんなに熱心にお誘い頂けるなんて光栄です」
そう声を出すと、詩乃さんは”なんですと!”と言うような驚愕の顔をする。俺は詩乃さんのそんな顔を目に映しながら、言葉を続ける。
「でも、旦那様に悪いですから、ご遠慮しておきますね」
そう言葉を括った。その俺の言葉を聞き、咲紀さんはポツリと言う。
「あの人はお金が好きなだけだから……、会いに来るのはお金が欲しい時だけ……」
さっき迄の明るい空気が一瞬で無くなり、ものすごく気まずい空気が醸し出される。
ああ、これはアレですね……。例えばゲーム的な文章で言うなら
琥珀は盛大に地雷を踏んでしまった……。
と言うやつですね。
……やっべぇ! やらかした!
いや、知ってはいたんだよ、この世界の男はそう言うヤツも居るって、国から金出てるから、働かなくても生きていけるけど、それじゃ足りない位に、金遣いが荒いヤツも多いって。
……でもさすがに、東華院程の大きな家の人と結婚した人がそんな人だとは思わないよ! さすがに選んで結婚してると思うよ!
隣で詩乃さんもポツリと言葉を漏らす。
「私もお父さん、お金を受け取ってる所しか思い出せない……」
……どうしよう、咲紀さんだけじゃなく詩乃さんも落ち込んでいく。
……いや、本当にどうしよう。
「とっ、とりあえず!」
俺は二人に声を掛けると二人は、沈んだ顔をこちらに向ける。俺はその顔をなるべく目に映さないようにして話す。
「今日はせっかくのパーティですし、嫌なことは忘れて楽しみましょう!」
俺は少し前屈みになり、胸元を軽く引っ張る。
……いわゆる”胸チラ”をしてみた。
浅はかな考えだと思ったが、空気を変えるには、このぐらいしなければならないと思ったのだ。……こっちでは男性のエロって貴重だし。
効果があるか! と俺は二人の様子を伺う。
詩乃さんと咲紀さん、二人の視線は俺の胸元に熱く向けられていた。
……ガン見である。
俺は視線に気圧され、姿勢を元に戻す。
……が! 二人の視線はまだ、胸元に注がれていた。いつまで見てるんですか?
俺がコホンと咳払いを一つすると、二人はハッとし、ようやく動き出す。
「ああっ、そうだ! 詩乃、挨拶回りに行くから付いてきなさい。あ~その事で頭の中が一杯で考え込んでしまったわ。だから別に胸を見ていたなんて事ないわ~」
「そうだよね! 挨拶回り大事だよね! その事で緊張しちゃって、胸チラなんて見てないよね!」
語るに落ちているんだが。……でも、落ち込んでいた様子から元気になってくれて良かった。
……しかし、俺はいったい何をやっているんだろうか?




