東華院家の人々
「お爺さま、今日一緒する、私のパートナーを連れて参りました」
「うむ」
詩乃さんおじいさんは、一つ頷くと、俺をジッと見つめてくる。その視線に気圧されそうになるが、しっかりとパートナー役を務めないといけないとの思いで、引きつりそうな顔を我慢して、綺麗な笑顔を浮かべ、挨拶をする。
「秦野 琥珀と申します。本日は東華院さんのお招きに預かり、僭越かと存じましたがご厚意に甘え、お邪魔させて頂きました。よろしくお願いいたします」
そう言って、頭を下げる。
俺は声を掛けられるまで、頭を上げずにいると、おじいさんが声を掛けてくれる。
「ふむ、頭を上げて欲しい」
スッと心に染みこんでくる様な声色である。その言葉を聞き、ようやく頭を上げると、続けて声を掛けられる。
「私は東華院 豊成だ。君のような子が詩乃のパートナーとして、参加してくれる事を嬉しく思う。今日は楽しんでいって欲しい」
「ありがとうございます」
お礼の言葉を言ったが、おじいさんはジッと俺を見てくる。……なんで、そんなに見つめてくるんですか?止めていただけません?
「あっ、あの、なにか?」
「……いや」
最初の沈黙は何だ!
「ああ、もう戻って貰って構わんよ」
その言葉を聞くと詩乃さんは、頭を下げる。
「はい、それでは退出させて頂きます」
俺も頭を下げて退出の挨拶を言う。
「ありがとうございました。」
「ああ」
その後、おじいさんの部屋を出て、先ほどまで居た部屋に戻ってくると、ようやく緊張がとける
「緊張したー」
俺がそう声を出すと詩乃さんがそれに反応する。
「私の方がしたよ! 琥珀君が認められなかったら、どうしようかと思ってたよ!」
でも、認められて良かった~、と安堵の表情を浮かべている。
「えっ? あれで良かったの?」
「うん! うん! すっごい好印象だったよ!」
……形式的な会話しかしてない気がするが。
「お爺さまが初対面の人に、あれだけ好意的に会話をしたの初めて見たよ」
あれで好意的なのか……、確かに思っていたよりは普通だったけど。最初は”庶民が良く来たものだ”とか言われるかもとか思っていたからな……。
何か、気に入って貰える要素があったのか? 普通に挨拶しただけなんだけど……。
まぁ、何はともあれ、あれで良かったらしい。とりあえず、一山越えたかな? 少し安心した。
後は本番か……。まぁパーティでは、詩乃さんの横で微笑んでおけば良いらしいし、大丈夫かな?
それから、始まるまでの少しの時間、部屋で詩乃さんと話をしていたら、良い時間になっていたので、会場に向かう事にした。
パーティ会場に入ると、ちょうど同じぐらいに、先ほど会った詩乃さんのおじいさん、豊成さんの挨拶が始まった。
会場に居た人は、みんなそちらの方に目が行っていたので、入場と同時に目立つ事は無かった。
それにしても、会場に居る人はおじいさんの話を真剣に聞いている。男と言うこともあるのだろうが、純粋に事業家としても尊敬を集めているのだろう。そのおじいさんの話が終わると、今度は茶色の髪の妙齢な女性が挨拶を始めた、どことなく詩乃さんに似ていることから、おそらくは母親であろう。
「詩乃さん、あの人お母さん?」
「うん、そうだよ」
「始まる前に挨拶しておかなくて、良かったの?」
「大丈夫だよ、母さんは準備で忙しかったからね、時間取れなかったし」
「じゃあ、後で挨拶しに行こうか?」
「うん、お願いできるかな」
そんなことを話していると、挨拶が終わり、乾杯の音頭が取られた。
乾杯が終わると、次第に会場は騒がしくなってくる。
先ず詩乃さんの母親に挨拶に行こうと、近づいていくが、既に大勢の人に囲まれていた。
「うわっ、もう囲まれてるね」
俺がそう言うと、詩乃さんは大丈夫と返してきた。
「最初は、母さんと一緒に挨拶に回らないと行けないからね、琥珀君には悪いんだけど、その挨拶回りに付き合って貰う事になる」
「ああ、うん、わかった」
「でも、心配はしないでね、横に居てくれるだけで良いから」
俺はその言葉に頷く。……しかし、本当に横に居るだけで良いのか? まぁ余計な事をして迷惑を掛けるよりもいいだろうけど。
まぁ、仏頂面しておくよりか、笑顔で居る方が良いだろうから、笑顔を心がけておこう。
「母さん」
俺がそんなことを考えている内に、詩乃さんは母親を呼んでいた。
詩乃さんの呼ぶ声に反応し、母親はこちらに向かってくる。
遠目からは、なんとなくしか分からなかったが詩乃さんに良く似ている。いや、この場合詩乃さんが似ているのか……。
「あら? あらあら、まぁ」
こちらに来た詩乃さんの母親はそんな事を言いながら、俺の手を取り、そのまま甲にキスを落としてきた。
貴族っぽい仕草すぎる!
俺が、はぁ~と心の中で感心していると、詩乃さんの母親は俺に呟いてくる。
「どうかな、パーティの後時間を貰えない? 夕食を一緒に取りたいの」
食事はこのパーティにも、当然出ているから、コレの誘いは”一晩どう”ってことだろう……。こんな誘いも堂に入っており、感心するばかりだ。




