諍い
文化祭のスタートまで、後三十分程となった。各クラスとも自分のクラスで最後の確認をしていることだろう。
一年一組は体育館で、喫茶店を開くことから全員が既にそちらへと移動している。先ほどまで生徒会室にいた俺も、足早に現場へと向かっている。
今回の文化祭は男子たちも非常に協力的であったため、和やかな雰囲気で準備をすることができた。その為であろう、クラスの男子と女子の仲も狭まったように感じる。
だから、今の段階になって男子たちが問題を起こすことは少ないと思うのだが、如何せん近くには清明の催し物も開かれている。
もしかしたら、彼らとの間で揉め事が起きている可能性も少なくはない。その考えが浮かんでいるため、自然と足が速く動いてしまう。
そして体育館につくと何故か人が大勢集まっていた。この人数は近くで催し物を開くクラスや部活の人たちが集まっているのだろう。
先に男子たちの執事姿でも見ようとしているのかな? と不思議に思いながら進んでいくと、何故人が集まっているのか、その原因がわかった。
一組の男子と清明生徒たちが睨み合っていたのだ。
「おい挨拶はどうしたんだ?」
「そうだそうだ! 隣で俺たちのおこぼれにあずかろうしてるんだから、挨拶に来るのが当たり前だろう」
「はぁ……、これだから常識が無い奴等は……」
一組の男子たちが居丈高にそう言うと、清明の生徒たちはその言葉を嘲笑しながら言い返す。
「はぁ? 馬鹿なこというなよ。俺たちはお前たちの学校のお願いでここに来てやっているんだ」
「その通りだ。ならばお前たちの論理で行くと、俺たちに対して礼を尽くして貰わなければな」
「ほら、早く土下座でお礼言いなよ。感涙にふせってもいいからさ」
挑発とも取れる言葉に一組の男子たちはいきり立つ。
悲しいほどにチョロイ人間である。
「な、なんだと!」
「絢爛高校のトップに立つ僕たちに対してその言葉は許せないぞ!」
「覚悟はできてるんだろうな!?」
「覚悟? 一体何の覚悟が要るっていうんだ?」
「本当にな。絢爛高校のトップとか……ハハッ、笑わせないで欲しいな」
清明の生徒の一人が前に出て来た。
「いいか良く聞け! 俺たちは学校なんて狭い池での競争なんてしていない! 俺たちは清明男子高校には、この国で最高峰の男が集まっている! つまり俺達はこの国でのトップを争っているんだ!」
そう自信満々に言い放つ生徒に、周囲に集まっている女子生徒から『オオー』と感嘆の声が上がる。
……ちなみにこの女子たち、この男子たちの争いを止めようとは全くしていない。それどころかチワワとポメラニアンが戯れているのを微笑ましく見守っているか様な暖かい目を向けている。
中には、催し物の試作で作ったのであろうポップコーン片手に、見物している子もいるぐらいだ。
……確かに言い合いはしているが、お互いに暴力に訴えようとはしていない。気の済むまでさせるべきか悩む所である。
少し考えていると事態は動く。押されていた一組の男子から一人の生徒が前に出てくる。
「ハハッ面白いことを言うじゃないか」
「……福島?」
「まぁお前らにしては頑張ったな。後は俺に任せておけ」
「クッ……!」
福島の言葉に悔しげな顔をしながらも、一組の男子は一歩下がる。絢爛の生徒たちは、その様子に怪訝な顔をしながらも強気の言葉を放つ。
「誰が来ようとも一緒だろう? 俺たちがこの国のトップにいることは歴史が証明している」
その言葉に福島はクスクスと笑いながらポツリと呟いた。
「トップを証明……ねぇ」
嘲りを含んだその言葉に彼らは激昂する。
「……何が言いたい!」
「貴様……僕たちを舐めているのか!」
「底辺が僕たちに逆らう許せないな……」
挑発に乗った……。清明も大概だな。
そんな清明の生徒を前に福島はニヤニヤとした表情で言葉を続け、そして追い込まれてからの逆転が期待できる展開に周囲の女子たちの注目が強まる。
「いや何。ついこの間そのトップを決める戦いがあったじゃないか」
「ッ!!」
「そこで優勝したのは何を隠そう、うちの秦野琥珀だ。たしか……君たちの所の副会長も出ていた、と記憶しているが?」
「……!」
「そうそう! 名実ともにトップとなったのはアイツだ」
「歴史ではなく実力でのトップだな。実にわかりやすい」
福島の登場で、先ほどまで押されていたはずの一組の男子が息を吹き返す。そしてその逆に相手は悔しげな表情で耐えている。
周囲の女子からは『あの表情も中々……』『ご飯何杯でもいけるね!』などと評価されている。そして俺の名前が出たおかげで俺にも視線が集まってきた。
「クッ! 確かに秦野には遅れをとった。しかしこの文化祭では負けるつもりは無い! 心しておけ!」
「クックックッ。ええ、心しておきましょう」
一時的な敗北は認めても、戦意を失わず凄然と戻ろうとする清明の男子に女子たちは感心している。
こういう所が足りないんだよ。うちの男子たちは。
そう思ったのと同時に福島が彼らの背中に言い放つ。
「ああ、言い忘れていたが。秦野はこの一年一組で最弱なのだよ」
その言葉に相手はギョッとして勢いよく振り返った。その表情に気分を良くしたのか福島は声を大きくして続ける。
「奴はこのクラスにて一番情けなくてひ弱な男だが、そんな男でもあの大会ぐらいなら優勝できると思って俺が出したのだ」
「う、嘘だ! あんな極悪非道な人間がそういるはずない!」
あまりな評価に周囲の女子たちの視線が俺に集まる。
とても恥ずかしい。




