南方院雅はお願いする
「さて、いよいよ文化祭が始まる。みんなクラスの催し物に忙しいと思うが、生徒会メンバーはそれぞれ決められた時間に、見回りをして欲しい。また、そうでない時も何か問題が起こっていた場合は積極的に介入し、速やかに問題の解決を図ってくれ」
「……とまぁ、会長が厳しいことを言っているけど、別に見回りをしている最中に買い食いしてても怒らないからね」
「コラ!」
桂川副会長に小さく叱ると、真田会長はコホンと改めて言う。
「この文化祭は学外からも多くの人が来る。また、今回は清明男子高校との共催で注目が一際高い。問題が起きない様にみんな頑張ってくれ! そして、私たちも楽しもうじゃないか!」
その言葉に生徒会メンバーが一斉に『オーッ!』と声を挙げた。
そして皆、気合いの入った顔で生徒会室を出ていく。取り敢えずは自分のクラスに戻って、開場を待つことになる。
俺も皆に習い部屋を出ようとした瞬間、会長に呼び止められた。
「秦野くん」
「はい?」
会長はアーと言いづらそうな顔をしている。
「あれだ、隣に清明の人達がいるが、喧嘩をしないようにね」
どうやら会長は俺が揉め事を起こさないか心配しているようだ。
しかし会長は知っているだろうか? 俺が自分からは突っかかった事がないという事実を。
「まぁ、君だけでは無くて、君のクラスの男子を含めてなんだが、その辺も同じ男子として、注意しておいて欲しい」
……なるほど、確かに俺以外は問題を起こしそうな奴等が勢揃いしている。注目度の高い二つの執事喫茶が揉め事を起こすとか、目もあてられない事態である。
真田生徒会長の心配事に俺は胸を張って答える。
「わかりました。何か起きそうなら物理的に黙らせて見せましょう!」
「ああよろしく頼む。……物理?」
「じゃあ失礼します」
「えっ? あっ……」
俺はそう言って頭を下げて部屋を出ていった。生徒会長の了解を得たのだ。いざと言うときは遠慮無くやろう。
俺はそう思い、クラスの皆の所へと急いだ。
◆◆◆◆◆
「……桜?」
「…………」
「あの、桜さん?」
「何でしょうか? 雅様」
南方院雅は己の従者の顔色を窺いながら言う。
「私は絢爛高校の文化祭に行きたいんだが……」
「知っています」
「じゃあーー」
「しかし残念ながら雅様には南方院の跡取りとしての仕事がございます。ですので我々はこうして空港にいるのです」
わかっていますよね? と冷たい視線を従者が向けてくる。
「いや、そうだよ。そうかも知れないよ! でもこう……なんと言うか、私の第六感が囁くんだ。今回の文化祭には行くべきだと!」
「そうですか。仕事があって残念でしたね」
「だ、だから仕事の日程を少しずらせないかな?」
「駄目です。先方も忙しい身の上。この日を逃せばまたしばらくは時間が合いません」
そして冷たい視線を雅へと向け、さらに言葉を続ける。
「もしここで雅様が仕事を放り出して絢爛高校の文化祭へ行ったならば……」
「行ったならば……?」
ゴクリと唾を飲み込む雅。
「真面目な秦野様はこう思うでしょう。『ダメ人間、本当使えないなこの女』」
「ハウッ!」
「そして一度そう思われたらおしまいです。秦野様の思考は先へと進みます。……仕事を放り出す、こんな無責任な人が将来の南方院を継ぐのか? もしかして南方院の未来は暗い? この人と結婚したら自分が苦労するのでは? ……良し、南方院雅とはお付き合いやめよう。幸い自分には東華宮も西華宮もいることだし」
「ノーッ!」
「そして、その噂は周囲へと飛び火をします。なんたって相手は男子王と呼ばれる今注目の人物です」
「こ、琥珀君はそんなこと言わなーー」
「彼の周りには将来性豊かな娘達が多くいます。無責任で将来性を不安にさせるような人を選ぶとお思いですか? 男性が女性に対して求めるのは金、地位、名誉……そして若さです。雅様は他のお嬢様方に比べて年増なのですから、それ以外で取り返さなくては駄目です」
「年増……」
雅がその言葉にショックを受けているが、桜はそれを無視して言葉を続ける。
「そしてそれに加えて、どれだけ自分に尽くしてくれるか、どれだけワガママを聞いてくれるかが重要なんです。俗にいう包容力です」
はぁ、とため息を吐いて、従者である桜が主人である雅に対して『わかってないなぁ』という視線を向ける。
「ううっ……。つまり桜はキチンと仕事をしろって言いたいんだろ?」
「少し違います。私は仕事をし、なおかつ成功を収めて下さいと申し上げているんです。そうすれば、できる大人の女性として秦野様にアピールできるというもの」
「くっ……わかった。仕事に行く」
その言葉に桜は満足そうに頷く。
「しかし、桜は男性の気持ちを良くわかっているんだな。もしかして経験豊富なのかな?」
「雅様、早く支度をしてください。時間が迫ってますよ。無駄話をする暇はありません」
「ええっ! 桜の男性経験を聞かせてよ!」
「ホラ早く。時間は待ってくれませんよ」
ホラ早く、と雅は急かされ、先ほどの質問の答えを聞くことが出来なかった。




